読み週記 6

 

第4週(6/25〜7/1)

 久々にゆっくり寝られる日が時折あってありがたい。問題はその日の夜眠れなくなってしまうこと。せっかくの寝貯めがちっとも活かされないのだ。この問題はもう何年にもわたる大問題だと、個人的には思うのだが、あまり人に言えないのが難点。

 大橋ツヨシ『プ〜一族』(竹書房)は、題名を読んでもしばらく気付かなかったが、ようするにプータロー5人組を主人公にした4コママンガ。期待して読んだのに、著者の色んな考えを登場人物に語らせるエピソードが多く、大橋ツヨシの味であるナンセンスなギャグとか間とかは二の次になってしまっている印象。残念ながら著者の見解にはあんまり興味がないので、今ひとつ楽しめない。あれだけ面白いマンガを書く人なのに、意見は普通になってしまうのはどういうことか。

 野地秩嘉『ビートルズを呼んだ男』(幻冬舎文庫)は、ビートルズの来日公演をしかけたプロモーターである、永島達司の物語。この本が単行本で出版された当時、友達の車に乗っていてこの人の話をラジオで散々聴いたことがある。どうもラジオで話される話は、必要以上に淡々として聞こえて今ひとつなんだけど、その時にもこの永島達司という「呼び屋」の人柄について多くの時間が割かれていた。誠実でインチキをしない、「侍」的なイメージのある永島。プロとしてどうであるかはともかく、職業人として、その人格が重要な要素であった、というのは、未だに価値を失わない話だ。
 当時からそれ以降に至る、音楽業界の様子なども描かれていて、とにかく面白い。巻末の解説にもあるとおり、ビートルズの来日公演についての本はこの一冊で十分だ。

 何よりも大事な睡眠時間だが、思うように貯めたり使ったり出来ない物だろうか。「睡眠銀行」なんて物があるとこれは便利だと思うんだけど。夏休み(ほとんど無いけど)に寝だめをして、普段その貯金を少しずつ使って夜遊びするとかできると良いのに。

 

第3週(6/18〜6/24)

 なぜか一時期、妙に自分の中で映画が流行る時期があり、しょっちゅう映画館に足を向ける。その後しばらくぱったりと行かなくなるが、しばらくしているとまたそういう時期が来るのだ。たまたま興味のある映画が同時に掛かることが多く、その波があるだけなのかもしれないが、このところ少しそう言う時期があった。なんとなくその時期が一区切り着いた気がする。今回は「スターリングラード」と「ショコラ」、「ギター弾きの恋」を続けざまに観た。ウディ・アレン監督で、俺の好きなショーン・ペンが主演した「ギター弾きの恋」が映画としては一番好きだったが、「ショコラ」の主演女優ジュリエット・ビノシュのキュートさは印象に残った。「あんな風に年を取れたらいいのに」と言っている人がいたが、女性の可愛さは年齢とは関係がないのだと再認識。女性とは本当に不思議な生き物だ。

 天藤真『遠きに目ありて』(創元推理文庫)は、天藤の文庫全集の1冊目。前に読んだ『大誘拐』(創元推理文庫)があまりに良かったので、続けて読んでみることにしたのだ。古典的といえば古典的。重度の脳性麻痺の少年が安楽椅子探偵役で、ふとしたことから彼と知り合った捜査主任警部が、彼の元で事件の真相を知る、という連作短編集。本格物の定石的な感があるが、古いとはいえ、しっかりしていて楽しめる。小説を書きたがる俺だが、推理小説、得に本格物だけは絶対に書けない自信がある。どうしてこんな謎やらトリックやらを思いつくのか不思議でならない。この手の短編だと、なおさらちょっとしたトリックのうまさが際だつ。昔、推理小説を書こうと思って、当時好きだった赤川次郎の「三毛猫ホームズシリーズ」を盗んで推理小説を作ったことがあるが、酷いトリックを使った記憶がある。そう言えば、口述筆記しようと思ってテープに録ったんだけど、あのテープはどこに行ったんだろう。

 映画というとどうしても役者で観ることが多い。なんとなく監督で観る方がより通っぽい感じがするんだけど、まあいいか。映画といえば、面白い映画であったほど、劇場で売っているプログラムが欲しくなる。「ショコラ」のプログラムではジュリエット・ビノシュの可愛さは不十分にしか伝わらないが、「ギター弾きの恋」のサマンサ・モートンには良い写真がある。口の利けない女性、という役の彼女。その分口を使うのか、とにかく食べるシーンが多い。常に何かを食べていて、それがまた、彼女のキュートな役柄を見事に演出していて良い。プログラムにも、彼女が歩きながら綿菓子をパクつくシーンが写っている。

 

第2週(6/11〜6/17)

 なんだか知らないが、今年の6月はやたらと忙しい。色んな事が重なって忙しいような気がしてしまうんだけど、こんな時に人に「6月っていのは忙しい月なんだよ」と言われると信じてしまうから不思議だ。何かを信じる、というのは案外単純なきっかけによるものなのかもしれない。

 北原亞以子の『爽太捕物帖』(文春文庫)を読んで鰻を食いたくなるのは自然な現象だと思う。そもそも北原亞以子の描く江戸の庶民達の物語には、しょっちゅう蕎麦屋が出てきて、なんだかやたらとてんぷら蕎麦が食べたくなるんだけど、主人公が鰻屋の若旦那であるここに至って、鰻が無性に食べたくなる。
 物語の主人公は、文化三年の大火で孤児となった爽太。芝の鰻やに引き取られ、若旦那でありながら十手を持つ岡っ引き。鰻が苦手で、つかむことが出来ない若旦那だけに、鰻やのしごとは皿洗いばかりで、岡っ引き稼業に精を出している。主人公の魅力が今ひとつながら、江戸の情緒満点でいい。

 待望のシリーズ物続編がようやく出た。書店で見つけるなり、その時読んでいた本は全て中断、物語のテンポに合わせて一気に読みたかったのだが、文庫のくせに1300円もする分厚さに負けてずいぶん時間がかかってしまった。R・D・ウィングフィールドの『夜のフロスト』(創元推理文庫)だ。
 今回も、デントン警察に配属された、昇進に燃える若手部長刑事を引きずり回しながら、重なるいくつもの事件解決のために、日勤夜勤を問わず走り回るフロスト警部。品のないジョークや直感頼みの無茶な捜査は相変わらず。何よりも今回も事件が目白押しでフロストの忙しさにも拍車がかかる。折しもデントン警察では流感が大流行で、署員の大半が病欠中。人手不足の自体に重なるように連続殺人事件、恐喝事件、嫌がらせの手紙、少女誘拐事件などが同時進行で語られ、ある事件の関係者にあったと思えば別の事件の検死解剖へ、署長の文句を聞き流しつつ不眠不休で迷走するフロストの魅力が満載だ。とにかく次回作が待ち遠しい珠玉のシリーズ。

 そろそろ暑くなってきた。こうなると不安なのが暑さによる睡眠不足。今年こそ暑さで読書時間が減るのだけは避けたい。

 

第1週(6/4〜6/10)

 電車で本を読む、というのはなかなか難しい。特に、乗っている時間が短いとなんとなく集中できず、物語が全然進まない状態になってしまうので、今一気持ちが乗らずに、読まずに通勤してしまう。職場が近いというのは、それはそれで問題だ。出勤が昼でよくて、労働時間が5時間くらいで良いなら、2時間かけて出勤しても良いなぁ。

 J・ダン/G・ドゾワ編『ハッカー/13の事件』(扶桑社ミステリー)は、ハッカーを題材にしたSF短編小説のアンソロジー。ウィリアム・ギブソン、グレッグ・イーガンといった、今をときめくSF作家が勢揃いしている。「ハッカー」というと、パソコン通信を使って人や企業のパソコンに不正アクセスしていたずらをしたりする人、というイメージが昔はあり、「クラッカー」という言葉が少しずつなじむに連れ、自分の中で意味内容が変わってきた単語。ここで言うハッカーとはもっとコンピューター用語として本来的な意味「コンピューターに通暁し、自在に操る人」という意味らしい。
 俺の友達にもそういう雰囲気を醸し出している人がいて、彼がパソコンを使っている姿を見ると、いかにもSFチックな感じがして見ているだけで楽しいんだけど、同時に、コンピューターを使う、というのはこういうことなんじゃないかとも思ってしまう。
 全然内容に触れてないけど、個人的にはSF的アイディアというより、物語としてアレクサンダー・ジャブロコフ「死ぬ権利」がよかった。

 最近すっかりハマってしまった北原亞以子『傷』(新潮文庫)じは、短編集『その夜の雪』(新潮文庫)の表題作の主人公でもある、元南町定町廻同心の森口慶次郎を主人公とした短編集。その第1話として「その夜の雪」も収録されている。北原亞以子は、町人、特に職人などの描き方が抜群で、物語の構成も巧みなので、すぐにその世界に引き込まれる。物語の入りが、地味ながら実に上手い。暖かいながら、どこか影のある主人公達が織りなす物語。はずれ無しの作家の一人である。

 「週間文春20世紀傑作ミステリーベスト10、第1位●国内部門●」と書かれた腰巻きがずっと気になっていた天藤真『大誘拐』(創元推理文庫)は、掛け値なしの傑作。誘拐された人物が誘拐犯達をリードしていく、という設定は、今読むと特別新しくは感じないが、この誘拐される大富豪のおばあちゃん柳川とし子のキャラクターは秀逸。物語のテンポもよく、あまりにスケールの大きい誘拐をいかに進めていくのか、先が気になって仕方が無くなる。ちょっと厚めに見えるが、とにかく読むべき。

 冬になると、コートのポケットに文庫本が入る。こうなると取り出すのに時間がかからないので、短い通勤時間でも何とか読む気になるのだ。夏は開店休業である。