台風
まいった
今度ばかりは本物だ
奴も本気でかかってきてる
幸運なし、ドラマ無しの台風
何一つまともな物なんか残らない
風に飛ばされ、雨に流され
何もかにもを失った
俺に残されたのは
疲れた心を慰める自分だけ
風がうなる
どこか遠くで何かを吹き飛ばしてる
「一人残らず消えちまえ」 と言われてるみたいに、
誰もが歩道の壁に押しつけられる
聞こえて来るどんな音だって
台風がひきおこしてる
台風が運んでる
俺のもとへ
雨もばらまかれる
もう全身が水没中
傘の隙間から
びくついた潜望鏡みたいに
限られた視界をたどるだけ
足下くらいは見えるだろう
目の前の、一歩先、二歩先だってみえるかも
一歩一歩連れて行かれるように
たった一つしかない地点に向かうだけ
言い訳なんか使えない
自分をごまかす事すらできない
それができないのは
現実感のない現実のただなかに
今自分がいるから
今君がいるから