紫水晶と鮮血

伏見 健二 作




「TACTICS」誌
第72号
掲載シナリオ

2008年4月26日
プレイ

参加キャラクター
 ティスマン
 ピオカーナ
 ガーリック
 ハンスヘルト
 シャゼ
 グリン
 <影の世界>で思わぬ足止めを食った亡者の船は食料や飲料水といった物資が枯渇し、やむなくピカレイドのチャラルへと寄港する事になりました。<混沌>を信奉する国家であるピカレイドは、この時代パン・タンの属国となっています。
 滅すべき宿敵<混沌>の執行人が闊歩するチャラルの街での大決戦に武者震いを抑えきれない<法>の戦士アナスタシアでしたが、今はまだその時ではないというルテル船長に諌められて、渋々ながらもチャラル決戦を諦めます。祖国では追われる身であるスタインと一緒に外伝へ回りました。

 チャラルに上陸したピオカーナは「らっきー☆ちゃんねる」収録のために早速アリオッチの寺院へ向かいます。ピカレイドではアリオッチは広く信奉されており、その司祭であるピオカーナは格安で寺院設備を使用できます。ダイスの目もなかなか良く、あっという間に前回失ったデーモン・ウェポンを再装備した一行でした。
 この時、確かに輝いていました、ピオカーナは……。

紫水晶と鮮血

 手練の冒険者として名を馳せるようになった「亡者の船の傭兵団」。その上陸の報を聞いて、ピカレイド辺境のキシオムバーグ寺院から使いがやって来る。その寺院は数週間前に紫の街の島の略奪船によって襲撃を受け、寺院を荒らされたばかりか、事もあろうに神体(紫水晶の台座に飾られたショートソード)を奪われていた。寺院の老司祭クリジャミドは、一行に神体の奪還と復讐の代行を命じる。

「襲撃の首謀者には存分に恐怖を味あわせ、一族郎党皆殺しにせよ!」

 ストラーシャの信者である
ガーリック、特定の神を信奉しないティスマンハンスヘルト(ついでにグリン)からすると、クリジャミド司祭は小汚い老婆にしか見えなかった。しかしピオカーナシャゼにしてみると経験を積んだ司祭であるクリジャミドは敬意を払うべき人物であり、また「復讐と誓い」を重んじるシャゼの意向もあって、この依頼(というよりは指令)を受ける事になる。後々、このパーティ内での温度差が悲劇を呼ぶとは知らずに……。

 紫の街の島。紫色の岩で作られた街並みが印象的な<新王国>有数の商業国家である。
 早速紫の街の島へ渡った一行は、気の進まない帰郷を果たす事になった
ガーリックを中心に、港の酒場で略奪船に関する情報の聞き込みをする。
 ピカレイド方面で成果を挙げている略奪船はすぐに判明した。レントン船長率いる略奪隊である。略奪隊の主なメンバーはレントン・クルネス船長、その妹の剣士カンテイラ、航海士のハーシェブロジアースの4人。復讐すべき相手は決まった。

 酒場で飲んだくれていたロジアースをひと気のない路地で始末した後、相棒の死を悼むハーシェブの家に入り込んでこれも亡き者とする。ノリはほとんど「必殺仕事人」である。
 ハーシェブの断末魔を聞きつけた近隣住民とその通報を受けた<法>の僧兵に一行は追跡される。夜の街路を逃走する一行。街のあらゆる方向から追っ手の声が上がり万事休すと思われたその時――

「さっ、こちらです」

 現れた一台の馬車が一行を匿ってくれたのだった。馬車の中には若い貴婦人が一人。事前の調査で、一行は彼女がレントン船長の妻ラースアイである事を知っていた。

「悪い事をするのは良くないことですよ。どうか良い人になってくださいね」

 独りよがりな善を説いてラースアイは一行を逃がす。意外な救世主の出現に呆然とする一行。

 その後、カンテイラとその手下たちとの大乱戦を制した一行は第三の復讐を遂げ、いよいよレントン船長の家へと向かう。
 高い崖の縁に建てられたレントン船長の新居は、仲間の死に何かを感じ取ったレントンの機転によって、僧兵や傭兵に守られていた。大きくなり始めた騒ぎに一刻の猶予もなくなった一行は搦め手を放棄し、剣と斧の力でレントン船長へと肉迫する。10名もの僧兵・傭兵、3体の<法>のオートマタ(ゴーレム)を次々と倒して二階の部屋へ入ると、そこにはレントン船長その人と妻ラースアイ、そしてその愛児がいた。ただならぬ気配を感じ、火がついたように泣き出す赤子。それを必死にあやすラースアイ。ハーシェブに復讐を遂げた晩に匿ってくれた事に皮肉な礼を述べると、ラースアイはがたがたと震えだし、その美しい顔からは血の気が引いていった。
 レントンは奪った神体を差し出し、さらに金目の物を全て持って行っても良いから、彼と彼の家族の命だけは助けて欲しいと懇請する。
ティスマンガーリックは既にレントンには十分なほど恐怖を味あわせ、神体も取り戻したのだから(そしてラースアイに窮地を救われた事もあり)、命だけは助けてはどうかと提案する。ピオカーナもそれに賛同しかけるが――

「いいえ、まだ“復讐”は成されていないわ」

 この
シャゼの一言により甘い考えを捨てる。
 
ピオカーナは<混沌>らしく残酷な慈悲を見せ、レントンに向けてこう言い放つ。

「私と戦って勝ったなら、見逃してあげても良いですよ」

 愛する家族を守るためにレントンは絶望的な戦いに臨み、そして散った。夫が無残に殺されたのを見てラースアイは赤子を抱えたまま窓を越えて崖下へと身を躍らせ、遥か眼下に打ち寄せる波間に消えていった。復讐はここに完遂される。

 クルネス兄妹の殺害が広く露見する前に、一行は夜明けと共に出港する船に飛び乗って、紫の街の島を去る。キシオムバーグの寺院でクリジャミド司祭に神体を返還し、労いの言葉を受ける。
 寺院を立ち去ろうとした一行の背後から、クリジャミドの首飾りに封印された知識デーモンから嘲るような調子の声がかかる。

「お前たちがクルネス家で討ち漏らした女が、<法>の戦士となって着々と“復讐”の準備を進めているぜ」

 チャラルへの道中、一行を待ち受ける人影が荒野に一つ。それは<法>の戦士と化したラースアイ・クルネスだった。力天使の鎧に身を固め、右手には力天使の槍を携え、左腕で水死した赤子の骸を大事そうに抱えている。

「大丈夫よ、坊や」

 赤子の骸に慈愛に満ちた言葉をかけると、ラースアイは槍の先をぴたりと
ピオカーナに向ける。「復讐の筋は通っているわ」というシャゼの言葉を背に、ピオカーナは歩み出る。

「少しそこで待っていてくれ」

 仲間たちに一声かけて、歩きながら剣を抜く
ピオカーナ一騎打ち。負けるはずはなかった、数日前までは一介の主婦に過ぎなかった女になど。それは慢心ではなく、自信であった。事実、射程に入るや否や、ピオカーナは最も確実にダメージを与える方法であるサラマンダーの火箭をラースアイに浴びせもしたのだ。
 ――しかし、それでも、火炎を突き抜けた<法>の鬼神の槍は、
ピオカーナの身体を刺し貫いた(ダイス01によるクリティカル・ヒット)。
 その時、一騎打ちに立ち会った
ピオカーナの仲間たちは、後にこう語る。

「最期の瞬間、ピオカーナはまるで抱擁するかのように両腕を広げて槍を受け入れた」
「死の間際、彼の顔には至福があった」
「あれが彼に残されたひとかけらの良心だったに違いないわ」


 しかし、実のところはブロードソードによる<受け>の失敗に他ならなかった。
 復讐を遂げたラースアイは、死んだ赤子をあやしながら、いずことも無く立ち去った。仲間たちは
ピオカーナの遺体を埋葬し、「少しそこで待っていてくれwww」という墓碑銘を彫り込んだ石をその上に残した。

 チャラルで合流した
スタインは共に生死の境を潜り抜けた友の死に涙し、さして付き合いの長くなかったアナスタシアでさえその死を悼んだ。ルテル船長が「彼の分も強く生きていこう」というアンデッドのお前が言うな的な言葉でなんとなく締めくくり、一行はピカレイドを後にする。なお、予想通りルテル船長の魂の隠し場所は見つからなかった。

 ピカレイドに行くことがあれば、チャラル郊外にある小さな墓石に目を向けて欲しい。
 
そう、復讐は復讐を呼ぶ。

 今回のMVPは全会一致でピオカーナです。あまりにも綺麗な最期だったため、誰もラースアイにさらなる復讐を遂げようとは考えませんでした。「復讐」というテーマに相応しい展開で、参加者一同大いに湧きました。
 本当はキシオムバーグの加護を受けた神体とクリジャミドの醜さが大きなギミックとなっているシナリオでしたが、結局一行は神体を素直に返還し、クリジャミドとも対立せずに冒険を終えました。神体がショートソードではなくブロードソードであったなら、きっと展開は違っていたでしょう。

 なお、スタインとアナスタシアは「最高の寺院」を冒険していました(外伝)。

 ――さらば、ピオカーナ。



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