書架:11



目録101:邪神宮 闇に囁くものたちの肖像 邪神宮
刊行年:2011年 出版社:学習研究社 定価:1,900円 監修:児嶋 都
収録作品:「セラエノ放逐」、「ブラオメーネ」、「手紙」、他。

有味: 何か良く分からんが、<邪神宮>という展覧会と連動して出された書籍っぽい。展覧会<邪神宮>については各自ネットで調べてください。
スミス: その展覧会に展示された図画や立体の写真と短編小説を「融合」させた「競作集」のようですわね。帯の受け売りですけど。
有味: 図画と立体については写真を見て判断してくれとしか言えんな。アプローチの仕方はアーティストによって色々だけど、こういう才能がある人には素直に憧れるね。
スミス: 小説作品については如何ですの?
有味: 参加作家のネームバリューについては本邦クトゥルー神話関連書籍でも屈指かもしれない。クトゥルー神話については作家と読者に十人十色の線引きがあるので、邪念波が伝わってこないものもあるのは仕方ないのかも。例えば平山夢明の「顆粒」は個人的には全然伝わってこなかった。読み終えた後に唖然として、落丁で何ページか抜けているんじゃないかと確認してしまったほどに。
スミス: 「何をもってクトゥルー神話とするか?」は複数の作家が参加するアンソロジーには付いて回る問題ですわね。
有味: 生意気にもオレはオレの中でクトゥルー神話というものの線引きを持っているつもりなので、「コリャ違うな」と判断するものは多々あります。本書収録の図画・立体にも個人的に線引き外のものはいくつもあるしね。
スミス: ではその中からオーナーの線引き内で琴線に触れた作品を聞いてみるのです。
有味: 岩井志麻子の「無明都市」。なんとも岩井志麻子らしい話で、作家の「らしさ」と「クトゥルー神話」がうまく融合した短編だと思う。小説作品としては最初に収録されているこの短編で、本書のスタンスみたいなものが即理解できた。
スミス: 黒史郎氏の「歓喜する贄」も良いですわね。
有味: 黒史郎は早くラゴゼ・ヒイヨを扱った長編を書いて、この神格の性質を多少なりとも発信すべき。それがシェア・ワールド化にも繋がると思うんだが。そしてエンターブレインあたりが数値化してゲーマーに還元してくれたら、歓喜して円筒に入って虚空へと旅立ってしまうかもしれない。



目録102:伴天連XX(全3巻) 伴天連XX
刊行年:
2010年~2011年
出版社:
エンターブレイン
定価:
①、②714円
③945円
原作:猪原 賽
漫画:横島 一
収録作品:-

有味: コミックスが出るたびに買っていたが、評価保留にしておいたシリーズ。第3巻で完結したのでエントリー。
スミス: テーマは「クトゥルフ+時代活劇」みたいな感じですの。ザックリ言うと侍、バテレン、読売、絵師の4人がチームになって邪神に対抗するストーリーですの。
有味: 最初に結論を言ってしまうと、個人的には面白さが伝わってこなかった。北斎が仲間に加わることで評価が変わるかと思って様子を見てみたけど、第3巻を読み終わってもそれは変わらなかった。なぜ面白くないかが自分でも分析できなかったので、第3巻を読み終えた後にもう一度第1巻から読み通してみたんだけど、多分主要4キャラクターの中に誰一人気に入ったキャラクターがいなかったせいだと思われる。
スミス: キャラ萌え至上主義者のオーナーでは然も有りなんという所ですわ。
有味: 変なレッテルを貼るのはやめてもらおうか。
巻数が少なく、各キャラクターの背景とかがまったく掘り下げられていないので、仕方ない部分はある。クトゥルフ+時代活劇(?)であれば我々ゲーマーは『比叡山炎上』で既に通ってきた道なので、目新しさも感じないしね。
スミス: ネットで余所様の評価を調べていたら、シリーズを気に入っていた方々もたくさんいた様子です。これを入り口としてクトゥルフ・ファンになってくれる方がいらしたら嬉しいですわね。
有味: 黒幕が“這い寄る混沌”なのは既に様式美だが、もう少しキャラクター(性格付け)にバリエーションを持たせられないものかね?



目録103:ヒュペルボレオス極北神怪譚 ヒュペルボレオス極北神怪譚
刊行年:2011年 出版社:東京創元社 定価:1,200円 著者:クラーク・アシュトン・スミス
収録作品:「ヒュペルボレオスのムーサ」、「最後の呪文」、「始原の都市」、他。

有味: C・A・スミスのハイパーボリア体系が1冊で読める書籍がついに登場。これを布石としてクトゥルフ・ワールドツアー・シリーズはぜひとも「クトゥルフ・ハイパーボリア(完全版)」を実現させて欲しい。
スミス: いきなり結論から来ましたの。
有味: 実現すればかなり画期的だと思うんだよね。日本製サプリメントの傑作になると思う!
スミス: オーナーの夢と希望は分かりましたので、本書の感想をお願いしますわ。
有味: 全編に渡ってスミスらしさが見られる作品群だね。スミスって時間逆行ネタが好きなんだよ、きっと。本書の「ウッボ=サトゥラ」とか「月への供物」とか。「アフォーゴモンの鎖(未訳)」もそうだよね。
スミス: クトゥルフ的にはヒュペルボレオス物語群が重要ですわね。「七つの呪い」だけでも正気度が危うくなる神格のオンパレードですもの。
有味: 「七つの呪い」は何度読んでも愉快だな。ヒュペルボレオス大系からはいくつかイチオシを出してしまっているので、今回は敢えて「柳のある山水画」をイチオシにする。
スミス: 最後に収録されたこの物語で読者はほっこりさせられますわね。
有味: あとがき最後の大瀧センセの『アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚』の出版予告には否応なしに期待が高まるというもの。個人的にはアヴェロワーニュと抱き合わせに収録される他の作品のラインナップに興味津々だ。
スミス: クァチル・ウタウス、来ますでしょうか?



目録104:クトゥルフ神話アンソロジー「狂宴」
- ドラッグフェニールの絵画・2
クトゥルフ神話アンソロジー「狂宴」-ドラッグフェニールの絵画・2
刊行年:2011年 出版社:密林社 定価:1,200円 著者:多数
収録作品:「マーク・ヒューズの神はいない」、「夢見る人」、「外なる神の誕生」、他。

スミス: クトゥルフ神話を扱った同人アンソロジー誌として発表された一冊とのことですわ。
有味: 個人的にはすごく楽しんだ一冊。同人誌なので当然プロが書いた文章とは比べ物にならない完成度なんだけど、逆棘のように何かが引っ掛かるというか、ザラザラしたものを感じる。商業的には一顧だにされそうもないものに「なんだこりゃ?」と思いつつもかなり引き込まれたよ。タイトルどおり、まさに「狂宴」だ。
スミス: 一編一編の長さも短めで、オーナー好みですわね。その中でもイチオシはどれですの?
有味: 「やさしい嘘」。二編目として収録された異形系エログロ作品。作者(ビクター)氏の嗜好・妄想を垂れ流した、読点を打たない文章が読みにくく一段落がウンザリするほど長いどうしようもなく無価値な一編かと思ったが、読み終えた後に「同人ならこれもアリかよ」と逆に何かがこみ上げてきた。
スミス: クトゥルフ神話のスタートを考えると、高尚さや完成度なんて些細なことなのかもしれないですわね。
有味: 個人的には価値を見出せた一冊。拙い文章の行間に情熱があるのでしょう、きっと。



目録105:ネクロノミコン異聞 ネクロノミコン異聞
刊行年:2011年 出版社:
イカロス出版
定価:1,143円 著者:鳥山 仁
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
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目録106:異形たちによると世界は… 異形たちによると世界は…
刊行年:2011年 出版社:早川書房 定価:1,200円 著者:coco
収録作品:「観察者」、「千の仔を孕みし森の黒山羊さん」、「ブリーダー」、他。

スミス: 可愛らしい神話的存在たちがほのぼのと送る日常を扱った四コマ漫画ですの。
有味: 四コマ漫画の合い間に挟まる短編漫画がクトゥルー神話していて凄く面白い。作者氏のクトゥルー神話に対する造詣の深さが垣間見れるね。
スミス: マンガでも短編スキーですわね、オーナー。
有味: 短い方が集中できるので、内容が頭に入って来るのです。
スミス: イチオシ作品はおありですの?
有味: 「供物」。ベタなストーリーだが「萌えよ! クトゥルー(本書帯より)」だけではないということで安心させてくれた良作。
本書は手入した当日に2回読み通した、オレ的には稀有な一冊。手軽さもちょうど良く、面白かった。



目録107:クトゥルーは眠らない クトゥルーは眠らない
刊行年:2011年 出版社:青心社 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト他
作画:おがわさとし他
収録作品:「臨終の看護」、「哄笑する食屍鬼」、「無人の家で発見された手記」、他。

有味: 青心社による神話小説のコミック化。PHP社のシリーズと異なり、アンソロジーとなっているのだが……。
スミス: 相変わらず「妖神降臨」の昔から作品チョイスの基準は謎ですわね。
有味: 何度重複しようとも「インスマスを覆う影」(本作でのタイトルは「陰栖鱒村綺談」)は妥当なチョイスだと思うんだよ。でも何でクトゥルー神話としてはギリギリの「エーリッヒ・ツァンの音楽」とか「臨終の看護」を入れるのか理解に苦しむ。確かに「インスマス」か「クトゥルーの呼び声」を入れておけば間違いはないのだろうが、それ以外にも入ってしかるべき作品が多々あると思うのだが。
スミス: でも漫画家さんの画力は水準を保っていますわね。
有味: たしかにPHP社シリーズよりは安心の出来。ただ、漫画家がクトゥルー神話にあまり詳しくないのが透けて見えるので残念。監修担当者はせめてクトゥルー神話における食屍鬼がどんなものかをアドバイスしておくべきだと思う。
スミス: オーナーのイチオシをどうぞ。
有味: 「陰栖鱒村綺談」。後半の超展開は紙幅のなさが悔やまれるが、概ね伝えたいことは分かる。個人的に違和感を禁じえなかったのは「奇形」。この小編(原作)は短く良くまとまっていて好きだったので、ラストの改変が蛇足に感じてしまった。



目録108:ダゴン ダゴン
刊行年:2011年 出版社:PHP研究所 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「無名都市」、「ダゴン」、「魔宴」、「神殿」。

有味: PHP社のクトゥルフ神話コミックのシリーズ5冊目。継続して出されているけど、このシリーズって思いのほか売れているのかね?
スミス: 今回はラヴクラフト御大によって書かれた短編の中から、クトゥルフ神話に関連深い4作品をコミック化ですわ。各作品の解説はRPG畑の朱鷺田祐介氏がされていますの。
有味: 「無名都市」はかなり残念な出来。先住匍匐種族が立ち上がった姿が描かれたりしていて、原典の伝えたかった不気味さを半分くらい減じてしまっている。オレは素人なのでマンガがどのような手順で作られるかは知らんけど、担当者や監修者がそこは目を光らせるべきだと思う。つーか、無名都市の住人が二足歩行してしまったら、それはもうラヴクラフトの「無名都市」じゃないだろ。
スミス: 「ダゴン」はこのシリーズの常連漫画家さんが描いただけあって安心の出来ですの。魅せ方に安定感がありますわね。この短編のラストはあまりにも有名なので、好みは分かれるでしょうが、及第点ではないかと。
有味: イチオシは「魔宴」。原作は全編に渡って陰々鬱々としているが、コミック化に際してラストにコミカルさを付け加えている。蛇足とも思えるが、原作がダラダラと狂気を垂れ流す系なので、こういう改変は一味変わって良いかも。「神殿」は狂気が足らなすぎる。



目録109:ビジュアルで楽しむ「クトゥルフ神話」 ビジュアルで楽しむ「クトゥルフ神話」
刊行年:2011年 出版社:PHP研究所 定価:876円 監修:森瀬 繚
収録作品:-

有味: クトゥルフ神話の解説書。最近雨後の筍のようにこの手のガイドブックが出ている気がするが、そんなにも需要があるのだろうか?
スミス: 矛盾や混沌を孕むテーマなので、俯瞰できる識者に道しるべをつけてもらいたいという需要があるのかもしれませんわね。
有味: 本書の内容だが、分類の基本がオレのクトゥルフ神話観とかなり近いので心地よく読めた。オレの神話観の源流はホビージャパンの『クトゥルフ・ハンドブック』の解説なので、本書の内容もゲームに近い認識で書かれていると思われる。
スミス: サンディ・ピーターセン氏を分類の功労者として挙げているのは上手いと思いましたわ。
有味: 神話に登場する場所・土地を扱った「魔物たちの領域」の記事が楽しめた。それぞれの場所の解説からシナリオのアイデアをもらえる。シュトレゴイカバールや黒の碑には長年惹かれて已まないので、いつか取り返しのつかないシナリオを作ろうと思っている。
スミス: 首を洗って待っていろ、ですの。
有味: ところでクトゥグァとハスターが同盟関係にあるというソースは寡聞にして知らないので、どなたかご教授していただけるとありがたい。



目録110:ヴィジュアル版 クトゥルー神話FILE ヴィジュアル版 クトゥルー神話FILE
刊行年:2011年 出版社:学研 定価:600円 編著:東 雅夫
収録作品:-

有味: もう解説本に対して差別化した感想を書くのは無理です。
スミス: ああっ! オーナーがン・カイの深淵に引きこもってしまいましたわ! ここはデキル女である私の力で乗り切らなければなりませんわね……。
えーと、本書の第一の利点は取扱いの容易さだと思いますの。価格には勉強のあとが見られますし、コンビニで手に入るのも良いですわね。サイズも小さいですし、軽いので持ち運びにも便利です。クトゥルフ神話TRPG初心者様に本書のイラストを見せて、「こんな怪物が窓をぶち破って突っ込んできたぜ」と言って活用するのはいかがでしょうか?
有味: ……。
スミス: ああっ! オーナーがツァトゥグァ神のごとく怠惰なモードに!
前掲の目録109『ビジュアルで楽しむ「クトゥルフ神話」』と比べてみると面白いかもしれません。『ビジュアルで~』はタイトルの「クトゥル“フ”」が示すとおりかなりゲームの設定を取り入れているのに対して、本書はタイトルが「クトゥル“ー”」となっていて、邦訳された小説の範囲内で解説されています。どちらも図画は豊富で分かりやすいのでゲーマー布教用/神話ファン布教用と、目的にあわせて使い分けができるかも知れませんわね。
有味: ……。
スミス: ああっ! オーナーがドロドロに溶けて、まるでツァトゥグァ神の無形の落とし子のように! ツァトゥグァ神については本書64~65ページを参照、ですの。



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