男は助けを呼ぶために駆けていった。
 崩落した巨石に下半身を押し潰され、身動きできぬままに死に逝く、その女を残して。
 男を引き止めようとして伸ばされた腕は空しく虚空を掻いた後、
 ベチャリと音を立てて真紅の粘液―――女の血液―――の上に力無く落ちた。
 薄れゆく視界と意識。
 失われていく全身の感覚。
 止め処なく流れ出る血が、女の首にかかっていた首飾りの水晶を紅玉のように赤く染めていく。
 女は最後の力を振り絞って水晶を掌に収めたが、予想通り、それは何の奇跡も起こしてはくれなかった。
 右頬を血溜まりに浸した女は、涙で滲んだ瞳で男が去っていった方向を眺めて、今際の際を迎えた。

 「……もう二番目はイヤ。
 誰か私の事を見て。
 誰か私を一番に考えてよ……」

 言い終えて、女は息を引き取った。







 ……ドクンッ……

  ……トクン、
         トクン、
              トクン……。