おハヤヤ様(3)

 

 

 美菜が携帯の契約を切ったのはそれから3日後。迷いに迷った末の頃だった。周りの友達も驚いていたし、彼もむろん驚いた。それでも美菜は誰にも理由を言わなかった。気恥ずかしさもあったけれど、おハヤヤ様の御神託は他の人に話してしまうと、効果が無くなってしまうような気がしたからだ。

 彼は美菜が携帯を解約した翌日に電話をしてきて、近所の公園で会ってくれた。当然その時も理由を聞かれたけど、彼には、「携帯があるとあんまりあなたと会えないような気がするから」と説明しておいた。彼はそれを聞いてしばらく何か考えていたようだけど、信じてくれたみたい。なぜならそれから、直接彼に会う機会が増えたような気がするから。ぎくしゃくしてた彼との関係も少し良くなったような気がする。携帯が無くなって、会っていない時の彼の様子はわからなくなったけど、なぜか前ほど不安にならなくなった。

 友達も、美菜が携帯をやめた理由を知りたがった。友達には「なんとなく面倒になったから」とだけ説明しておいた。さきちゃんも不思議そうな顔をしていたけれど、彼女が話したことがきっかけだとは思ってもいないみたいだった。みんな、美菜の説明を聞いて今一つわからなそうな顔をしていたけど、もともと携帯を持つのが遅かった美菜のことだったので、前と同じようになっただけ。「不便になった」と文句を言う子もいたけど、そのうち気にならなくなったようだった。

 おハヤヤ様の言葉に従って携帯を捨て、おかげで一番の悩みだった彼との仲は良くなった。今でも時折、電車やバスで、おハヤヤ様を呼ぼうと熱心に祈っている人を見かける。つながるといいね、と思いながら美菜はそんな人たちを眺めるようになった。

 そんなある日、美菜は新しい携帯電話を買った。彼にも友達にも内緒で。普段も持ち歩いてはいない。確かに、携帯を捨ててから彼との関係も良くなった。おハヤヤ様の言葉に従ったおかげ。でも、携帯が無ければ、おハヤヤ様にお伺いを立てられないじゃない。  だから今でも、美菜の家の机には、小さな携帯電話が一つ、電源も入れずに置いてある。

 

END

 

 

 

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