読み週記 3月

 

第4週(3/25〜3/31)

 日常の中で本を読むというのは、思いの外ゆっくり時間がとれたりするわけではなく、読みたい本と日々のペースを比べると、気が重くなることがある。そんなことを考えること自体がずいぶん非生産的な事で、その暇を使って読んだらすむ話なのだ。
 一方で、たまたま夜更かしができるような状況で、面白い本に当たったときほど、ただひたすら本を読んでいる時はない。最高に幸せな時のひとつである。

 解説でも引き合いに出されている、キングの『スタンド・バイ・ミー』やマキャモンの『少年時代』を思い出させるようなストーリーが序盤に展開される、ジョー・R・ランズデール『ボトムズ』(早川書房)は、病院で自分の子供時代を回顧する老人が語る物語だ。ストレートの白人ハップと、ゲイの黒人コリンズの異色コンビで楽しませてくれる『ムーチョ・モージョ』(角川文庫)など一連のシリーズの著者で、『本の雑誌』(本の雑誌社)などでは、再三その日本での評価の低さに疑問符がつけられていた。この作品でようやく日本での知名度が上がり始めた様子。
 南部の人種差別はランズデールの大きなテーマであり、この作品も、奴隷制度は廃止された物の、やはり地域には黒人差別が根強く残る南部の、ボトムズ(低湿地)際の小さな町での物語。主人公の少年ハリーの父親は、町の理髪店の店主でもあり、治安官を兼務している。ある黒人女性の惨殺死体をハリーが発見することから、物語は展開していく。人種差別の激しい地域の中で、公正、公平であろうと常に戦いながら事件解決をめざす父親と、父親の姿を見続ける少年。
 中盤、家族が大きな壁にあたるあたりに登場する、母親方のおばあちゃんのキャラクターが圧倒的。小さな竜巻のような彼女の登場をきっかけに、物語は加速度的にスピード感を増していく。ここまで来たら、あとは一気にゴールに向けて突き進む、抜群のリーダビリティで、途中で本を置くのが難しくなる傑作だ。

 本がなかなか読めないとき、溜まっている未読の本の山で心が重くなることがある。逆に、明け方にかけて狂ったように本を読み続け、最後のページを読み終え、その余韻に浸りながらその山を見ると、今度はその山が幸せの象徴のように感じられる。なんと身勝手な話か。

 

第3週(3/18〜3/24)

 雑然とした日々のピークは去ったようにも思えるが、相変わらず夜になるともうエネルギーが無く、本を読む元気がなくなってしまうことが多い。本を読むことが精神的な健康度のバロメーターだとなんとなく勝手に解釈して、ちょっとぐったりする。

 吉田一彦『CIAを創った男 ウィリアム・ドノバン』(PHP文庫)は、その題名の通りの評伝。第2次大戦中、今のCIAの全身であるOSS(戦略事務局)を設立し、後の国家の中央情報局をつくろうと目論んだ、ウィリアム・ドノバンの半生が描かれている。
 それはドノバンの政治的な、あるいは情報機関のトップとしての戦いの日々であると同時に、第2次大戦の背後で行われていた情報戦争の記録でもある。戦勝国として、特に日本にとっては戦後の歴史を規定した相手でもあるアメリカ。しかし、情報局の組織の面では、当時まだイギリスなどの列強に大きく後れをとっていた。第2次大戦以降、ソビエトと並んで世界の超大国になるためにアメリカがいかなる戦略を採ってきたのか。それらがここに示されていて、水面下で行われていた第2次大戦の枢軸国との戦いと、その後の冷戦への準備など、歴史の裏話が満載風で楽しい。

 桜も咲いてだんだん暖かくなり、コートを脱ぐ日が近づいてきた。こうなると、ポケットに文庫本を入れて出歩くことができなくなるため、本を読むにも面倒な季節になってきた。一年の大半がその季節な訳だけど、何となく読めない日々が続いているだけに困ったことだ。

 

第1、2週(3/4〜3/17)

 何となくスゴしているウチに、先週中に読み週記の更新ができなかった。びっくり。更新ができなかっただけでなく、全然読んでいない。たまたま読むのに時間のかかる本が多かったこともあるけど、眠かったり、色々な事があったりで、スムーズに行かない日々がつついていたのかも。何をおいても本を読む、というスタンスが削がれつつある近年。

 ジュンク堂にあった自由価格本コーナーで発見した、半額の雑誌『GQ japan』(嶋中書店)を拾い読み。結局なんの雑誌なのかよくわからなかったりしてダメな俺をアピール。読んだのは2001.5月号と9月号。前者の特集は「だからJAZZ」というもので、サッチモ、ビリーホリディの自伝からの抜粋やら、名盤のなどで特に真新しさもない感じ。
 後者のミステリ特集はもうちょっと面白くて、都市に焦点を当てて、モース、メグレ、ポアロ、マット・スカダーを取り上げる。ミステリの歴史と、ジャンルごとの名作を特集。面白そうな本にかぎってamazon.comに置いていない謎含み。
 その他の記事は何となく我慢の心境で読み進む。面白いやら面白くないやら。連載の対談、田中康夫と浅田彰の「新・憂国呆談」はつまらない。

 『本の雑誌』(本の雑誌社)4月号は、珍しくあまり収穫無し。どうもパワーダウンの一途をたどっている気がするけど、業界人の対談関係は面白い。かなり独特の世界の様子で不思議。書店で見かけた高橋源一郎の2作、『官能小説家』(朝日新聞社)と『ゴヂラ』(新潮社)を大森望が取り上げていて、迷った末に買った方の評価が低くてぐったり。

 このところ、本を読む合間に雑誌やマンガの再読ばかりしていたので、さっぱり本が読めない。どうもじっくり本に向かう気力が減退しているらしい。仕切直しを図りまくる。