書架:14



目録131:クトゥルフ神話超入門 クトゥルフ神話超入門
刊行年:2012年 出版社:新紀元社 定価:1,000円 編:新紀元社
監修:朱鷺田 祐介
収録作品:-

スミス: 昨今のクトゥルフ神話ブーム(?)を補完すべく颯爽と入門書が登場ですの。
有味: 内容の薄いハウツー本の体裁を真似た一冊。「超入門」なので内容の濃さを求めるのは間違いだとしても、この価格はない。これからクトゥルフ神話の門をくぐろうとする秘儀参入者(イニシエート)に、いきなり千円払えっていうのは酷だろう。
スミス: 最初からハードルが高いですわね。
有味: 目的からすると半額くらいの値段が妥当かな。もとよりハウツー本を揶揄した珍本なのかも。個人的には二度は読み返さない類の本だと思うが、内容は例によって根気強く丁寧。
スミス: 巻の最後にRPG関係の記事を入れてくるのは監修者様ならではですわね。



目録132:深き淵よりの嘆息 深き淵よりの嘆息
刊行年:2007年 出版社:岩波書店 定価:600円 著者:トマス・ド・クインシー
収録作品:-

有味: マイナー神話生物補完作戦。「レヴァナとわれらの悲しみの貴婦人たち」という章に「嘆きの聖母たち」(『マレウス・モンストロルム』195ページ)について書かれている。しかし、読破にはかなり苦しんだ。
スミス: 250ページくらいの文庫本に二年半くらいかかっていますわね。
有味: この本は小説じゃなくて「告白録」というものらしいんだけど、正直言って作者ド・クインシーの人格形成過程のダラダラとした説明等にはまったく興味が持てなかった。対マジックポイントの対抗ロールに失敗して、何度も挫折した一冊。ただし「嘆きの聖母たち」をゲームで使いたいキーパーにとって「レヴァナとわれらの悲しみの貴婦人たち」の章は必読。まぁ、この存在自体かなり扱いが難しいとは思うのだが。
スミス: でも「嘆きの聖母たち」は多くの人を惹きつける存在みたいですわね。
有味: この存在に影響を受けた映像作品もあるみたいだからね。余裕で未見だが。受信できる人は受信できるのだろう、何かを。
スミス: Miskatonic River Press のズバリ『Our Ladies of Sorrow』というCoC用キャンペーンもありますわ。
有味: かなり扱いが独特なキャンペーンだけどな。絶対邦訳されないと思う。



目録133:未完少女ラヴクラフト 未完少女ラヴクラフト
刊行年:2013年 出版社:PHP研究所 定価:648円 著者:黒 史郎
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
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目録134:地底の鰐、天上の蛇 地底の鰐、天上の蛇
刊行年:1987年 出版社:
幻想文学会出版局
定価:1,500円 著者:倉阪 鬼一郎
収録作品:「忘書堂綺譚」、「七色魔術戦争」、「夜想曲」、他。

有味: 倉阪鬼一郎のデビュー作。怪奇幻想小説の短編集となっているが、別にクトゥルフ一色というわけではない。
スミス: クトゥルフ神話関係と思われるのは……終末同盟基準に照らすと「インサイダー」と「未知なる赤光を求めて」は確実にクトゥルフ神話ですわね。
有味: 「インサイダー」はラヴクラフトの「アウトサイダー」の後日譚。「アウトサイダー」がクトゥルフ神話かといわれると微妙な線なのだが、「インサイダー」ではダイナミックにクトゥルフ神話になっている。「未知なる赤光を求めて」はこれまたラヴクラフトの「未知なるカダスを夢に求めて」のパロディ的な部分を持つ作品だが、「カダス」の悪役(?)がニャルラトテップなのに対し、「赤光」の黒幕は無明の霧から生まれた彼の存在と思われ、その対比が面白い。
スミス: その二作品もふくめて、すべての作品に「母音」とか「赤光」とかのイメージが通底していて、作者氏の世界観を感じられる一冊ですわね。
有味: 読み終わった後、久々に「凄い」の感想しか出てこなかった。
スミス: では恒例のオーナーのイチオシを。
有味: クトゥルフ神話的には「インサイダー」を推さざるを得ないが、圧巻だったのは表題作の「地底の鰐、天上の蛇」。圧巻というか、呆気にとられたというか、読み終わった後にマジックポイントを1D2ポイントくらい吸い取られた気がした。



目録135:ゲーム・アニメ・ラノベ好きのための「クトゥルフ神話」大事典 ゲーム・アニメ・ラノベ好きのための「クトゥルフ神話」大事典
刊行年:2013年 出版社:カンゼン 定価:1,300円 編著:レッカ社
収録作品:-

スミス: 昨今のブームに乗って……というこのくだりももう飽きてきましたわね。
有味: 事典というよりは「ニャル子さん」と「デモンベイン」の元ネタ読本って感じかな。既刊の事典と大きく差別化が図れているかというとそんなことはない。独自の基準と調査によって編まれたとは思うんだけど、「クトゥルフ神話」としてはかなり底が浅いので読了にかなり忍耐を要した、個人的に。
スミス: ニューカマーにはちょうど良いのかもしれませんわね。フォロー、フォローですわ。
有味: 原作というか出典へのリンクもぞんざいで、「ここからクトゥルフ世界へようこそ!」という狙いはないのかも。部外者が、さらなる部外者に聞きかじりを説明して「ふーん」という反応を得るかのような一冊。同じ編者の『「クトゥルフ神話」がよくわかる本』(目録78)は個人的に評価すべき点があると思うので(主に価格)、どうせならこちらをお勧めしたい。
スミス: ……もうフォローしきれませんわ。
有味: 内容が参考文献の並びの通りなのには笑わせてもらいました。



目録136:緋の水鏡〈上・下〉 緋の水鏡
刊行年:2013年 出版社:創芸社 定価:各600円 著者:くしまちみなと
収録作品:-

スミス: クトゥルフ・ファンタジー降臨! ですの(帯より)。冷静な感想を期待しますわ。
有味: なんかどこかで見たことのある「あり物」が寄り集まっているな~と思いながら読んでいたら、あとがきを読んでむべなるかな、と。ゲーム(?)のノベライズみたいだね。確かにそれっぽい雰囲気がある。
スミス: 現時点のジャパニーズ・クトゥルーの立ち位置はこの辺りなのかもしれませんわね。
有味: 国産クトゥルーは鬼子として独自の進化を遂げている部分もあるので、とりあえず数を出して淘汰の段階まで到らねばならんのだろう。知らんけど。
この作品の感想に戻ると、登場人物から筋書きまでいかにもな「あり物」を集めて二分冊にして売ったことに、まずびっくりした。あとは作者の頭の中にある話が紙面に発露しきれていないのかな~、と。例えば夏彦って重要な登場人物なのかもしれないけど、存在が寄る辺ないというか、最期まで存在意義が見い出せなかった。コイツとジャーナリストのくだりは削っても問題ないと思う。タイトルの「緋の水鏡」に関しても、もしかしたら読み飛ばしてしまったのかもしれないと不安になるほど重要性が感じられなかった。
スミス: ……私にはオーナーが結構楽しんで読んでいたように見えたのですが?
有味: 上巻の中盤くらいまでは、正直楽しんでいたけどね。
しかし、黒幕は例のトリックスターだったみたいだけど、こんなにコスイ這い寄る混沌は初めて見た。そもそも、別にクトゥルーじゃなくてもいいよね?
スミス: もうおやめになってください!!



目録137:ダンウィッチの末裔 ダンウィッチの末裔
刊行年:2013年 出版社:創土社 定価:1,700円 著者:菊地 秀行、
牧野 修、
くしまちみなと
収録作品:「軍針」、「灰頭年代記」、「ウィップアーウィルの啼く声」

スミス: 本書にはH・P・ラヴクラフトの「ダンウィッチの怪」にオマージュを捧げた中編3作が収録されていますの。執筆陣は豪華ですわね。
有味: 実績のある人たちが参加してくれると、とりあえず箔がつくというのはあるな。そして実際に面白い。つーか、興味深かった。
スミス: 興味深い?
有味: 収録3作品のどれも解決策に武力が関わってくるんだよね。作品を書く上で何か縛りがあるのかとすら思えるくらいに。そして軍隊を舞台にした菊地秀行の「軍針」が武力とは最も縁遠い解決法だったことも面白かった。
スミス: どの作品も作者なりのダンウィッチの解釈があって楽しいですわね。
有味: 「灰頭年代記」は力作だと思うけど、第四話は蛇足だと思う。いきなり『サイレン』のSDKのスペシャル・ステージが始まったみたいでついていけなかった。
スミス: オーナーのイチオシは?
有味: 「ウィップアーウィルの啼き声」。パラグラフ式のゲームブックなんて久しぶりにやったよ。4回目でトゥルーエンドらしきものにたどり着いた。細かいことはともかく、このチャレンジ精神は素晴らしい。



目録138:ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典 ゲームシナリオのためのクトゥルー神話事典
刊行年:2013年 出版社:
ソフトバンク
クリエイティブ
定価:1,890円 著者:森瀬 繚
収録作品:-

有味: まぁ、さすがといったところ。ここ2~3年で濫造された「まるで他の解説書を読んで得た知識で書かれたかのような解説書」とは一線を画している。“知っている人が知っていることを書いた”のではなく、“分かっている人が自分なりに理解・解釈して書いている”のが伝わってくる。
スミス: 調査にかけた労力の絶対量が違う感じですわね。
有味: 参考書としては非常に役に立つ。でも事典を一冊読むよりは、関連の短編小説を一本でも読んだほうが為にはなると思うけど。
スミス: ここ数年のブームで出版された解説書としては頭一つ抜けている感じですわね。
有味: 確かにね。個人的にはブームに日和って当たり障りのない内容になったという感想。やはり『図解 クトゥルフ神話』の尖ったチャレンジ精神が鮮烈すぎた。



目録139:チャールズ・ウォードの系譜 チャールズ・ウォードの系譜
刊行年:2013年 出版社:創土社 定価:1,700円 著者:朝松 健、
立原 透耶、
くしまちみなと
収録作品:「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」、「青の血脈~肖像画奇譚」、「妖術の螺旋」

スミス: 定期的に日本人作家のクトゥルー神話作品が読めるこのシリーズは本当にありがたいですわね。今回はラヴクラフトの「チャールズ・ウォードの事件」へのオマージュ集ですの。
有味: さっそくだがイチオシは朝松健の「ダッチ・シュルツの奇怪な事件」。目を凝らす必要もなく明らかに「チャールズ・ウォード」へのオマージュで、しかもテンポが良くて面白かった。「青の血脈~肖像画奇譚」は冗長で散漫。「妖術の螺旋」は正統派クトゥルフかと思ってワクワクして読んでいたら、最後にデウス・エクス・マキナが降ってきて唐突に話をたたんだので面食らった。
スミス: オマージュという括り的にはどうですの?
有味: オレ的には「チャールズ・ウォード」と言えば圧倒的に「本質的な塩」の魔術と「生気あふれながらも悍しきもの」なので、それらが登場しないと納得できなかった。「ダッチ・シュルツ」以外の二作が本書以外に収録されたとして、「チャールズ・ウォード」へのオマージュだと見破る自信は、オレにはない。クトゥルーという縛りの中にあっては、朝松健の頭の良さと勘の良さが頭一つ飛び抜けていることを再認識させられた一冊だった。
スミス: ……このところ、朝松先生へのポジティブな感想が増えてきましたわね。
有味: 最近になってようやくこの人のクトゥルー神話を楽しむステージにたどり着いたんだよ。成否を怖れずに、常にクトゥルー神話と正面から組み合おうとしているのセンセの姿勢が理解できるようになった。多分。



目録140:古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待 古きものたちの墓 クトゥルフ神話への招待
刊行年:2013年 出版社:扶桑社 定価:952円 著者:コリン・ウィルソン、
ラムジー・キャンベル、
ブライアン・ラムレイ
収録作品:「ムーン・レンズ」、「湖畔の住人」、「古きものたちの墓」、「けがれ」。

有味: 目録124の『クトゥルフ神話への招待』の続巻的位置づけの一冊。
スミス: 「クトゥルフ神話への招待」という入門編のようなタイトルがついていますが、内容は押さえるべき基本的な古典の紹介ではなく、年季の入ったファンが待望していた作品が多数収録されたものになっていますわね。
有味: 「ムーン・レンズ」はシュブ=ニグラスがはっきりとその姿を現す珍しい一作。「湖畔の住人」はゲーマーが四半世紀近く翻訳を待ち望んでいた作品。この作品を読めるだけでも本書には大いに価値がある。コリン・ウィルソンの「古きものたちの墓」はこの内容なら三分の一の文章量で伝えきれると思う。ブライアン・ラムレイの「けがれ」はいかにもクトゥルフらしいオーソドックスな話。やはりタイタス・クロウ以外のラムレイ作品は安心の出来。
スミス: オーナーのイチオシは、やはり?
有味: そう、「湖畔の住人」。さまざまなガジェットがお約束的展開の中で活き活きと躍動する心地よい神話作品。巻末の「〈エッセイ〉「クトゥルフ神話」のトレンド」も、なかなか読ませる。数年後には「ああ、信じられないけどこんな時代もあったな~」と感慨を覚えるのだろう。



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