書架:13



目録121:闇にささやく者 闇にささやく者
刊行年:2012年 出版社:PHP研究所 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「闇にささやく者」、「ある週末」、「無窓館の絵画」。

有味: ミ=ゴの暗躍を描いたラヴクラフトの傑作をコミック化。まぁ、このシリーズのいつも出来です。高くない位置で安定しています。
スミス: 原作との大きな違いは、やはり最後のシーンでしょうか?
有味: 小説とコミックの違いがあるので話の作りかたが異なるのはしかたがないのかもしれないが、原作は盛り上がった所を最後の一文でギロチンのごとく「ザンッ!」と叩き切るところにカタルシスがあるので、コミックの言い訳的なラストはやはり蛇足に感じてしまうね。
スミス: でも原作同様のラストをコミックで用意したら、「バ~~~ン!(終)」という効果音が書かれそうで怖いですわ。
有味: そうなるとホラーというよりギャグだな。
スミス: 本書の巻末には二編のスピンアウト小説が収録されていますの。
有味: 解説者の顔の広さによって実現した企画なんだろうね。さすがに実績のある作者が分かって書いているだけあって二編とも面白い。でも基本的にコミックはマンガで勝負しないと。



目録122:異次元を覗く家 異次元を覗く家
刊行年:1972年 出版社:早川書房 定価:660円 著者:ウィリアム・ホープ・ホジスン
収録作品:-

有味: マイナー神話生物補完作戦。『マレウス・モンストロルム』102ページに収録されている「ブタ人間」というあまりにもあまりな名称の独立種族が登場する一冊。
スミス: でも、神話というにはあまりにも微妙な一冊ですわね。
有味: 物語の最初はコズミック・ホラーっぽくてワクワクしながら読んでいたが、中盤に入って「ん?」と思い始め、最後はSFだか何だか分からなくなっていた。「どうしてこうなってしまったんだ」というのが正直な感想。特に「眠りの海」の個所とか、意味不明すぎる。
スミス: 物語としての体裁は「廃屋で発見された作者不詳の手記」というクトゥルフ神話らしいものですのに。
有味: 狂人の書いたものの戯言感を出すための狙いだとしても突飛過ぎる。乱丁で別の物語の断章が入ってしまったかのような違和感。
スミス: 全体的に困惑させられた一冊でしたわね。
有味: 残念ながら「ブタ人間」についての情報はほとんど得られなかった。ホジスンの宇宙観(?)の一端を理解するのには役に立つのかもしれないが、神話的資料としては弱い。そもそもこの話を神話に組み込もうというのが強引過ぎるだろ。



目録123:闇の展覧会[2] 闇の展覧会[2]
刊行年:1982年 出版社:早川書房 定価:560円 編者:カービー・マッコーリー
収録作品:「闇の孕子」、「リンゼイと赤い都のブルース」、「精神一到……」他。

有味: マイナー神話生物補完作戦。『マレウス・モンストロルム』64ページに収録されている「ゾ・トゥルミ=ゴ」が登場する作品が収録されている。
スミス: 本としてはさまざまなジャンルの作家による怪奇幻想小説のアンソロジーですわね。
有味: 無知なオレでも名前くらい知っているSF作家たちが参加している。神話ファンにはおなじみのラムジー・キャンベルやロバート・ブロックも稿を寄せているが、まったく神話とは関係ない作品だね。
スミス: 怪奇幻想小説というのも、なかなか奥が深いジャンルですわね。
有味: たぶんオレが最も数多く触れている怪奇幻想小説はC・A・スミスの作品だと思うのだが、いまだにその輪郭は掴めないでいる。いわゆる日本の怪談とは違うジャンルだというのは間違いないのだが。ロバート・ブロックの「クリスマスの前夜」は動機も結末もはっきりとしていて分かりやすいけど、これが本書収録の他の作品と同ジャンルだとすれば裾野が広すぎる。
スミス: では恒例のオーナーのイチオシを。
有味: これを目当てに読んだのだから当然だが、T.E.D.クラインの「王国の子ら」。確かに神話アンソロジーに紛れ込んでいても違和感のない作品。ゾ・トゥルミ=ゴを使おうというキーパーは絶対に読んでおくべき。



目録124:クトゥルフ神話への招待 クトゥルフ神話への招待
刊行年:2012年 出版社:扶桑社 定価:800円 著者:J・W・キャンベルJr.
H・P・ラヴクラフト
ラムジー・キャンベル
収録作品:「遊星からの物体Ⅹ」、「恐怖の橋」、「クトゥルフの呼び声」他。

スミス: この書名にして巻頭には「遊星からの物体Ⅹ」ですわね。
有味: いきなり鋭い変化球が投げ込まれてきたので何事かと思った。恥ずかしながら初見だったが、「遊星からの物体Ⅹ」という作品自体はかなり面白い。しかし舞台が似ているからかもしれないが、この巻頭作品は「狂気の山脈にて」と合わせて紹介すべきではないだろうか? そして「狂気の山脈にて」が“クトゥルフ神話”というテーマにおいて巻末収録の「クトゥルフの呼び声」より重要かと問われると疑問が残るので、作品チョイスには若干理解に苦しむ。
スミス: 何度も映画化されるほど面白い作品を巻頭に立てて、確立された“クトゥルフ神話”の中で名を上げたラムジー・キャンベルの作品を紹介して、最後に金字塔的「クトゥルフの呼び声」を配することで、なだめすかしながら最後まで読んでもらおうという作戦ではないかと。
有味: 『クトゥルフ神話への招待』という大きなタイトルには首を傾げざるを得ないが、何か事情があるのかもしれない。知らんけど。ラムジー・キャンベルの未訳5作品収録は快挙。キャンベル作品翻訳を待望していたファンなら買って損はない。
スミス: オーナーのイチオシは?
有味: 「ヴェールを破るもの」。むしろこの一作のために800円払える。「遊星からの物体Ⅹ」もすごく面白いのだが、神話ファンとしてはこちらのキャンベルの作品を推さないわけにはいくまい。



目録125:恐怖と混沌のクトゥルフ神話ビジュアルガイド 恐怖と混沌のクトゥルフ神話ビジュアルガイド
刊行年:2012年 出版社:笠倉出版社 定価:900円 著者:クトゥルフ神話研究会
収録作品:-

スミス: 目録81および89の改訂版ですの。
有味: クトゥルフ神話の作り方という新章が追加されたり、最新情報が盛り込まれたりしている。『ナイトランド』誌や『H・P・ラヴクラフト大事典』といった比較的新しい情報も追加したり、かなりがんばっている印象は受けるな。
スミス: ただどうでしょうか、少し詰めが甘い場所がチラチラと……。
有味: そうだね。例えば『クトゥルフ神話LCG』は本邦未訳とされているが、既に完全日本語版が発売され、そして波を起こすことなく静かに消えていった(無理やり買わせたのにスマン、哀・狂兄貴くん)。原稿をまとめて俯瞰できる一定以上の知識がある人物=編者・監修者は大切なんだなぁと考えさせられる。
スミス: 2012年前半の日本における過去最大級のクトゥルフ神話ブームで興味を持った方たちが、本書のような解説書でさらに深く足を踏み入れてくれたら嬉しいですわね。
有味: 個人的には当時の『図解クトゥルフ神話(目録51)』並みに思い切った独自性を持つ解説書を要望したい。



目録126:銀の鍵 銀の鍵
刊行年:2012年 出版社:PHP研究所 定価:1,100円 原作:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「ランドルフ・カーターの陳述」、「セレファイス」、「ウルタールの猫」他。

有味: ランドルフ・カーターと幻夢境に関する短編を5編収録。作品も解説も、いつもどおりのクオリティです。もうこのシリーズの感想を考え出すのは疲れました。巻を重ねているのはすばらしいと思います。以上。
スミス: 以上、ですの。



目録127:未知なるカダスを夢に求めて 未知なるカダスを夢に求めて
刊行年:2012年 出版社:PHP研究所 定価:1,300円 原作:H・P・ラヴクラフト
収録作品:-

スミス: ラヴクラフト御大の同名小説の漫画化ですの。何もかもがこのシリーズのいつも通りのクオリティですわね。
有味: 世界観になぜかナウシカのテイストを入れているという謎の挑戦は、他との差別化という意味では評価できる。でもランドルフ・カーターはこんな夢は見ていないと思う。神話クリーチャーの考証は努力の跡が見られる。ガグはかなり頑張ったし、グールも“クトゥルフ神話”のグールにより近い。
スミス: でも、何故か這い寄る混沌はオカルトかぶれのもののけ姫でしたわね。
有味: ラヴクラフト作品としてはかなり絢爛な部類に入る話だけど、明らかに彩りは足りていないので、ニャルラトホテプにその役を割り振るのは、まぁ、理解の範疇ではあるかな。
スミス: ……思ったほど噛み付きませんわね、オーナー。
有味: このシリーズには多くを求めていないので。個人的には語ることが少なくなって追い詰められていく解説パートを楽しみにしている。
スミス: (……相変わらず邪悪ですわ)



目録128:ネクロノミコン異聞2 ネクロノミコン異聞2
刊行年:2012年 出版社:
イカロス出版
定価:1,143円 著者:鳥山 仁
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
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目録129:邪神金融道 邪神金融道
刊行年:2012年 出版社:創土社 定価:1,600円 著者:菊地 秀行
収録作品:-

スミス: 創土社のクトゥルー・ミュトス・ファイルズの嚆矢となる一冊で、菊地秀行先生の書き下ろしとなればこれは期待が持てそうですわ。
有味: うーん、まぁ、面白かったといえば面白かったけど。
スミス: う……歯切れが悪いですわね。
有味: 一消費者という無責任な立場から言わせてもらうと、この作者のこの手の作品は「妖神グルメ」で頂を極めてしまっていると思うんだよね。かなり大雑把に分類すれば本書は「妖神グルメ」に近いジャンルだと思うので、個人的には本書から新奇な何かを感じることはできなかった。
スミス: 街金とクトゥルフを融合させた今までになかった作品と絶賛している向きもありますのに……。
有味: それでもオレは血も凍るような戦慄のクトゥルー神話が読みたかった。今後のシリーズ展開に期待します。



目録130:異次元の色彩 異次元の色彩
刊行年:2012年 出版社:PHP研究所 定価:1,000円 原作:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「エーリッヒ・ツァンの音楽」、「異次元の色彩」。

有味: いつものシリーズの、いつものクオリティの一冊。
スミス: シリーズの推進力には目を見張りますわね。今年だけで五冊リリースしていますもの。
有味: 「エーリッヒ・ツァンの音楽」は何度も漫画化されているものの、決定版がないという事実がその難しさを象徴しているよね。テーマが「音」の作品に「絵」という強力なフィルターがかかってしまうので、ベクトルが画一的になりすぎるのだと思う。「エーリッヒ・ツァン」に感じられる“何か”は文章の行間に存在すると思うので、「絵」という誰の目にも明らかな形あるものに落とし込むのはかなり難しいようだ。
スミス: 表題作の「異次元の色彩」の方はどうですの?
有味: ラストでラヴクラフトが伝えたかったことは「違うんじゃねーの」と個人的に感じているけど、まぁ、それも含めていつも通りということで。
スミス: 作品解説は相変わらず面白いですわね。
有味: 手垢のつきまくったラヴクラフトの代表作に通り一遍の解説をつけるには、このシリーズの解説陣はあまりにも実力がありすぎる(笑)。今回もかなり変化球的な視点からの解説で、苦しみと工夫が伝わってきて楽しい。このシリーズの楽しみの半分が、本当に解説パートになってきた。



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