書架:15



目録141:地下道の悪魔 地下道の悪魔
刊行年:2002年 出版社:学習研究社 定価:1,200円 著者:新庄 節美
収録作品:-

スミス: 「ファンタジック ミステリー館」という、小学校中~高学年向けのシリーズ中の一冊ですの。いわゆる児童書に分類されるのではないでしょうか?
有味: しかし児童書と侮るなかれ、内容は独自解釈をしっかりと盛り込んだ立派な神話作品。たまに見かける「既存の単語を使わずに神話を表現する」と称する意味不明な雰囲気神話作品よりは、ずっと神話体系に対する貢献度は高い。
スミス: 「この内容にして、なぜ魔道書が『ガールン断章』なのか」という疑問は重箱の隅をつつくようなものですわね。
有味: 意外と細部まで既存設定を盛り込んでいるだけに惜しい気もするが、『ガールン断章』に関する新しい設定だと判断しよう。
スミス: ストーリー的にはやはり子供向けの“分かりやすさ”の比率が高くなっていますが、原因なき同時多重出現(?)等、しっかりと宇宙的恐怖の要素は嗅ぎ取れますわね。
有味: 中盤の伏線がオチに繋がっているし、短いながらもしっかりと作られた作品。この辺りのシリーズは見逃してしまうことが多々あるので、アンテナを高くしておかないと。どうでもいいけど、ターゲット年齢層にこの本を買わせるために1,200円払わせるのは酷だと思う。



目録142:ホームズ鬼譚~異次元の色彩 ホームズ鬼譚~異次元の色彩
刊行年:2013年 出版社:創土社 定価:1,700円 著者:山田 正紀
北原 尚彦
フーゴ・ハル
収録作品:「宇宙からの色の研究」、「バスカビル家の怪魔」、「バーナム二世事件」

有味: オマージュって難しいな。
スミス: いきなりですわね。お手柔らかに、ですの。
有味: 個人的な感想だが、「宇宙からの色の研究」はホームズでありクトゥルフなのかもしれんが、異次元の色彩ではないだろ。これも異次元の色彩に含んで良いなら、すそ野はかなり広がるぜ。「さすが巨匠! こういう風に料理してきましたかぁ!!」ともろ手を挙げて賞賛している人たちは異次元の色彩に脳みそ吸われちゃっているんじゃねーの? オレが「異次元の色彩」でオマージュ編むならこの作品は「ノー」だね。
スミス: 『End Time』的な世界観は面白いと思いましたとフォロー、フォローですわ。
有味: 「バスカビル家の怪魔」は紛れもなく異次元の色彩なので面白かった。色彩が憑依した体を操って跋扈する思考を持つかどうかは首をひねるところだが。
スミス: オーナーのイチオシは?
有味: 「バーナム二世事件」。オレは「A中学校で一番最初に『地獄の館(FF10巻)』をクリアした男」を自負して生きてきたので、ゲームブックは外せない。何度もページを行きつ戻りつして懐かしい気分に浸れた。ちなみに推理は惜しいところで全問正解を逃した。目の付け所は間違っていなかったんだがなぁ……。
スミス: クトゥルフとホームズとのクロスオーバーの試みはどうでしたか?
有味: 「クトゥルフ・ファンの何%がホームズに興味あるか知らんけど――」と難癖つける気満々だったが、よく考えたら『クトゥルフ・バイ・ガスライト』で扱っているテーマだよな。どうせならソーラー・ポンズで……というのはさすがにひねりすぎか。



目録143:邪神艦隊 邪神艦隊
刊行年:2013年 出版社:創土社 定価:1,000円 著者:菊地 秀行
収録作品:-

有味: さすがに実力のある作家が書くと面白いな。特に架空戦記モノは作者が喜んで研究調査しているから筆が走るんだろうね。
スミス: う……でもオーナーの好みには合わなかったのですわね(顔色をうかがいながら)。
有味: オレは軍事関係には明るくないし、興味もないので本書のテーマに喝采する要素がないんだよね。正直言ってクトゥルフ神話的に目新しい要素、ないよね? 『邪神艦隊』っていうタイトルから連想した内容を大きく裏切られる展開があったかと聞かれると、まったくなかったとしか言いようがない。結局いつものルルイエ一党をからめた話かよ。
スミス: 「歴史の影にクトゥルフの陰謀あり」っていうのは、もう一つのサブジャンルとして確立しているのではないかと。
有味: 個人的な感想としては、歴史とクトゥルフをクロスオーバーさせたもの、たとえば『邪神帝国(目録41)』とか『邪神たちの2・26(目録62)』とか『クトゥルー神話ダークナビゲーション(目録56)』収録の「邀撃 中ノ鳥島海戦」(コレは史実ものじゃないか?)とかの作品って、日本のクトゥルフ・シーンに何ら影響を与えていないと思うんだよね。海外の半同人短編の「なんじゃこりゃ?」っていう作品の方が、よっぽど神話世界を展開させている。
スミス: 歴史もクトゥルフも基本的には「既存」のものなので、それを足しても新奇なものはなかなかできませんわね。神話体系への攻撃的なアプローチに消極的なのは、日本人の特性なのでしょうか?
有味: なんにせよ「クトゥルー戦記②」はいらないので、菊地センセ的には変化球気味な「正統クトゥルフ神話」を書いてはいただけないだろうか? 「出ずるもの」のようなホラーを希望。あと、ルルイエ御一行様はもう食傷気味なので結構です。あ、これ、個人的な感想ね。



目録144:超時間の闇 超時間の闇
刊行年:2013年 出版社:創土社 定価:1,700円 著者:小林 泰三、
林 譲治、
山本 弘
収録作品:「大いなる種族」、「魔地読み」、「超時間の檻」

スミス: タイトルから想像できる通り、ラヴクラフト御大の「超時間の影」へのオマージュですわね。比較的キャラクターがはっきりとしたイースの偉大なる種族が題材なので、どの作品もテーマが大きくブレることはなかったように思いますの。
有味: 一篇目の「大いなる種族」が一押しだね。読み終わって開口一番、「オモシレー!」と出た。完璧なイースの偉大なる種族の話であり、クトゥルフ神話である作品。原作からしてかなりSF色が強いと思うんだけど、見事にタイムパラドックスを取り入れてSFに仕上がっている。今までに「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」シリーズに登場した作品の中でも出色の面白さ。
スミス: 二篇目の「魔地読み」が本書では一番変化球気味でしょうか?
有味: 中盤までサスペンスっぽくて「ここからどうやって神話にもっていくんだ?」と思っていたら、終盤で確かにクトゥルフ神話になった。ただし桜猫の正体は類型的で興ざめ。
スミス: 「超時間の檻」はゲームブックですわね。山本先生のゲームブックというと……「暗黒の三つの顔」以来のプレイでしょうか?
有味: ゲームブックであることを除けば、至極オーソドックスな「イースの偉大なる種族」モノ(褒め言葉)。探偵とジャーナリストが協力して偉大なる種族に対抗するあたり、凄くゲームっぽい。フローチャートを描けば、かなりきれいなパラグラフの並びが出てくると思う。やらないけど。
スミス: 総じて粒のそろった良い中篇集でした。今のところシリーズで一押しですわね。



目録145:インスマスの血脈 インスマスの血脈
刊行年:2013年 出版社:創土社 定価:1,500円 著者:夢枕 獏×寺田 克也、
樋口 明雄、
黒 史郎
収録作品:「海底神宮」、「海からの視線」、「変貌羨望」

有味: 安定の創土社「クトゥルー・ミュトス・ファイルズ」シリーズ。このシリーズの登場で2013年の本邦クトゥルフ・シーンは関連作品の安定供給という数年前には想像もできなかった状況になった。基本的に文句ばっかり言っているが、感謝感謝。
スミス: 本書はラヴクラフト御大の代表作の一つ、「インスマスの影」へのオマージュ中編集ですの。
有味: 一篇目の「海底神宮」はイラストと詩(?)を組み合わせた作品らしいけど、オレは詩情を理解するほど典雅な能力値を持っていないので、評価不能です。これが夢枕獏以外の人間が書いても同様に評価されるのなら、作品として優れているのでしょう。いろいろ挑戦する姿勢は素晴らしいと思います。
スミス: 「海からの視線」は分かりやすく「インスマスの影」へのオマージュですわね。
有味: びっくりするほど凡百のインスマス変奏作。これくらい直球の方がオマージュとしては分かりやすくて良いのかもね。
スミス: 「変貌羨望」の舞台が山梨県の青木ヶ原樹海なのは、「インスマス=海辺」の先入観に対する挑戦なのかもしれませんわね。
有味: 「インスマスの影」の潮臭い海からの恐怖というテーマではなく、異形への変貌に対する嫌悪を主題としている作品。何よりクトゥルフ神話であると同時に、間違いなくホラーである点が素晴らしい。中篇の中でオリジナルの設定を持ち出しつつ、それらを完結させる展開はさすがという感じ。本書の一押しはこれかな。



目録146:ユゴスの囁き ユゴスの囁き
刊行年:2014年 出版社:創土社 定価:1,500円 著者:松村 進吉、
間瀬 純子、
山田 剛毅
収録作品:「メアリーアンはどこへ行った」、「羊歯の蟻」、「蓮多村なずき鬼異聞」

スミス: 「闇にささやくもの」へのオマージュですわね。ミ=ゴは確立されたキャラクターなので、扱いは簡単かもしれませんわね。
有味: 作品へのオマージュというよりも、個々のテーマ(モンスター)を扱った中編集っていう方針で行くシリーズなのかね。まぁ下手に縛るよりも面白い作品が出てくるとは思う。
一篇目の「メアリーアンはどこへ行った」が一押しかな。現代社会の問題(児童虐待)とクトゥルフ神話の融合って一ジャンルだと思うんだよね。『ナイトランド』あたりでいくつか読んだ気もする。ジューディス突入の場面は緊迫感がある。個人的には隕石猫のくだりはいらなかったと思うが。
スミス: 二篇目の「羊歯の蟻」はかなり力作だと思いますわ。
有味: 周辺地図が良いよね。寒村の暗い因習的な話で前半部は楽しめたけど、後半は展開が雑になったので残念。多分、中篇じゃ紙幅が足らないんだと思う。長編向きの内容だと思うんだよねー。
スミス: 「蓮多村なずき鬼異聞」は何でしょうか? 浮世絵草子と文章とスクラップが融合したまったくアタラシイ……?
有味: RPGシナリオのハンドアウトみたいだよね。『サイレン・マニアックス』の羽生蛇村の設定資料ページにも似てるかも。コレ使ってシナリオ作れるな、きっと。相変わらず面白い試み。
スミス: 本書はどれもわかりやすくミ=ゴでしたの。ミ=ゴの突飛な習性も組み込めば説得力は上がりますわね。
有味: あとは編集の中の人がいっぱいいっぱいみたいなので、誰か手伝ってあげてくれって感じ。活字にかかわる人間が「シュミレーション」てタイプして、それがそのまま通っちゃうようじゃ、作りが雑だと思われても仕方ないよ。



目録147:クトゥルーを喚ぶ声 クトゥルーを喚ぶ声
刊行年:2014年 出版社:創土社 定価:1,500円 著者:田中 啓文、
倉阪 鬼一郎、
鷹木 骰子
収録作品:「夢の帝国にて」、「回転する阿蝸白の呼び声」、「Herald」

有味: タイトルから想像できるように「クトゥルーの呼び声」のオマージュ中編集なのだが、小説作品が二作とも日本を舞台にしたのはなかなか興味深かった。両作品とも大いなるクトゥルーの復活というブレようもないテーマに沿っていて、隙がない。
スミス: 一篇目の「夢の帝国にて」もかなりトばした話だと思いましたが、二篇目の「回転する阿蝸白の呼び声」はそれを上回りましたわね。
有味: その二篇目がオレの一押しなのだが、倉阪鬼一郎らしい、この作者の神話作品に通底するテイストを持った怪作。作品のキャラクター(登場人物じゃなくて、性格・性質的な意味)が作者に付随するって、日本の神話作家・作品では、皆無じゃないけど、まだ珍しいと思うんだよね。「情報なしに作品を読んでみて、作者が当てられるか?」という問題が出れば、多分この作者の作品は当てられると思う。
スミス: 海外作家で言うなら、リン・カーター氏などは作品にキャラクターがあるでしょうか、良し悪しはともかく。
有味: あとは、もしかしたらリゴッティやバーティンがそうなのかもしれない。多くを読んでいるわけじゃないから、確実なことは言えんけど。
スミス: 三篇目の「Herald」(漫画)はいかがですか?
有味: PHP研究所のシリーズと比べると画力のある作者を使えていて、雰囲気もある。そのかわり縛りはないけど。「全然“クトゥルーの呼び声”じゃないよ!」とも思ったけど、タイトルが「Herald」なら納得できるかも。そうなるとなんでもありになっちゃうけどね。
スミス: 全体的にマイルドな感想になりましたの。



目録148:クトゥルフ神話検定 公式テキスト クトゥルフ神話検定 公式テキスト
刊行年:2013年 出版社:新紀元社 定価:1,500円 著者:植草 昌実、
笹川 吉晴、
朱鷺田 祐介
収録作品:-

スミス: 2013年12月1日に開催された「第1回クトゥルフ神話検定」のための公式テキストですの。 クトゥルフ検定合格認定カード&名刺
有味: 残念ながらこのテキストをすべて暗記したとしても、試験に合格できるかどうかは怪しいです。ちょっと毛色の変わったガイドブックだと思った方が良いでしょう。ガイドブックとしての出来は良いです。面白味はないけど。
スミス: オーナーの検定結果は2級合格ですわね。
有味: 第1回で開催されたのは3級と2級の検定試験で、オレは2級だけ受けてきた。事前準備はこのテキストを一度通読しただけのナメプだったけど、弱点である映像作品に関する問題の取りこぼしと、その他の知識不足を考慮しても九割は正解できると踏んで挑んだんだよねー。
スミス: 結果は81/100問です。
有味: 正直、自惚れていました。反省してます。合格はしたので、辛うじて面目を保った感じ。不合格だったら、さすがにこのサイト畳んで逃げていたかも。
スミス: 受験者数や合格率の情報が公開されていないので(もしどこかで公開されていたら教えてください)、オーナー自身の現在の立ち位置はちょっと掴めませんわね。
有味: とりあえず合格者特典の合格認定カードと名刺を買って、検定ビジネスに踊らされてみました。



目録149:呪禁官 百怪ト夜行ス 呪禁官 百怪ト夜行ス
刊行年:2014年 出版社:創土社 定価:1,500円 著者:牧野 修
収録作品:-

有味: 読む前は「未読のシリーズものの外伝とか出されてもついて行けねーよ」と切り捨てるつもりだったが、実際に読んでみると発売以前に掴んでいた情報を上回る面白さだった。
スミス: なんだか、RPG的なテイストを感じましたの。
有味: 背景設定はかなり確固と定まっているようなので、その情報と魔術系のルールを整備すればゲームのサプリメントになるなー、と考えながら読んでいた。
スミス: ストーリーもゲーム的な展開でしたわね。
有味: 「螺旋香をグレイプニルまで護送する」という大きな目的があって、それを戦闘と小話でつないで進めていく、D&D4版のシナリオのような展開。個人的にはNPCが多すぎた印象。登場人物は3分の2の人数でまとまるんじゃないか、と考えながら読んでいた。
スミス: 主要登場人物、ゲームで言うところのPCはどうでしたか?
有味: ギアと龍頭のキャラクターとしての描写が圧倒的に足りなくて、かなり箇条書き的なキャラクターだったという印象。龍頭なんか、登場シーンを適当に読み飛ばしたら女性であることに最後まで気づかないかも。キャラクターの動きを頭の中で構築するために、何度かカバーイラストを見て想像力を補ったよ。
スミス: ラノベかwwwですの。
有味: 出版社のサイトを見ると続編がありそうなので、ちょっと期待。今度はキャラクターが“立って”くれると良いのだが。



目録150:ヨグ=ソトース戦車隊 ヨグ=ソトース戦車隊
刊行年:2014年 出版社:創土社 定価:1,000円 著者:菊地 秀行
収録作品:-

有味: 思っていたよりもずっと面白かった。
スミス: 目録143の舌の根も乾かぬうちに……ですわ。
有味: 「ツドウヴィグの神殿」は新しい要素として神話に取り入れられると思うんだよね。ゲーマーとしてはこういう設定追加は歓迎するところ。個人的には見るべき要素が微塵もなかった『邪神艦隊』よりは遙かに高く評価している。実際、戦車隊の面々のやり取りも楽しいしね。
スミス: ただ、ツドウヴィグの神殿は名称だけで、設定が明かされなかった点は寂しいですわね。
有味: 神殿にヨグ=ソトースの子が到達することで何が起きるのか、何が起こらないのか。対抗勢力に御子が奪われることによって何が起きるのか、起きないのか。そのあたりがほとんど明かされないので、ゲーム的設定としては使い物にならんけどね。……あるいは自由に設定できるから使い勝手が良いのか!?
スミス: 神々の意図は人知の及ぶところではない、と言ったところでしょうか。
有味: 時々挿入される戦車隊以外の描写で、そこのところを明かしてくれても良かったのになー、って感じ。同ジャンル(戦車クトゥルー)としては『ネクロノミコン異聞』よりも上位に来るんじゃネーノ。知らねーけど。
スミス: それを同ジャンルとしてくくるのはいかがなものかと……ですの。



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