読み週記 10月

 

第5週(10/29〜11/4)

 子供の頃、冬になると布団から出るのが嫌で仕方がなかった。今では年中布団から出るのは嫌だが、子供の頃の強烈な印象から、やはり寒くなってくると、布団の暖かさが離れがたい魅力を放つ。生物学的に当然の反応なんだろうけど、なによりも、布団の暖かさ、という情緒的な存在に対する人間のあこがれにこそ、冬の暖かみを感じる。

 白石一郎『航海者』(幻冬舎文庫)上下は、海洋時代小説の金字塔的存在。江戸幕府成立を目前にした日本に、はるばるオランダからやってきたリーフデ号の航海長として登場したウィリアム・アダムス。後に三浦按針と日本名をつけることになったアダムスの半生をつづった力作。
 「航海者にとっては、航海することが必要で、生きることは必要ではないのです」というアダムスの言葉に象徴されるように、これは時代小説というよりも、海に生きた男の物語だ。ヨーロッパとの貿易に注意を向け、飽くなき好奇心を向けた、時代の旗手徳川家康。ウィリアム・アダムスは時代の要請を受けたかのように家康の元に現れる。江戸時代に向けて日本が動き始める、そのきっかけとなったのは、海に生きる事にこそ人生を見いだした航海者だった。
 幕末、日本中が火花を散らし、様々な物語を作りだした時期と同様、日本に変革をもたらした海外からの渡航者。アダムスはその重要な一人として、日本の歴史に登場するが、最後まで彼は一人の航海者であり続けたのだ。
 航海者としての心意気を持ちながら、日本の政治、祖国イギリスへの想い。様々な思弁の中で、結局は海に戻っていくアダムスの姿がいい。

 布団の暖かさが後押しするのだろう。冬の夜、布団に入って本のページをめくり始める時のうれしさがまたやってくる。体を冷やさないように布団の中にその身を押し込みながら、なお夢中になってページを繰る。昔から俺にとっては、「読書の秋」ではなく、「読書の冬」だったように思う。寒さの中で暖まる楽しみがあるからこそ、冬はいい。

 

第4週(10/22〜10/28)

 このところ数日のこの眠さはどうだ。夜まで本を読んで、翌日起きる、という当たり前の生活になぜか不都合が感じられてくる。次第に夜が寒くなってくる中、冬眠を志向するする本能が目覚めつつあるのか。その分本体が目覚めにくくなっているのか。

 クルト・クーゼンベルグ『壜の中の世界』(国書刊行会)は、風変わりな短編集。一つ一つの短編がみな違った味わいを持っていて、それぞれが独特のフシギ世界をもたらしてくれる。今のところどうも相性のいいドイツ文学だが、短編を読んだのは始めて。聞いたことのない著者ながら、「短編の名手」と紹介されている通り、読み手を飽きさせないストーリー展開の妙にあふれていて、雰囲気の違うそれぞれに、それぞれの思い入れを抱く。個人的には「蒼い夢」、「授業」、「最後の一筆」などがいい。でもどれもいい。

 この異様な眠さは、ダイレクトに読書に結びつく。気持ちの問題が大きい。読んで良いのか迷ったり、なんとなく疲れて読めなかったり。もう1年間くらいだらだらと「読めない、読めない」と言い続けているけど、そろそろコレが普通とあきらめる時期?

 

第3週(10/15〜10/21)

 どうもこのところ夜が遅くなり、本を読む時間が減ってしまっている。布団にはいるのが1時近くになるので、結局2時間も読むと翌日が不安になってしまうのだ。夜の時間が足りないと思うような自堕落な生活を、胸に手を当てて考え直す必要があるかも。

 北原亞以子『埋もれ火』(文春文庫)は、幕末の重要人物達と関係があった女達のその後を描いた短編集。北原亞以子の短編集は、それぞれが独立した短編であるようで、他の作品と微妙にからんできたりすることが楽しい。
 今作でも、坂本龍馬を巡る、お竜と千葉佐那子がそれぞれ相手への苦い想いを抱きながら生きていく最初の2作などは、相手の知らぬ想いがそれぞれに切なく描かれている。罪な男達と、哀しい女達と言えばありふれた様だが、時代を、歴史を見続けた男達と、それを見続けた女達の重なりとすれ違いが、現代の女性達にどのように映るのか。

 『本の雑誌』(本の雑誌社)9月号の特集は「本屋さんに行こう!」というもの。コレが面白い。業界関係者による、良い書店の条件10箇条は必読。「明日返す本コーナー」がある書店っていいと思うけど。
 本好きであれば、自分がよく利用する書店に思うところがかなりあるはず。模様替えはあまりして欲しくないとか、どの店員に聞けば良いのかがわかるとか。前にも書いたと思うけど、口頭でなくとも、書店員と棚で語り合えるような書店はやはり嬉しい。書店員なり、書店なりのこだわりがあったり、「おっ」と思わせるような平積みがあると嬉しくなる。
 出版界にも大不況の嵐が吹き荒れている現在、個々の好みだけでは商売がなりたたないかも知れないが、やはり書店員になるからは本が好きなんだろうし、好きな仕事をしている以上単なる販売員ではない姿が見たいと思うのだ。それでこそプロの仕事は面白いんだと思うけど。

 子供の頃から、夜布団で本を読み、気付いたら寝てしまっている、というのがもっとも気持ちの言い睡眠のあり方だと思っていた。今でもそういうことはたまにあるけど、何となく翌日の朝や、その一週間の事を気にして早いウチに読書を切り上げて寝ようと努力するときの寂しさは嫌な物だ。

 

第2週(10/8〜10/14)

 先週は祝日を言い訳に更新をしなかったので、2週目からスタート。先週の3連休をどう過ごしたか思い出すのに少し時間がかかった。なんだかぐったりしてた記憶があったりするが、本を読んだ記憶が全然ないのはなぜだろう。

 エド・マクベインの「87分署シリーズ」で、翻訳順がむこうでの刊行順と違うために酷い目に遭ったことは以前に書いたが、amazon.comでようやく順番通りに手に入れたつもりが、またもやダマサレタ。翻訳順4冊目と4冊目は、実は元の4冊目と3冊目なのである。つまりこの2冊の間で順番が逆。買ったときに原書の刊行順をチェックしてうろ覚えだったけど、そんな細かい順番替えがあるなんて、酷いなぁ。
 『ハートの刺青』(ハヤカワ文庫)は、死んだ女性達の手に刺青されているハートとその中に書かれたメッセージが事件の鍵になる。謎解き的楽しみとしては早々にネタがばれてしまうけど、終盤の展開はベタでいい感じ。

 順番を逆に読んでしまうとアレだけど、続く(本当は前)の『麻薬密売人』(ハヤカワ文庫)を読むと、『ハートの刺青』の終盤における、スティーブ・キャレラの妻、テディの行動の動機も多少理解できる。それにしても、このシリーズ、本当に訳順が違うといろいろキツいですぜ、旦那。

 なんだかえらく軽い感じで本日は終了。どうも色々身辺が騒がしい気がする。こんな時こそのんびり読書に限る。