読み週記 3月

 

第1週(3/7〜3/14)

 ディズニーで映画化するC・S・ルイス『ナルニア国物語』(岩波書店)をめぐって版元は猛りまくっているらしい。ハリーポッター、指輪物語に続くような大ベストセラーが映画によってもたらされ、ファンタジーブームに乗っかろう、という腹なんだろうと思う。シリーズ続けて映画化されることもあり、相当長い間のビッグセリングを期待しているらしい。なるほどファンタジーの傑作で、思い出してもエンデの『はてしない物語』(岩波書店)、トールキンの『指輪物語』(評論社)、ル=グウィン『ゲド戦記』(岩波書店)の4つが個人的なファンタジーのベストだと思ってるので、こうやって再びクローズアップされるのは嬉しい。夢中になって読んだ小中学の頃が思い出される。でもなぜかそんな風にして売れてしまうことに抵抗を感じるのはなぜだろうか。

 ヘンリー・ポーター『スパイズ・ライフ』(新潮文庫)上巻はMI6を退職し、国連職員として働いているハーランドが、自分の過去の記憶とつながる国際スパイ界に影響を与える事件の渦中に身を投じていく物語。MI6と聞くとついバンコランを思い出しちゃうのはともかく、現代的なスパイ小説として新しく読める。東西の冷戦が終結し、スパイたちの仕事も変わってきている。というか、普通にハードボイルド物って感じで、「うわあ、スパイだ」って感じがあんまりないのはなぜだろうか。「スパイ小説」たる味付けっていろいろあると思うんだけど(ザ・バード、メイシー・ハープの二人組みとか)、それがどうもいかにも、な匂いを感じさせないのだ。スパイの時代は終わった、なんて感じにならないといいんだけど、と上巻を振り返ってみてふと思う。

 書店に並ぶ本の腰巻に「映画化!」って書いてあると購買欲が減るのは、このナルニア騒ぎと関係があるんだろうか。指輪物語が映画化されるときも抵抗があって、信頼できる仲間内の評価を聞いて観たら想像以上に良くて感動した、という経験があるが、今度はどうだろうか。映画化される文学、に対する抵抗もあるし、自分の過去の読書体験が商業ベースで盛んに取りざたされることに抵抗があるのかもしれない。「『ナルニア国物語」っていうのはなぁ』みたいな、自分の思い入れで語り、新しいものを認めないおやじ心が湧き上るのか。うむむ。本が売れて出版会が盛り上がるのは歓迎すべきことなんだけどなぁ。