書架:18



目録171:童提灯 童提灯
刊行年:2015年 出版社:創土社 定価:1,300円 著者:黒 史郎
収録作品:-

有味: 期待したほど神話作品ではなかったが、話は凄く面白かった。
スミス: 帯に「海と山、異界に挟まれた漁村に膿み蠢く『ラゴゼヒイヨ』の恐怖。」とありますが……。
有味: 半分ウソっぱちだね。この煽りを書いた人物は本書の内容をまったく読んでいないか、悪意を持って読者を騙しに来ているかのどちらかだと思う。
スミス: オーナー的にはラゴゼ=ヒイヨの性質が少しなりとも分かるかもしれないと期待していただけに、ちょっと肩すかしでしたの。
有味: 今後、ラゴゼ=ヒイヨが数値化されてゲームに取り入れられても、参考のために本書を読み返すことはないな。
スミス: 小説として面白かったのは確かですわね。
有味: CMFシリーズの書き下ろし作品の中では、現時点で一番面白いかも。ジャパニーズ・クトゥルーは宇宙的恐怖にならずに、恨み辛みの“湿った”クトゥルーになる良い見本かな。オススメできます。面白いです。



目録172:大魔神伝奇 大魔神伝奇
刊行年:2015年 出版社:創土社 定価:1,400円 著者:田中 啓文
収録作品:「邪宗門伝来秘史」、「大魔神伝奇」。

有味: CMFシリーズに良くある「○○+クトゥルー」という腰の引けた作品。二度寝落ちした。5段階評価で2くらいかね(※個人的な感想です)。
スミス: 辛……。
有味: 読んでいる間中、ずっとピンと来なかったのでその理由を読後に考えてみたら、多分、話自体が面白くなかった個人的に好みじゃなかったんだと思う。650円くらいの価格ならもっと好意的に読めたかも。
スミス: 本書については以上といたしましょう。
有味: 多分、二度と読み返さない。
スミス: もう結構ですから……。



目録173:異世界の色彩 異世界の色彩
刊行年:2015年 出版社:KADOKAWA 定価:680円 著者:田辺 剛
収録作品:-

スミス: 雰囲気がある、良いコミカライズですわね。
有味: ラヴクラフトの小説を漫画化した作品の中では過去最高の出来かも。しっかりした画力に加えてストーリーを丁寧になぞっているので、とにかく“伝わってくる”感じ。
スミス: 文章による解説なしで、ここまでラヴクラフト御大の小説を伝えて来るのは、確かにすごいですわね。
有味: 原作を知らなくても、この一冊だけでちゃんと「とんでもないことが起きた」ことが理解できる。この作者氏にぜひとも「レッド・フックの恐怖」に挑戦していただきたい。
スミス: 珍しく絶賛ですの。
有味: 面白いものには面白いと言います。



目録174:魔道コンフィデンシャル 魔道コンフィデンシャル
刊行年:2015年 出版社:創土社 定価:1,000円 著者:朝松 健
収録作品:-

有味: 相変わらずの朝松クオリティ作品。絶賛するほど面白くはないが、この作者の持つ「クトゥルフ神話」がしっかりと展開されている。
スミス: 作者様の過去作で何度か登場したキャラクターが活躍するお話ですの。
有味: この神門帯刀というキャラクターは朝松キャラクターのステレオタイプなので正直言ってあまり魅力を感じないが、作品中で頑なにヨス=トラゴンをプッシュしてくるこの姿勢は素晴らしいの一言に尽きる。おそらく、世界で最もヨス=トラゴン関連の神話を展開させているのは、朝松センセだろう。
スミス: 日本で世界に発信できるほど神話を展開させている方は少ないですから、偉業と言えますわね。
有味: ヨス=トラゴンのビジュアルが垣間見えたので、興味深い一作だった。今後もヨス=トラゴンと神門帯刀にはどこかの作品で出会えそうだから、その時を気長に待とう。
スミス: ちなみに、ヨス=トラゴンについては森瀬繚様の墨東ブログに見事にまとめられておりますので、興味あるお方は調べてみるとよろしいかと。CoCで利用できるデータも完備されている素晴らしい記事です。



目録175:ナイトシフト 2 トウモロコシ畑の子供たち トウモロコシ畑の子供たち
刊行年:1988年 出版社:扶桑社 定価:524円 著者:スティーヴン・キング
収録作品:「超高層ビルの恐怖」、「禁煙挫折者救済有限会社」、「<ジェルサレムズ・ロット>の怪」、他。

スミス: “キング・オブ・ホラー”スティーヴン・キング氏の短編集ですわね。目録59の「ナイトシフト 1 深夜勤務」以来のエントリーですの。
有味: ずいぶん前だな。今回はシュブ=ニグラスの化身「畝の後ろを歩くもの」の情報が知りたくて、遅ればせながら手を出してみた。
スミス: 彼の存在が登場するのが表題作「トウモロコシ畑の子供たち」ですの。話の展開はクトゥルフ神話TRPGのシナリオの流れにそのまま使えそうですわね。
有味: これを目当てに読んだので、当然ながらイチオシは表題作だね。クトゥルフ的には味のある小編。参考になった。
スミス: 「キャンパスの悪夢」には『ネクロノミコン』が登場しますが、これはお遊び的なもので神話的にはジャンクでしょうか。
有味: バリエーションに富んだ短編が収録されていて、とにかく飽きない。これだけのアイデアをしっかりと作品に仕上げられるからこその巨匠なんだと唸らされる。収録作もホラーばかりじゃなく、色々考えさせられる。ちなみにイチオシ次点は「禁煙挫折者救済有限会社」。暗い笑いがあって好き。



目録176:球面三角 球面三角
刊行年:2015年 出版社:
アトリエサード
定価:1,000円 著者:朝松 健
収録作品:「球面三角」、「Spherical Trigonometry」。

スミス: 海外のアンソロジーに収録された作者様の作品が逆輸入で翻訳された一冊ですの。
有味: 何年か前(2010年とのこと)に、この作品についてはちょっと耳にしたことがあると記憶している。その辺りの舞台裏は本書収録の作者へのインタビューで語られているので、興味のある人は読んでみると良いかも。
スミス: いわゆる「ポスト・アポカリプス」を扱ったアンソロジーに寄稿されたものだそうです。
有味: 朝松センセらしさが出ている掌編で、「クトゥルフ神話」よりも作中に登場する「人間」に焦点が当たっている感じ。オチには呆気にとられたけど、アンソロジーの中の一篇ならこれで良いのだろう。英語バージョンもざっと目を通してみたけど、分かりやすくて親切な英語だと思う。神話作家の中には殺人的に奇天烈な文法を繰り出してくる奴らが少なからずいるから……。
スミス: 小説も含めて、色々と興味深い資料ですわね。
有味: 500部限定配本らしいので、欲しい人は早めにチェックした方が良いかもしれない。



目録177:死体蘇生 死体蘇生
刊行年:2016年 出版社:創土社 定価:1,500円 著者:井上 雅彦、
樹 シロカ、
二木 靖×菱井 真奈
収録作品:「女死体蘇生人ハーバル・ウエスト」、「死神は飛び立った」、「死体の呼び声」

スミス: 「死体蘇生者 ハーバート・ウエスト」へのオマージュ・アンソロジーですの。
有味: そもそも「ハーバート・ウエスト」はクトゥルー神話じゃないので、クトゥルー・ミュトス・ファイルズを謳う以上、神話とどうやって関連付けるかがポイントかな。「女死体蘇生人ハーバル・ウエスト」は最後で神話に絡めてある。ハーバル・ウエストのキャラクター造形が類型的すぎて読んでて失笑したけど、短いながらも良く詰め込まれた作品。
スミス: 「死神は飛び立った」はホラーですし、「ハーバート・ウエスト」なのかもしれませんが、神話要素は皆無でしたわね。
有味: 収録3作の中では、これが一番の反則作品なのかも。
スミス: 「死体の呼び声」は冒頭と結末に漫画を入れ込んである作品ですわね。この作品も後半で神話と絡めてます。最後の生首による合唱は見どころだと思うのですが。
有味: 収録3作とも「ハーバート・ウエスト」は外していないが、どれも、こう、グッとくるものがない感じ。小さくまとまり過ぎかな。残念ながら、このシリーズも高くない位置で安定してきたのかも。



目録178:闇に這う者 闇に這う者
刊行年:2016年 出版社:
KADOKAWA
定価:680円 著者:田辺 剛
収録作品:「ダゴン」、「闇に這う者」

有味: 画力や雰囲気は相変わらず素晴らしい。本作ではラヴクラフトの作品の中でもかなり象徴的な2作をコミック化している。
スミス: 原作からして、かなりビジュアル向きの展開ではあると思いますの。
有味: そう。確かにラヴクラフト作品の中では分かりやすい部類の2作だね。それだけに同著者の『異世界の色彩』(目録173)と比べると原作越えは果たせていない感じ。前にも言ったけど、個人的には衆人が同じ理解をできる作品より、画力という特技・才能のある人の難解な作品に対する解釈を伝えて頂けると興味深いと思うのだが。
スミス: でも、結局それにもオーナーは文句を言うわけでしょう?
有味: まぁ、きっとそうだろうけど、本書みたいに「ああ、そうね、うん」という感想の作品だとネタにならんので(笑)。
スミス: 終末同盟的には「壁の中の鼠」や「レッド・フックの恐怖」への挑戦を希望ですの。



目録179:呪走! 邪神列車砲 呪走! 邪神列車砲
刊行年:2016年 出版社:創土社 定価:1,000円 著者:林 譲治
収録作品:-

有味: 第一章を読み終えた時点で寝落ちしたので例によって架空戦記クトゥルーは鬼門かと思われたが、これまでの既存クトゥルー戦記よりはずっと面白かった。
スミス: とりあえず、クトゥルー神話の歴史は踏まえていますわね。
有味: 表紙イラストを見て「またルルイエ御一行様か!!」と不安になったけど、そんなことはなかった。ネタバレになるので詳しくは書かないけど、有名な非ルルイエ一派が登場する。既出の設定を踏まえていることが分かって、安心してクトゥルー神話として読めたのは良かった。
スミス: 安心できないクトゥルー神話ってなんですの?
有味: 神話ファン置いてけぼりで「これってオモシロイだろ?」と自己満足している作品群。※個人的な感想です。
スミス: これ以上は掘り下げないようにいたしましょう。
有味: 架空戦記モノには個人的にあまり興味を持てないのは相変わらずだが、価値がないとしてしまうには惜しい作品。ラストの怒涛のしめくくりは面白かったです。



目録180:悪魔がぼくをよぶ 悪魔がぼくをよぶ
刊行年:1988年 出版社:ポプラ社 定価:420円 著者:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「海からきた魔物」、「悪魔がぼくをよぶ」、「冷房室の怪」

スミス: 児童書ですの。
有味: 子供にも分かりやすく、平易な言葉でリライトしたラヴクラフト作品。伝えるべきことを極力削ることなく、根気強く文章化してある。
スミス: 「海からきた魔物」は「インスマスを覆う影」ですわね。あの陰鬱な「インスマス」がこうもスラスラ読み解けてしまうなんて……。
有味: 要点は押さえられているので、「インスマス」として申し分なし。本作を挫折した読者でもこれなら読める。オレも昔は「インスマス」苦手だったからなー(目録46参照)。
スミス: 「悪魔がぼくをよぶ」は「戸口にあらわれたもの」、「冷房室の怪」は「冷気」の改題です。
有味: どちらもテンポが良くて楽しく読めた。作品チョイスも分かりやすい怪奇で納得。個人的に「悪魔がぼくをよぶ」がイチオシかな。



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