書架:10



目録91:狂気の山脈 狂気の山脈
刊行年:2010年 出版社:PHP研究所 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト
漫画:宮崎 陽介
収録作品:「狂気の山脈」、「陰気な山脈にて もしくはラヴクラフトからリーコックへ」。

有味: ……やべぇ。これはやべぇ一冊だよ。
スミス: な、何がですの?(ゴクリ)
有味: ……こんなにつまらない漫画、久しぶりに読んだ。
スミス: あらら。
有味: 実はこのコミックが手元に届いた時に、ちょうど『定本ラヴクラフト全集』第5集収録の「狂気山脈」を読み返していたんだよ。で、原作の雰囲気をまったくトレースできていない出来にガックリですよ。
スミス: ラヴクラフト御大の作品の中でも長編の部類に入る「狂気山脈」を一冊のコミックで再現するのは少しムツカシイかもしれませんわね。
有味: ラヴクラフト作品のコミック化でも、ちゃんと作品選べってことだよな。「狂気山脈」なんていう難解なテーマを選んじゃダメだわ。今後の同様の試みのための参考にはなったかもね。
スミス: ちょっとガッカリな一冊でした。
有味: ただし、巻末収録のアーサー・C・クラークの「陰気な山脈にて」は必見。クラーク、巨匠過ぎるにも程があるw 本書の800円分はこのクラークのパロディに払ったと思えば溜飲も下がる。



目録92:インスマウスの影 インスマウスの影
刊行年:2010年 出版社:PHP研究所 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト
漫画:原田 雅史
収録作品:-

スミス: またしても御大の代表作のコミック化ですわ。
有味: まぁ、上記の『狂気の山脈』よりはストーリーを追えている。話の分量からしてこれくらいの中編がコミック化するには限界かな。
スミス: 同シリーズの『クトゥルフの呼び声』と『狂気の山脈』とは絵師さんが違いますのね。
有味: 効果音の使い方がジョジョっぽくて思わず笑ってしまう。大きな期待をしなければ及第点の絵だと思うが、深きものどもが若干迫力不足かな~。
スミス: でも、駆け足になりましたけれど最後までテーマを見失わなかったのは評価できますわ。
有味: 冷静に考えて、ニューカマーが本書に1,000円出してくれるのかは疑問だが、出版してくれたことは評価できる、と何故か上から目線。次回があるなら「ダンウィッチの怪」あたりが有力だが、残念ながら絶対に失敗すると思う。
スミス: 予想を裏切る傑作をお待ちしております。



目録93:水木しげる 魍魎 貸本・短編名作選 水木しげる 魍魎 貸本・短編名作選
刊行年:2009年 出版社:ホーム社 定価:838円 著者:水木 しげる
収録作品:「地獄」、「大逆転」、「妖怪枕返し」、他。

有味: マンガシリーズで巨匠の一冊をチョイス。
スミス: 「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な水木先生の一冊ですわね。
有味: 小娘が知った風な口を利くなーーーーー!!
スミス: きゃんっ!
有味: お前みたいな素人は「水木しげる大先生」とフルネームに大先生付きで呼べ。オレみたいな四半世紀近く水木先生を尊敬してきた人間だけが馴れ馴れしく「水木先生」と呼ぶ事を許されるのだ。
スミス: は、はぁ、そうですの(……何かスイッチが入ってしまっていますわ)。
有味: 妖怪研究家としての水木先生をどれだけオレが尊敬しているかを話そうとすると、別にサイトを立ち上げなくてはならないのでこれくらいで許してやる。
本書収録の「地底の足音」がラヴクラフトの「ダンウィッチの怪」を原作としているのは結構有名な話だね。
スミス: 舞台は鳥取県八つ目村に移されていますが、テーマとストーリーは見事に原作をトレースしていますわね。
有味: 水木先生らしい雰囲気作りが素晴らしい。暗めの画面も土着の陰々さを伝えてくれて良い感じだ。
スミス: PHP研究所が「ダンウィッチの怪」のコミック化をしたら、比較対照はこの水木しげる大先生の「地底の足音」になりますから、大変ですわね。



目録94:災厄娘 in アーカム 災厄娘inアーカム
刊行年:2010年 出版社:青心社 定価:640円 編著:新熊 昇、都築 由浩
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
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目録95:名門校の女子生徒会長が
アブドゥル=アルハザードのネクロノミコンを読んだら
名門校の女子生徒会長がアブドゥル=アルハザードのネクロノミコンを読んだら
刊行年:2010年 出版社:一迅社 定価:638円 著者:早矢塚 かつや
収録作品:-

スミス: 名門私立高校の生徒会の役員たちが実は神撰組という邪神を封印する組織の末裔ですの! そんな彼らが封印の刀とネクロノミコンを駆使して、暗躍する邪神のしもべを退治しますの!
有味: うん、まぁ、ニャル子さんよりは正統派のクトゥルフ・ラノベだよね。
スミス: 記号もいかにもラノベ的なものの集まりですわね。
有味: 黒幕、つーか、ラスボスはゾス星からやって来た大いなる大司祭的な旧支配者なんだけど、やっぱりルルイエが海中に没している設定はガン無視の舞台設定だな。結局のところ、クトゥルフ神話的要素をオリジナルの神話に入れ替えてもストーリーに何ら問題は生じないので、重箱の隅をつついてもしょうがないことは分かっているが。
スミス: 「クトゥルフ神話の懐の深さ」という免罪符で全てが丸く収まるのです。
有味: うむ。インスピレーションはまったく湧かないけどね。
スミス: きっと当初は別のタイトルで書かれていたのでしょうけど、誰かが「もしドラっぽいタイトルをつけたら面白くね?」みたいに言い出してしまったと推測いたしますがいかがでしょうか?



目録96:クトゥルー神話全書 クトゥルー神話全書
刊行年:2011年 出版社:東京創元社 定価:2,000円 著者:リン・カーター
監訳者:朝松 健
訳者:竹岡 啓
収録作品:-

有味: 神話作家にして評論家でもあるリン・カーターの著した「クトゥルー神話が成立する過程」を述べた論文。
スミス: 当時を知る所謂ラヴクラフト・サークルの人たちへのインタビューや、残された書簡資料などをもとに、あくまでリン・カーター氏の視点で成立過程を追った感じですわね。
有味: 個人的には『リン・カーターのクトゥルー神話こぼれ話』。調べが甘い所が何ヶ所もあったり、思い込みで書いているんじゃないかと思う箇所もあって、そこもいかにもリン・カーターらしい。リン・カーターの一番の欠点は、彼がクトゥルー神話を“好きすぎる”ことだと思うんだよね。
『クトゥルフ神話TRPG』のユーザーとしては、彼の功績は評価したい所。カーター発案のグレート・オールド・ワンとしては性質が奇矯な“凍れる炎”アフーム・ザーが一番好きです。
スミス: 研究書としてはかなり読みやすい一冊です。
有味: 訳者、監訳者ともにクトゥルー神話に関する造詣については余人をもって変えがたい識者だからね。注釈でのツッコミもさることながら、やはり理解している人が書くと非常に読みやすい。
スミス: 神話関連の研究書として初心者にお勧めするには、何よりもこの読みやすさは素晴らしいと思いますけど……。
有味: 本書の弱点は、残念ながら著者がリン・カーターであるって事なんだけどね。彼は“リン・カーターのクトゥルー神話”に目がくらみすぎ。



目録97:弧の増殖 夜刀浦鬼譚 弧の増殖
刊行年:2011年 出版社:
エンターブレイン
定価:1,700円 著者:朝松 健
収録作品:-

スミス: 朝松センセの新作ですの。
有味: ネタ自体は「有り物」をクトゥルフ神話というつなぎで一つにしたという感じ。「驚愕する、目から鱗の新奇なアイデア!」はないけど、内容はかなり簡単なので、読み終えたら多くの人があらすじを書けそう。
スミス: 確かに携帯電話とか、暗号とか、猟奇殺人とか、ジャパニーズ・ホラー的には身近(?)なアイテムですわね。
有味: まぁ、それを一つにして作品を作り上げるのは、個人の資質と、何よりも努力(労力)が必要なんだけどね。
スミス: 前述の通り、内容的には理解しやすいですわね。
有味: 『クトゥルフ神話TRPG』で3時間でドライブする単発シナリオっぽい(良い意味で)。秘密の蔵書室とか、NPCの一括整理とか、なんともRPGな感じ。『秘神』の時のように「夜刀浦市」を開放して競作すれば日本版アーカムとなりうると思うのだが、いまいちムーブメントとしては弱い。誰か音頭を取る人はいないのかね?
スミス: またオーナーが「噛み付きバージョン」になるかとドキドキしていましたが、好意的な感想で安心いたしました。
有味: 「この人はこの人なりのペースで、面白い面白くないに関わらず神話作品を書き続けていくことに意義がある」と、以前、誰かがどこかで書いていてすごく納得した。



目録98:ダンウィッチの怪 ダンウィッチの怪
刊行年:2011年 出版社:PHP研究所 定価:1,100円 原作:H・P・ラヴクラフト
漫画:宮崎 陽介、原田 雅史
収録作品:-

有味: さて、出るべくして出たラヴクラフトの傑作をコミック化した一冊。
スミス: お相手は水木しげる大先生の「地底の足音」ですので苦戦が予想されますが、感想をよろしくお願いしますわ。
有味: 無条件にズタズタに引き裂いてやろうと思って読んだんだけど、まぁ、それなりに「ダンウィッチの怪」なので拍子抜けしてしまった。同シリーズの「狂気の山脈」とか、出版事故か何かかと思うほどだったが、それほど酷くはない。
スミス: 一部ではラストの改変が話題に上ってますいますわね。
有味: この改変が誰の入れ知恵で、誰がゴーサインを出したのかは興味がある。個人的には、まぁテーマを歪めるほどの改変ではないので、そんなに気にはならなかった。理解不能な存在にまつわる事件のラストが感傷的に改変されるのには違和感を感じる人もいるかもね。
スミス: 物言わぬウィップアーウィルがなかなか雄弁で良いですわ。
有味: つーか、ダンウィッチ三人衆のアーミティッジ、ライス、モーガンが凶悪な面構えすぎるだろ。この三人がキングスポートで祝祭を取り仕切っていても違和感ないよ。アーミティッジなんか第2章のラストでこのまま狂死するんじゃないかと思った。



目録99:新訳 狂気の山脈 新訳 狂気の山脈
刊行年:2011年 出版社:PHP研究所 定価:1,300円 著者:H・P・ラヴクラフト
訳:東本 貢司
収録作品:-

スミス: ラヴクラフト御大の最高傑作の内の一つと名高い長編が1冊に切り出されて登場ですの。東本貢司氏による「新訳」という触れ込みですわ。
有味: 一部でディスられているようなので黒い期待を抱きつつ読んだけど、まぁ、思ったより普通です。もっと根幹を揺るがすような誤解や珍解釈があれば刮目に値するとも思いましたが、普通です。
スミス: もともと平易な内容ではないので、新訳しても特にスラスラ読めたりはいたしませんわね。
有味: 訳に関しては「普通」としか言えん。「狂気の山脈」はラヴクラフトの作品の中では長編の部類に入るため、短編スキーのオレは頻繁に読み返そうとは思い立たないので読み返す機会を与えてくれたことには感謝する。
ただ、知り合いから「“狂気の山脈”を読みたいんだけど、どれが良い?」と聞かれたとしたら、迷わず『ラヴクラフト全集 4』を勧めるよ。正直言ってこの本の本文から解説まで、身を乗り出すような新奇な情報はないので、1300円も払う価値を見出せない。
スミス: 確かに『ラヴクラフト全集 4』なら他にも「宇宙からの色」や「ピックマンのモデル」が560円で読めますものね。
有味: コレクターズ・アイテムか、珍訳探しのパズルとしてでも使わなければ、減価償却できない資産。確か「狂気の山脈」の映画化はポシャったという記事をどこかで読んだので、本書においては失笑を禁じえないこの帯が本体になるのかもしれん。



目録100:定本ラヴクラフト全集 1~10(全11冊) 定本ラヴクラフト全集
刊行年:
1984~1986年
出版社:国書刊行会 定価:各3,200円 著者:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「クスルウーの喚び声」 、「インズマウスの影」、「銀の秘鑰の門を越えて」、他。

スミス: 区切りの目録100で大物登場ですわ。
有味: この全集は学校の図書館から借り出して読んだのが最初で、卒業してからは見たい資料があるたびに市立図書館に行って確認していた。何年か前に中古で全巻揃いを入手したので、今は手元において、絶好の資料となっている。目録100に間に合わせるために2年位前からボチボチ読み返し始めて、どうにか間に合った。
スミス: 詩篇や書簡集があって、怪奇小説だけではないラヴクラフト御大が見られて楽しいですわね。
有味: 特に詩篇にはクトゥルフ神話に踏み込んだ記述が随所に見られて驚かされるな。戯曲「アルフレード」もラヴクラフトっぽくなくて面白い。このあたりを元ネタにしてシナリオが作れそう。
スミス: 入手は困難ですが、史料価値は一級品ですの。恒例のオーナーのイチオシは?
有味: オレのオールタイム・ベストは「死体蘇生者ハーバート・ウェスト」なので、今回は趣向を変えて読むのに苦労したつまらない記事を上げておこう。
まず一つ目は「「HPLの思い出」補遺」オーガスト・ダーレス。何というか、まったく興味のない情報の羅列に心が挫けた。
二つ目は「禅とラヴクラフトの芸術」ドナルド・R・バールスン。禅とラヴクラフトの間に共通点を見出そうという、あまりにも独りよがりな論文。いわばオレが「コカ・コーラとラヴクラフト」という記事を書いて活字にするようなもの。
スミス: いつもどおり、上記はオーナーの個人的な趣味であるのに注意、とナイス・フォローですわ。
有味: 「真ク・リトル・リトル」の新編がどれだけ売れたかは知らないが、国書刊行会には頑張ってもらってこの「定本」も新編で出してほしいところ。



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