読み週記 6月

 

第4週(6/24〜6/30)

 今月の読み週記はワールドカップ開催期間中のため、第4週のみ。更新しないまでも、本は読んでいたはずだが、あまり覚えていない、ということにする。とにかくワールドカップだったのだ。

 デイヴ・エガーズ『驚くべき天才の胸もはりさけんばかりの奮闘記』(文芸春秋)という長いタイトルの一冊は、短い期間に両親を亡くした著者が、小さな弟を育てながら社会にでていく物語。自意識満載の語り口とユーモラスなふざけたような話の進み具合から、物語にある深刻さみたいなものがむしろ陰に隠れるようになっている。
 思わず苦笑してしまうような著者の自意識の発露が、若い世代の代表的な特徴と思うのも悔しいが、一つの側面としてあることは否めない。なんだろう、この感覚、と思いながら最後まで読んでいた。世代によってはいらだちを、世代によっては共感とそれに近い痛みを伴わないでもない作品。

 高野史緒『ムジカ・マキーナ』(ハヤカワ文庫)は、19世紀終盤に生み出された、機械で音楽を奏でるシステムを使った、音楽SF。主人公がやけに格好いいあたりとか、ジュニアっぽい雰囲気も醸し出してはいるけど、物語はしっかりつくりこまれているし、なにより著者の音楽への想いが十分に表現されているのが嬉しい一冊。音楽に全然興味のない人には喜べないジャンルだとは思うけど、少しでもはまりそうな人は注目。同じ著者の作品も読みたくなる。

 辻原登『遊動亭円木』(文芸春秋)は、糖尿病によってほとんど視力を失い、妹夫婦の持っているマンションに居候することにした、引退落語家の物語。マンションの住人や、引退後も彼を後援し続ける人物、旅先で出会った人々などに囲まれた円木と、彼らを取り巻く幻想的な世界が魅力的。どこか現実離れしたような描写と文章のテンポが独特で、ゆらゆらとたゆたうように読み、かつページの中に生息したくなるような一冊だった。

 ワールドカップ前後から、書店でワールドカップ関係の本を大量に見かけるようになった。各スポーツ雑誌の版元から出版されているものから、選手のエッセイや選手評など様々。どれと言って手に取りたいと思うような物はないんだけど、これらの本が売れているようなら、出版業界にもサッカーの経済効果があった、ということなのか。その実態を誰か調べてくれないだろうか。