書架:12



目録111:幻夢の時計 幻夢の時計
刊行年:2011年 出版社:東京創元社 定価:800円 著者:ブライアン・ラムレイ
収録作品:-

スミス: 「ド・マリニー大冒険の巻」ですわ。
有味: 「ド・マリニーの〈夢の国〉紀行」だね。『ラヴクラフトの幻夢境』の地図と見比べながら読みました。ラヴクラフト以外の書いた幻夢境の話はまだ邦訳数が少ないので、貴重な一冊なのかもしれないね。
スミス: 内容は引き続き超クロウ先生と万能タイム・クロック大活躍の話でしたわね。
有味: タイタス・クロウ・サーガに関しては、まあ、冒険活劇らしいのでそれで良いのだろう。難しいことを考えずにサラッと読めるから楽でいいよ。具体的には『るるいえばけーしょん』と同じ日数で読破できた。
スミス: クロウ先生の大活劇はまだまだ続きがあるそうですので、続刊をお待ちしております。……ティアニア、ウザいですわ。
有味: 途中に挟まれた「グラント・エンダビーの述懐」のくだりが雰囲気が違っていて、なんだか読んだことがあるような話だと思っていたら、解説を読んで納得。



目録112:魔道書ネクロノミコン外伝 魔道書ネクロノミコン外伝
刊行年:2011年 出版社:学習研究社 定価:2,500円 著者:リン・カーターほか
収録作品:「ネクロノミコン」、「サセックス稿本」、「師の生涯」、「ネクロノミコン註解」

スミス: 『ネクロノミコン』とその周辺の断片情報を扱った四人の作者による文書、論文といった感じでしょうか。それぞれが特にコンセンサスを得て書かれたわけではありませんので、互いに矛盾しあう記述などがあったりして混乱する方もいるかもしれませんわね。
有味: 興ざめなことを言ってしまえば「架空の魔道書が実在した」という前提で書かれているので、整然と理論が揃っていては逆に面白みがないのかも。ゲーマー的な見方をすれば、どの記事からどの設定を採用するかは各キーパーの好みに委ねられているので、取捨選択をしてゲーム作りに役立てられたら価値を見出せる一冊なのではないか、と。
スミス: なんだかおっかなびっくりな感想なので不安なのですが、オーナー的にはどの記事が参考になりましたの?
有味: う~ん、基本的にはどれもこれも参考にしていない(笑)。オレは魔道書とか、そもそも「クトゥルフ神話」に具体性を求めていないので。オレが言うまでもなく「クトゥルフ神話」は矛盾を孕む混沌としたものなので、『ネクロノミコン』のよって起つ思想がグノーシス派なのかイスラム系なのかは重要とは考えていないんだよね。できるだけ多くの曖昧な部分を残しておきたい。
スミス: 『ネクロノミコン』に何が書かれているかが無限に後付けできなければ、創作には使えませんものね。
有味: おそらくは中・上級者向けの一冊。まぁ、興味深くはあった。特に「サセックス稿本」のカオスっぷりは笑えた。これに一貫したストーリーを読み取れてしまう訳者・大瀧センセの<英語の読み書き>と<アイデア>の高さには敬服する。
スミス: <日本語の読み書き>技能の判定にも失敗しかねないシロモノですの。
有味: これの原文渡されて「訳せ」と言われたら、意味の取れなさに気が狂ってしまうかもしれない。そういう意味では「クトゥルフ神話」の魔道書っぽいのかも。



目録113:萌え絵で巡る! クトゥルー世界の歩き方 萌え絵で巡る! クトゥルー世界の歩き方
刊行年:2011年 出版社:
三才ブックス
定価:1,500円 著者:クトゥルー神話事典制作委員会
監修:森瀬 繚
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
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目録114:ニャルラトホテプ ニャルラトホテプ
刊行年:2011年 出版社:PHP研究所 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「魔女の家の夢」、「ニャルラトホテプ」、「闇をさまようもの」

スミス: ラヴクラフト御大の作品の中からニャルラトホテプを扱った三作品をチョイス。本のタイトルの通りですわね。
有味: ニャルラトホテプ物語の中からどうして「魔女の家の夢」をメインに選んだかは理解に苦しむが、コミック化自体は本書の中で一番成功していると思う。単純にページ数が多いからかもしれないけどね。逆に「闇をさまようもの」は御大のニャルラトホテプを扱った作品の中では優先度がかなり高いと思うので、ページ数はこの倍でも足りないくらいだろ。案の定、かなり窮屈な作品になってしまっている。
スミス: オーナーの予想に反してこのシリーズは売れているそうです。シリーズが進行して巻を重ねる毎に解説の余地が狭まっていくのが大変そうですわ。
有味: 朱鷺田氏の解説は相変わらず退屈だけど極めて丁寧。御大のエピソードの中でもベストほっこりストーリーの一つである「ブロックとの殺し合い」にもちゃんと触れているので、これに興味を持って原作に参入してくれる人がいれば嬉しいのだが。
スミス: 次は「銀の鍵」関係でカダスへ行ったりするのでしょうか?
有味: 死体蘇生者とかレッド・フックは面白いけどクトゥルフとは関係ないからシリーズを違えないと出てこないだろうな。ヨグ=ソトース関係はダンウィッチが既刊だから苦しいかな?



目録115:アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚 アヴェロワーニュ妖魅浪漫譚
刊行年:2011年 出版社:東京創元社 定価:1,200円 著者:クラーク・アシュトン・スミス
収録作品:「怪物像をつくる者」、「マンドラゴラ」、「分裂症の造物主」、他。

スミス: C・A・スミスおじさまの幻想世界作品集第三弾は中世フランスのアヴェロワーニュ地方を扱った作品群ですわね。
有味: 短編作品が数多く収録されているというオレ好みの構成。そしてどの作品も面白い! 残り半ページで一気呵成にオチをつけるスミスの手腕には、やはり唸らされる。
スミス: 邪神や魔道書の名前がちらほら散見されますが、まとめて読んでみるとあまりクトゥルフ神話とは関係ありませんわね。
有味: うむ。思っていたよりファンタジー寄りだね。ツァトゥグァ(ソダグイ、サドクア)もチラリと触れられる程度にしか出てこないしね。代わりに魔女、魔道師たちが列をなして出てくるので楽しい。また、「降霊術綺譚」としてまとめられた一群の小説はアヴェロワーニュ群と違ってホラー・テイストが強いものが多い。こちらにもクトゥルフ神話TRPGのキーパーには必読の資料が揃っているので、超オススメ。
スミス: オーナーのイチオシは?
有味: モリアミスの策略が可愛い「アゼダラクの聖性」と言いたい所だが、やはり「アフォーゴモンの鎖」と「塵埃を踏み歩くもの」の二作は外せない。この二作だけで今年の日本のクトゥルフ神話シーンは大きく前進した。
スミス: どちらもオーナー待望の翻訳でしたものね。
有味: 個人的には新紀元社の『エイボンの書』以来の超優良物件。クトゥルフ抜きにしてもオモシロイと勧められる一冊。



目録116:魔道書ネクロノミコン【完全版】 魔道書ネクロノミコン【完全版】
刊行年:2008年 出版社:学習研究社 定価:3,800円 編者:ジョージ・ヘイ
収録作品:-

スミス: 目録112の『魔道書ネクロノミコン外伝』と前後してのエントリーですわね。
有味: 実はこの本はコリン・ウィルソンの「序文」があまりにも退屈なので、334ページの1行目まで読んだ後、4年以上も放置してしまった。しかし上記の『外伝』が出てしまったので、覚悟を決めて読破した次第。個人的には退屈な内容だった。オレはラヴクラフト研究者ではなく『クトゥルフ神話TRPG』好きのゲーマーなので、ゲームに還元できる設定が欲しいのだと思う。
スミス: 設定ならば、本書の茶紙の部分の魔道書抜粋的記事があったのでは?
有味: う~ん、こんな内容の魔道書で読者の大半が狂気に陥るとはどうしても考えられない。正気度が0/1ポイント減るかも怪しいだろ。
スミス: あとがきで大瀧先生が言っていますけど、所詮「偽書」ですから。
有味: たぶん上級者向けの一冊です。アホなオレには上級すぎました。



目録117:チャールズ・ウォードの奇怪な事件 チャールズ・ウォードの奇怪な事件
刊行年:2012年 出版社:PHP研究所 定価:1,200円 原作:H・P・ラヴクラフト
収録作品:-

有味: 怒涛の勢いで出ているPHP社のクトゥルフ・コミックシリーズから御大の有名作が登場ですわ。
スミス: ……どうして私のモノマネですの?
有味: ……。
スミス: ……。
有味: 巻数を重ねてノウハウを蓄積してきたおかげか、本書の序盤はかなりワクワクさせられた。原作の長さと本書の厚さからして最も紙幅に恵まれているのもあったと思う。ただ、中盤以降は原作未読者には理解が辛いかも。アレン氏とチャールズの確執や「生気あふれながらも悍しきもの」に関する仄めかしがポートゥックストの地下室をゾッとさせると思うので、そこは残念だった。
スミス: 小説(文章)で曖昧に仄めかされている個所もコミック(画)だとより具体性を増すので、答えが出されないと少し不満が残りますわね。
有味: その曖昧さを解消すべく原作へ逆輸入となれば嬉しい。
シリーズ最初の『クトゥルフの呼び声』の次にオススメできるが、ページ数の増加と価格の上昇には歯止めをかけていただきたい。



目録118:H・P・ラヴクラフト大事典 H・P・ラヴクラフト大事典
刊行年:2012年 出版社:
エンターブレイン
定価:3,500円 著者:S・T・ヨシ
収録作品:-

有味: ハワード・フィリップス・ラヴクラフトというアメリカの作家についてのもろもろの事柄。「クトゥルフ神話」についてもそれらの事柄の内の一項目に過ぎないので、本書を読んでも何かゲームのプレイに役立つ情報があるわけではない。彼の人となりや来歴からクトゥルフ神話の成り立ちを推察して雰囲気作りに役立てるという迂遠な計画を立てるキーパーがいるなら、是非ともご連絡いただきたい。
スミス: 御大の作品についても当然触れられていて、各作品の項目に要約が付されていますので内容を思い出すのに便利ですわね。
有味: オレ的には御大の友人知人の項目が面白かった。「二十世紀最大の怪奇小説作家」と呼ばれることもある人物がアクティブで交友関係も広いというのは意外で興味深い点ではないだろうか。
スミス: 実際に足を運んだ場所で得たインスピレーションを小説や詩に仕上げる御大の手法は、RPGにも転用できるのではないでしょうか?
有味: 国書の『定本ラヴクラフト全集』や創元の『ラヴクラフト全集』を一通り読み終えた、中・上級者向けの一冊だと思う。個人的にはすごく楽しんだ一冊。でも残念ながらこの本が売れるとは思わない。



目録119:クトゥルフ神話アンソロジー・2「深淵」
- ドラッグフェニールの絵画・3
クトゥルフ神話アンソロジー・2「深淵」
刊行年:2012年 出版社:密林社 定価:1,800円 著者:多数
収録作品:「缶詰工場にて」、「迷夢譚」、「還るべき色」、ほか。

有味: クトゥルフ神話同人アンソロジーの第二集。第一集より衝撃度は落ちるが、相変わらず面白く、価値のある一冊。
文章の完成度としては前作よりも上がっている印象を受けるが、同人誌にとってそれが良いか悪いかは一概に判断できない。「書きたいものを書きたいように」というやり方は、得てしてすごいパワーを発揮したりすることもあるからね。もちろん文章が読みやすく理解しやすいことが悪いことであるはずがないのだが。
宇宙的恐怖(コズミック・ホラー)を再現しながら日本独自の要素を入れた作品もあって唸らされた。でもイチオシは「フォリ・デ・ラ・フォレ」。ややアニメ的要素が入っているものの、C・A・スミスのテーマに見事に沿った秀作。オリジナリティも十分にあり、面白かった。「ダークエイジ・アヴェロワーニュ」の参考文献に加えたい位に。
スミス: というわけですの。



目録120:クトゥルーは眠らない 2 ギャザー・ダークネス クトゥルーは眠らない 2
刊行年:2012年 出版社:青心社 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト他
作画:おがわさとし他
収録作品:「壇ノ市の三博士」、「博物館の恐怖」、「無貌の神」、ほか。

有味: 相変わらず凄い表紙詐欺なわけだが。表紙がクトゥルーかと問われれば、そこも自信がないわけだが。
スミス: 青心社さまによるクトゥルー神話小説のコミック化、第二弾ですわね。
有味: まぁ、正直言ってかなりレベルは低い。「暗黒神話体系シリーズ」を刊行してくれた出版社なので擁護もしたいところだが、残念ながら感想は「ツマラナイ」の一言に尽きる。作画(?)も「ちゃんとしたプロ」をつれてきてほしい。
スミス: 第二弾が出たということは、第一弾も売れたということなのでしょうか? 昨今のブーム(平成24年5月現在)でクトゥルー関連の書籍は空前の売り上げらしいですものね。とりあえず、見るべき点を探してくださいませ、オーナー。
有味: 「エリック・ホウムが死んでから」はダーレスの「エリック・ホウムの死」の後日談なのだが、これは上手く作られたマンガ。原作のテーマを損なわずにオリジナリティを入れている。また、「いんすま市を覆う影」はラヴクラフトの「インスマスを覆う影」を下敷きにした完全オリジナルストーリー。いっそのこと、これくらいオリジナルに徹した方が新しい神話作品として評価もできる。一番ダメなのは「イグの呪い」。絵柄はともかく、原作の一番重要な個所(ラストの明かされた真相の不気味さ)を完全に潰してしまっている。
スミス: オリジナリティが評価されたり、原作との違いが評価されなかったり、ムツカシイですわ……。
有味: どこに価値を見出そうとするのが正しいのか、答えに窮する一冊。総合的な評価は「ツマラナイのでオススメしない」。



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