読み週記 11月

 

第4週(11/26〜12/2)

 月曜に飲みに行くと、更新できないので注意。んで、そのことに火曜の遅くに気付くと更新もおざなりになるのでさらに注意。

 とにかく菊池光が読みたい!という強烈な願望により、ロス・トーマス『五百万ドルの迷宮』(ハヤカワ文庫)をアマゾンで購入。ホントに便利。
 マルコス大統領がいなくなった後のフィリピン。新人民軍の指導者、アレハンドロ・エスピリトを500万ドルで香港に亡命させる、という依頼を受けたテロリズムの専門家と、彼が集めた海千山千のメンバー達。彼らが織りなすコン・ゲーム。とにかくそれぞれがそれぞれの思惑を持ち、誰が仲間か、というより、誰がいつ裏切りに成功するのか、という雰囲気さえ漂う不思議なシチュエーション。ジェフリー・アーチャー『百万ドルをとり返せ!』(新潮文庫)の逆バージョン、といった趣だ。
 とにかく菊池光がしっくり。ただその言葉の流れに実を浸しているだけで幸せになれる。

 最近、仕事で疲れていたり、嫌なことがあったりすると、本屋に足が向かいがちな自分を発見。ストレス解消作戦でもあるらしい。とにかく本屋に向かう、というだけで気持ちがうきうきする。かくして未読の本は溜まっていくのである。

 

第3週(11/19〜11/25)

 今週は連休があったり、その中に用事があったりで、リズムの狂いがちな週だった。こんな時に限って、面白い本に当たって思わぬ夜更かしをしてしまう。休みでゆっくり寝た夜に面白い本で夜更かしをして、翌朝は早かったりして後悔する、という悪循環。だが、「翌朝早いのに・・・」と思いながら面白さのためにページをめくる動作が止まらず、気付いたら明け方に本を読み終わり、悔恨に似た胸のうずきと、興奮さめやらぬ幸せに浸りながら、一抹の罪悪感とともに次の本を手にとって読み始めるときの快感は、ちょっとやめられない。

 ヴァージニア州の小さな田舎町クロゼットの郵便局長ハリーと、彼女の飼い猫ミセス・マーフィーが主人公のミステリシリーズ「トラ猫ミセス・マーフィーシリーズ」の最新刊『森で昼寝する猫』(ハヤカワ文庫)は、ある日現れたバイカーの死体で事件がスタートする。ハリーの元夫である獣医のフェアと、シリーズ第1作で町に住むことになったモデルのブレアとの三角関係がさらに深刻になる中、ナショナルクロゼット銀行のノーマンと妻アイシャ、元恋人のケリーとの三角関係、さらには銀行に仕掛けられたウィルスなどが絡みつつ、物語は進展していく。
 シリーズの魅力は、マーフィーや相棒の犬のタッカー、郵便局の隣の食品店で買われているピュータ、といった動物たちの存在もさることながら、シリーズを通して登場し、次第に愛着が湧いていくクロゼットの住人達にある。町の雰囲気自体がシリーズを買い続ける要因となるところが、この手の「小さな町」を扱ったシリーズの楽しみだ。住人達が自分への郵便を取るために毎日のように足を運ぶ郵便局の局長、という主人公の設定が巧み。皆がそこに来るので、主人公のハリーは、噂や憶測が飛び交い、私生活さえも守られない町の、一種の中心にいることになる。舞台と魅力的なキャラクターがウリ。

 宮本輝『草原の椅子』(幻冬舎文庫)上下巻は、仕事上での知り合いから、無二の親友になったカメラメーカーの遠間憲太郎、カメラの販売店の経営者である富樫重蔵の2人の友情を中心に描かれる。ともに5と人生の半ば、仕事上のキャリアでは、徐々に終盤にさしかかる、という微妙な年齢で、それぞれの体験から人生について考え直すことになる。
 震災の体験を経た著者が、日本という国を問い直し、怒りを感じているのはよくわかる。ただ、やっぱり宮本輝に延々と国の現在や未来について説教を垂れられているような、なんとなく少しうんざりしたような気持ちにさせられる瞬間がある。
 だが、物語は単純な国家批判のためのものではなかった。2人の人生に現れ、時には消えていく様々な人物達との出会いを通して、物語は遠大な旅立ちへと進んでいく。話が進めば進むほど、どんどん止まらなくなっていき、もはや閉じることが出来ない。そんな感覚に気付いたら取り込まれていた。上巻に登場する、草原におかれた一脚の椅子の映像が、下巻にどのようになっていくのか。ラストにたどり着いた時のたまらない充足感と読後感は素晴らしい。

 読み終えた本を閉じる時の寂しさ、というのは、強ければ強いほどその本が面白かった、という証だ。それがわかっているからこそ、再びその寂しさを厭わぬ読書が出来る。でも、そのたびにやはり胸を締め付けられるような思いがする。その出会った本の喜びと快感がいつまでも続いて欲しいと思うのだ。だから本を読むのはやめられない。

 

第2週(11/12〜11/18)

 予定外の外出で電車に乗ることがたまにある。基本的に出かけるのは好きではないが、このところは、それにちょっとした楽しみがある。普段電車で仕事に行くときは、電車に乗っている時間が短いのであまり本が読めない。少し離れた所まで電車に乗って嬉しいのは、家以外でゆっくりと本を読むチャンスになるからだ。読めるかどうか、がいろんなシーンでの楽しみの基準になっている。

 ジョディ・シールズ『イチジクを喰った女』(ハヤカワ文庫)は、フロイトの「ドラの症例」のドラをヒントに得た女性が、ウィーンの公園で死体となって発見される所から物語は始まる。1900年代初頭のウィーンが舞台になっていて、現代の犯罪捜査の黎明期。科学的な手法と、犯罪心理学を取り入れた<警部>と、その妻が、それぞれの考えの中で捜査を進めていく。
 町の情景や、ジプシー達の迷信、タロットカードなど、幻想的なアイテムがちりばめられて、一風変わった雰囲気で、霧がかかったようなイメージの中で物語が進む。ちょっと変わった警部の妻、エルスベーゼと彼女の協力者のウォリーの2人の捜査は、警部が家に持ち帰った、ドラが死ぬ直前に食べたと思われるイチジクの実を中心に進められる。
 伝奇的色合いと、落ち着いた筆致の物語。没入すればするほど、幻想的な世界にとりこまれていく感覚が味わえる。

 サリー・ライト『難事件鑑定人』(ハヤカワ文庫)は、大学の記録保管人、という仕事をしているベンが主人公。学者でもあった死んだ女性資産家から、遺産を託された教え子から、女性資産家が実は殺されたのでは、という疑いのある事件の調査を依頼される。
 記録保管人、というあまり知られていない職種の主人公を使って、様々な専門知識をちりばめながら、事件の全貌が明らかになっていく。主人公の職業的な個性が、終盤のピンチになってようやくかいま見えるのが、今更感があって残念。

 「スペンサーシリーズ」の文庫最新作、ロバート・B・パーカー『歩く影』(ハヤカワ文庫)では、恋人スーザンが理事を務める劇団で起きた殺人事件を、スペンサーが調査する。中国人のギャングの支配下にある地域で、事件の調査を始めるなり命を狙われることになったスペンサーは、いつものホークに加え、ジョウ・ブロズの元を離れた、ヴィニィ・モリスを助っ人に従え、調査を始める。
 ホーク、ヴィニィのクールな仕事ぶりが楽しい一作で、相変わらずのスペンサー節。とにかく意地を曲げないスペンサーが快感なシリーズだ。

 電車に乗るときには、いすに座ろうがどうしようがあまり気にしなかったのだが、年のせいか、本を読むとなると、いすの誘惑が感じられるようになってきた。それだけ本に集中するのが難しくなってきているのではないか思う。つり革につかまったり、乗ってくる人々にぶつからないようにするのが面倒くさい。どうもこのところ、以前にもまして面倒くさがりになってしまったようだ。

 

第1週(11/5〜11/11)

 11月の幕開けを告げる記念すべき週は、0冊である。なんというか恐ろしいことだ。夜遊びが過ぎる、という説もあるが、なんとなく現実逃避をしたくなると「オレはただ本だけ読んでいれば良いのに!」と叫びたくなったりするのでやっかいだ。なんにせよ、今週は何も無し。読み週記の更新もこれだけである。はは。