読み週記 1月

 

第5週(1/28〜2/3)

 今週は一冊もなし。更新する必要もないくらいの読み週記である。やはり冬になると眠くて、朝は辛いし、夜はすぐに眠くなる。こんな時期に、布団用と出かける時様に本を分けたものだから、いつまで経っても読み終わらない。やむを得ず、という感じである。

 俺は電車に乗っている時間が短いので、本に集中した頃に駅に着いてしまって、なかなか入り込めない。そのせいで、せっかくの情感がずいぶんだいなしになっているのではないかと思うことがある。1冊でも多くの本を読みたい、という欲求と、一冊の本を堪能し尽くしたい、という欲求がなかなかかみ合わないのは、あるいは凄くもったいないことではないだろうか。

 

第4週(1/21〜1/27)

 風邪をひきまくり。もはや治っている状態とそうでない状態の区別も付かなくなってきている。そんな状態でありながらも、久々に一日風邪で寝込みつつ布団で本を読む、という一日を過ごした。幸せ。

 アガサ・クリスティの短編集『マン島の黄金』(早川書房)を読む。ポアロ、クィンのミステリから、クリスティには珍しい恋愛物まで、幅広い内容。「埋もれていた幻の作品を主に集めた」と謳われていた物の、ポアロのは全部テレビでやってたぞ、と。
 ミステリ以外の作品は、クリスティらしい、懐かしい雰囲気の漂ったエンターテインメント。落ちが読めるのもご愛敬で、かつての読書体験を再び味わい場合は楽しめるかも。画家の哀しい結婚生活を描いた「壁の中」はよかった。

 画家つながりでむりやりつなげるわけではないけど、久々文庫新刊のディック・フランシス『不屈』(ハヤカワ文庫)の主人公の職業は画家。伯爵の一族に連なりながらも、人里離れた山奥で絵を描く生活に浸っていた主人公が、「義父が倒れた」というメッセージをきっかけに、事件に巻き込まれる。
 毎回様々な職業人を描き、それぞれの押さえがたい衝動や、仕事にむけての情熱が見事に表されているのが楽しい。
 そしていつもながら、菊池光。読んだ後、しばらく頭の中の思考が菊池節になる強力な伝染力。たのしい。

 一日の休みを本だけで使うのは本当に贅沢だ。それだけに、なかなかできるものではない。かなしい。

 

第3週(1/14〜1/20)

 風邪をひいたり治ったり、またひき返したり、と落ち着かない日々。小さい頃は風邪で学校を休んで、一日家で本を読んだり寝たりしているのが幸せだったけど、この年になると、風邪をひいたからと言って、一日を寝て過ごすのはなんだかもったい無い気がして、そんな幸せも味わえなくなった。

 浅田次郎の『プリズンホテル』(集英社文庫)、最終巻の4は「春」だ。シリーズを通しての主人公、木戸孝之介の納まり方には賛否両論だと思うが、養母富江とのエピソードは確実に涙を誘う。機械のミスで50年に及ぶ驚異的な懲役を終えた侠客のエピソードとともに、すっかり壊れたプリズンホテルは、シリーズの大団円にふさわしいはじけぶり。

 頭が働かない時期に、ちょっと難しめの本なんかを読むと、ちっとも先に進まない。ついつい力の入らない読書になりがちなのに、そんな時にかぎって面白そうな本が沢山。人生とはままならぬものだ。

 

第2週(1/7〜1/13)

 家の近所に気に入っているラーメン屋があり、時々そこで夜に飯を食う。店には行ってすぐにはラーメンは頼まず、ビールと餃子を注文。イヤホンから流れるジャズを聞き流しながら、ビールを飲みのみ本を読む。「おやじくさい」と言わば言え。そんな過ごし方が幸せな瞬間がある。
 イヤホンを耳に入れたまま食事をするのは難しい。というのも、耳がふさがれているせいで、租借する音がもろに頭の中に響いてしまうからだ。そんな品のないノイズに阻まれては、ソニー・ロリンズもリー・モーガンもない。もちろんチャーシュー麺もみそラーメンも台無しである。
 ところが、先駆けビールで程良く酔い、夢中になって入り込めるような本がそこにあれば、脳味噌は夢うつつ。 本に入り込んだまま音楽に囲まれて餃子を食い、さらなるビールとともにラーメンをすする。もはや体内のリズムになど無頓着になれる。良い音楽と良い本。なかなか一緒に満喫するのはむずかしいが、良い酒があれば、どんな場所にいようとも、心地よいデュオになる。


 祝日を言い訳に休むつもりでいた読み週記をあえて週の半ばに書くことにしたのは、ようやく時間がとれたと事と、この本について書かなければならない、と強く感じたからだ。
 宮部みゆき『模倣犯』(小学館)上下について書いておかねばならないと思ったのは、ずいぶん前にこのページで宮部みゆきを酷評したことがあるからだ。もちろんそれ以降も、ことあるごとに宮部作品については冷たい視線を放ち続けていた。というのもたまたま買った『パーフェクトブルー』()の出来がすこぶる悪く、そのころすでに評判になっていた作家だけに、失望度がでかかったからだ。
 だから宮部みゆきが直木賞作家になったときも「あんなインチキ赤川次郎みたいな人が、直木賞?」とかいってまったく取り合わなかった。
 ところが知人から「まあ読んでも損はない」と言われて手に取った『模倣犯』で評価は一編。絶賛するような作家では無いと思うけど、素晴らしい作家であるのは確かだと思えたのだ。たった一冊で評価を固めてしまって申し訳ないなぁ、という自戒の意味も含めて、ここに書いておくことにした。
 連続婦女誘拐殺人事件が題材になった小説で、幾人かめぼしいキャラクターもあるもののの、特別面白いともなんともつかぬ気分で読み進んでいた。ところがこれが何とも、下巻に進むに連れて面白くなってくるからすごい。女性ジャーナリストと、別の事件の被害者の少年を通して語られる心の揺さぶり、そして、殺人事件の被害者の祖父の造形は、読み手を引きつけてやまない。やたらと内省的な若い世代に対する彼のセリフは秀逸。
  改めて宮部みゆきを追いかけようとまでは思わないものの、さんざん馬鹿にしてすいません。

 浅田次郎『プリズンホテル』(集英社文庫)の3巻は「冬」。真冬のプリズンホテルに訪れる様々な珍客を描いた騒動も、シリーズの終盤に向かっている。
 このシリーズ、ハッキリ言ってだんだん普通の娯楽小説になって行っている。次第に明らかになり、且つ成長を始めるシリーズの主人公木戸孝之助のキャラクターを含め、徐々にそのエピソードが惰性で語られているような印象を持ってしまうのに含め、3巻での主人公達の造形もまた、今ひとつ深まりがない感じ。
 しかしだからと言って、つまらない本かというとそんなことはない。シリーズゆえの効能か、電車で本を読みながら、久々に目頭が熱くなってしまった。あまりにもベタなシーンの一つ一つが、いかにエネルギーを持って語られているか。浅田次郎という作家の確かなクオリティが、ここで確認できる。

 
 ラーメン屋の一人客で、食後の一服を堪能していくお客さんがどれくらいいるのかわからない。なんとなく不自然な気持ちでその一服を吸うのも、満足した気分を、最後にやはり少し本を読んで締めたい、という気持ちが働くからだ。どこか哀しさすら感じさせる小さな幸せながら、読んでいる本が面白ければ面白いほど、充実した気持ちが味わえる。


第1週(12/31〜1/6)

 新年幕開けの読み週記は、いささか不調。新年記念の夜遊びのしすぎで、年末に比べて、年始から向こう、ほとんど本が読めなかった。もっとも、年越し自体は今年は充実。ぐったりして仕事に向かう日々。

 読めば読むほど幸せになる浅田次郎の『プリズンホテル』(集英社文庫)の2巻は「秋」だ。美しい紅葉に包まれたプリズンホテルに訪れたのは、兄貴分の罪をカブって服役する若手の壮行会のために集まった大曽根一家と、低予算から少ない選択肢でプリズンホテルに来ることになってしまった、警察の職場旅行。あっと驚くような意外な取り合わせも、仲蔵親分の懐の中で暖かな時間を過ごすことになる。
 第1作でキャラクター達の紹介も済み、いよいよ物語はダメダメ小説家、孝之介の成長を軸としたシリーズ本来のテーマを中心にして進んでいく。浅田次郎の筆によって、ベタなドタバタや、ほろりと来るような展開もすんなりと読み手の心に伝わってくる。うるさいことを言わず、静かにその世界にどっぷりつかるべし。

 年末年始の休みで、どっぷりと深夜まで読書に浸かる生活の喜びを思い出した。せっかく弾みがついたところでまたふだんの生活に戻ってしまうのも残念な気がするが、その興奮の余勢を駆って、久しぶりに本を買い込みに行ってきた。諸事情により、今回はお茶の水の三省堂。これまた諸事情により、思いの外ゆっくりと本を探すことは出来なかったけど、何冊か収穫もあり、今から楽しみだ。今年もどんどん読んでいこう!