第3回 召集





召集者:陵世羅
参加:長内香織、鈴原志郎、日下部矢尋、英東児、巳堂英一、帯刀祐二、出羽清虎



 万座殿B13区画崩落事故現場。ここで全てが始まり、終わろうとしている。
 非常灯の明かりが赤暗く染め上げたこの場所に「召集」された7名の招待客―――長内香織、鈴原志郎、日下部矢尋、英東児、巳堂英一、帯刀祐二、出羽清虎―――の前に、闇から溶け出すようにして一人の女が姿を現した。
 白いブラウスと膝丈のピンクのギンガムチェックのスカート、パールピンクのパンプス。派手に盛り上がった胸と学生時代の競技生活で引き締められ磨き上げられた手足。栗色のショートカット。ウェットな輝きの唇と強い意志を感じさせる瞳。匂い立つ女香と圧倒的な存在感で全員の目を釘付けにして、女は立ち止まった。
「大勢集まってくれて嬉しいわ」
 女は嬉しそうに、可笑しそうに笑った。右手の甲を口元に当ててクスクスと笑う特徴的な仕草。
「本当に、君なのか・・・?」
 半ば呆然とした矢尋の言葉に、女はクイと顎を上げて応じた。
「ええ」
 女は紛れもなく、「陵世羅」だった。

「いつも願っていたわ」
 世羅が語り出す。
「私の大切な人が、私を一番大切にしてくれますように、って。でもあの人は―――翔彦さんは、単身赴任を終えて家族の元へ戻ると言ったわ。矢尋君もそう。もうすぐ死んじゃう私を置いて、自分だけ逃げていった」
 真情の吐露。その言葉に反論しようとした矢尋は、しかしその言葉を飲み込んだ。事の真実はどうであれ、矢尋は世羅の望む姿にはなってやれなかったのだから。
「でも―――」
 うっとりと夢見るように目を閉じ、世羅は胸の前で手を合わせる。
「お父さま(クィス=アズ)は違ったの。お父さまだけは私だけを愛してくれるって言ってくれたの」
 クィス=アズ。彼女が敬愛を込めて“お父さま”と呼ぶもの。彼女の生命を救い、彼女の全てを変えたもの。ムトゥーラの闇から、鉱石を通じて彼女を愛すると言ったもの。赤室翔彦、月辺鈴姫、苑原柚織を結晶化させたもの! あなたを水晶に変えるもの!!
「だから―――」
 そして世羅の誓い。
「陵世羅はお父さまのためだったら何だってできるわ・・・っ!」
 見開いた世羅の目に、水晶の冷光が閃いた。

 赤暗いB13区画が、瞬時にして白い光で塗り潰された。
 世羅の背中や腰から伸びた無数の蔓状触手の表面に生える、紙よりも薄い水晶のヒレが光を放って世羅を、あなたたちを、B13区画を照らし出す。細長い蔓が床、壁、天井を問わず、あたかもヤスデの群れのように縦横に隙間なく這いまわり、B13区画全体を包み込んでいる。蠕動する触手の様子が臓器の内粘膜を思わせ、まるで怪物の胃袋の中に飲み込まれたかのような錯覚を覚える。
 白い光をイルミネーションのように明滅させて、盲た長蟲が如く音もなく蠢動する触手の起点に立つ世羅が、歌うように招来の呪文ことばを詠み上げる。
「来たれ、常闇にて息づく“結晶化した知性”よ。我はあなたを喜ばす者。来たれ、常闇にて息づく“結晶化した知性”よ。我はあなたのための饗宴を主催する者。来たれ、常闇にて息づく“結晶化した知性”―――」
 触手のヒレが一際眩い光を一斉に放ち、光の中に世羅の声が響き渡った。

「―――Q'yth-az!!」