書架:19



目録181:ボレアの妖月 ボレアの妖月
刊行年:2016年 出版社:東京創元社 定価:1,100円 著者:ブライアン・ラムレイ
収録作品:-

有味: <タイタス・クロウ・サーガ>がどうして面白くないのか、真面目に考えてみた。
スミス: 結論スッ飛ばしですわね。とりあえずお聞きいたします。
有味: オレはCoCゲーマーなので、かなり強くゲーム・フィルターをかけて神話作品を読む。ゲームのデータと言うか、システム(あるいはエンジン)にアクションを置き換えるって感じ。それに照らすとこのシリーズは邪神に「探索者(インヴェスティゲイター)」が知恵を絞って立ち向かうのではなく、「超人(スーパーヒーロー)」が超技術や超能力で邪神と同じ土俵で渡り合っていると思うんだよね。それって、つまりオレの思うCoCじゃないんだよ。
スミス: 本作でも時空往還機やら飛行マント、邪神ハーフの超絶美女アルマンドラ様(笑)など、様々な超戦力が登場しますわね。
有味: ワクワク感がないんだよね、対決に。「柔よく剛を制す」ではなく、「力こそパワー」の両者が真っ向ぶつかり合うっていうコンセプトが、オレの期待するものと合致していないんだよ。なまじクトゥルフ神話体系の超重鎮で、短編に関しては申し分ない神話作家であるラムレイだけに、そこが残念で、悔しくてならない。だからこのシリーズは全力でトホホ認定せざるを得ない。グギギ……。
スミス: もう少しでサーガも終わりらしいので、最後まで見守りましょう。ちなみに、本作はアンリ=ローラン・ド・マリニーに嫁・モリーン嬢を与えるためだけに書かれたのではないのでしょうか? シリーズが完結したら、この一冊は「別になくても良かった」ということにもなりかねないと予想しておりますの。
有味: 好みの問題であることは重々承知しているつもりだが、何て言うか、ダメなんだよねぇ。特に女性キャラクターの造形はどれも噴飯モノでジッとしていられなくなる。



目録182:彼方からの幻影 彼方からの幻影
刊行年:2016年 出版社:創土社 定価:1,500円 著者:小林 泰三、
羅門 祐人、
小中 千昭
収録作品:「此方より」、「からくりの箱」、「Far From Beyond」

スミス: とりあえず、“オマージュ先の「彼方より」はクトゥルフ神話じゃねーだろ”ということは置いておきましょう。
有味: まぁ、ネタに詰まってきているのは明らかだからどうしようもないな。「クトゥルフの呼び声に捧ぐ 第2弾」とかでも良いような気はするけど。
スミス: 本書の感想をお願いしますわ。
有味: 「彼方より」はクトゥルフ神話ではないけど、とてもラヴクラフトらしい作品ではあるよね。ティリンガストの機械、松果体、異界との接触といった要素を外さなければ、トンデモ作品は出てこないはずだし、事実本書収録の3作品はオマージュとして納得できる。オマージュ元の「彼方より」の面白さも再認識できた。
スミス: オーナーのイチオシはどれですの?
有味: 登場人物のやり取りが軽妙(と言うよりも珍妙)な「此方より」。この作者は『超時間の闇』(目録144)収録作といい、ヒットを飛ばしてくれる。巻末に「彼方より」の新訳全文を掲載してくれているのはありがたい。



目録183:The Outsider The Outsider
刊行年:2016年 出版社:
KADOKAWA
定価:800円 著者:田辺 剛
収録作品:「中二階のある家」、「ポンヌフ橋の放浪芸人」、「呪画」他。

有味: 小説の名作をコミック化した作品集。恥ずかしながら表題作しか読んだことがないので、他の作品の出来については感想を言えないっス。
スミス: 表題作はラヴクラフト御大の短編ですわね。
有味: ラストが肝のショッカー作品だけど、なんだか悲しいね。
スミス: 実績のある作者様なので、安心の一冊ですの。なんだか再録集らしいので、その辺はお気をつけあそばせ。



目録184:呪禁官シリーズ 地獄に堕ちた勇者ども 地獄に堕ちた勇者ども
刊行年:2016年 出版社:創土社 定価:1,300円 著者:牧野 修
収録作品:-

スミス: 創土社のクトゥルー・ミュトス・ファイルズでは4冊目の呪禁官シリーズですの。
有味: 4冊目とはいえ、クトゥルフとほとんど関係ない作品を紛れ込ませているので「ふざけやがって! 死にやがれ!」と思っているが、本作はクトゥルフだし、凄く面白かった。この世界観はユニークで面白く興味深い。
スミス: 魔術や呪術が技術として確立されている世界で、呪術犯罪を取り締まる呪禁官の活躍を描くシリーズですの。珍しくちゃんとした作品紹介ですの。
有味: 相変わらずというか、遭遇を戦闘で乗り越えて次の遭遇へ進むという、D&D第4版のシナリオのような展開。登場人物が針金人形に属性の短冊を張り付けただけというか、底が浅くてことごとく共感できない。これはそういう狙いなんだろうか?
スミス: と、言いますと?
有味: 例えば、本作にはローズっていうかなり奇矯なキャラクターが登場するんだけど、結局全編にわたって「なんなんだコイツは」という感想のまま終わってしまう。最後にちょろっと過去話がつけ足されるんだけど、「今更遅ェよ、面白くねーぞ、コイツ」って感じ。主要キャラクターであるギアと龍頭の関係性もイマイチ伝わってこないし、その辺がすごく残念。オレは登場人物に感情移入して作品を鑑賞するタイプじゃないんだけど、この作者のキャラクターってどれもこれも無味乾燥なので、逆に狼狽させられる。
スミス: 大勢出したNPCを扱いきれないゲームマスターみたいなものでしょうか。
有味: しかし、繰り返すが世界観は間違いなく面白い。でも、次もD&D第4版方式のストーリー展開だったら寝落ちするかも。



目録185:ファントム・ゾーン 邪神街 上・下 ファントム・ゾーン 邪神街
刊行年:2016年 出版社:創土社 定価:各1,000円 著者:樋口 明雄
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
レンタル中(Click!)



目録186:Faceless City Faceless City
刊行年:2016年 出版社:
アトリエサード
定価:2,500円 著者:朝松 健
収録作品:-

有味: 休刊した「ナイトランド」誌で7回連載された同名作を新たに構成して完成させたって感じになるのかね。
スミス: ポストアポカリプス的な世界観で、朝松先生的ヒーローが活躍するお話ですの。
有味: 作者氏はきっとこんなキャラクターをカッコいいと思っているんだろうな。まあ、その辺りは好みの問題ということでw
スミス: 「w」はおやめになってください。
有味: いつもの朝松クオリティです。結構楽しみました。《地獄印(ネザーサイン)》とか、題名にもなっているフェイスレス・シティといったアイデアが、明らかに消化不良になってしまっているのは残念。雑誌連載が進めば有効活用できたかもしれないけど、書下ろしで再構成する時に不要になっちゃったアイテムなのかも。RPGのシナリオ作っていて思うけど、シナリオ作成のきっかけとなったアイデアも、不要になったら捨てる勇気は必要だよね。



目録187:ファントム・ゾーン 邪神狩り 邪神狩り
刊行年:2017年 出版社:創土社 定価:1,000円 著者:樋口 明雄
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
レンタル中(Click!)



目録188:旧神郷エリシア 邪神王クトゥルー煌臨! 旧神郷エリシア 邪神王クトゥルー煌臨!
刊行年:2017年 出版社:東京創元社 定価:1,100円 著者:ブライアン・ラムレイ
収録作品:-

スミス: ついに<タイタス・クロウ・サーガ>も完結ですの。
有味: シリーズ最終巻の主人公がクロウ先生ではなく、またしてもド・マリニーだったので目録181の予想は見事に大ハズレとなってしまった。面目ない。
スミス: ではオーナーの個人的シリーズ総括をどうぞ。
有味: <タイタス・クロウ・サーガ>が日本語で読めるようになったことは素直に素晴らしいことだと思う。ただ、残念ながら内容はあまり面白くなかった。所々引っかかっていたワードの回答が出て来て興味深い個所もあるのだが、正直言って『地を穿つ魔』以降の話はほとんど覚えていない。
スミス: 『クトゥルフ神話TRPG』にも体系的にではなく、断片的にしか取り入れられていないことを鑑みるに、本国でもつまり“そういう扱い”なのかもしれませんわね。
有味: 『クトゥルフ神話TRPG』で再現するというより、『タイタス・クロウRPG』という専用システムで運用されている話なんだろう。まぁこう言うのも何だが、<タイタス・クロウ・サーガ>は存在の噂を聞いて想像するだけで、内容を知らずにいれば良かったと思ったりもするな(笑)



目録189:クトゥルー短編集 魔界への入口 クトゥルー短編集 魔界への入口
刊行年:2017年 出版社:創土社 定価:2,700円 著者:倉阪 鬼一郎
収録作品:「異界への就職」、「常世舟」、「茜村より」他。

有味: 倉阪鬼一郎のクトゥルー関連の短編を集めたという態の一冊。創土社CMF初のハードカバー。
スミス: クトゥルー短編集という割には、「……これってクトゥルフですの?」という作品も入っていますわね。
有味: 「底無し沼」とかはまったくクトゥルーじゃないよねって感じ。でも本書イチオシはこの「底無し沼」だったりする不思議。この作品のクトゥルー成分が理解できた方、連絡ください。
スミス: 作品間に著者様の抱くクトゥルー観が通底しているのは面白いですわね。



目録190:悪魔の星 悪魔の星
刊行年:1967年 出版社:
東京創元新社
定価:180円 著者:ジェームズ・ブリッシュ
収録作品:-

スミス: 先に言っておきますと、クトゥルフ神話作品ではありませんわね。
有味: SFだね、完璧に。内容は書名と作者名で各自ググって調べてみてください。
スミス: なぜ本書がエントリーされましたの?
有味: この作品の舞台は2050年なんだけど、登場人物の中に13世紀のイギリスに家系を遡ることができるド・ボアダヴロアニュ伯爵がいる。ド・ボアダヴロアニュ伯爵は le Comte des Bois d'Averoigne で「アヴェロワーニュの森の伯爵」って意味。で、この伯爵の祖先が書いたのが『ルシアン・ウィッカムの魔術書(Lucien Wycham His Boke of Magick)』。そしてこの書物が「ダークエイジ:アヴェロワーニュ(以下DA:A)」で魔導書としてエントリーされている故に文庫の蔵書になるのだ。
スミス: 迂遠、迂遠ですわ。
有味: こういうのは確認した人が記録しておかないと埋もれてしまう情報だからね。DA:Aのデータを訳出しておこう。

『ルシアン・ウィッカムの魔術書』
 次のものすべてが真実で有効であると、個人的に証明することができる、昨今、我々の国に蔓延る悪党によるあらゆる種類の損害と悪意を免れるために、私自身それらを用いている。

 中英語、ルシアン・ウィッカム著、年代不明。ルシアン・ウィッカムが詐欺と魔術を用いて過去一世紀の内にアヴェロワーニュの伯爵の任命権、あるいは称号を得た経緯が述べられている。彼の著書の中にはその地域の様々な教団に関しての情報がいくつか記されているが、時間の長短に関わらず、悪党はその内のいずれにも残ることはなかったようだ。
 正気度喪失 1D4/1D8;<クトゥルフ神話>+5;研究し理解するために6週間、斜め読みに12時間。呪文:(C:DA)《指の素早さを助ける([操作系技能カテゴリー]への祝福》、《バルザイの偃月刀に魔力を付与する(刀身への祝福、血の生贄の代わりに高価な材料を用いる)》、《隠匿された宝の発見(黄金の発見)》;(WOC#3)《アフォーゴモンの生贄》、《博識の使い魔を呼び起こしに行く(博識の使い魔を呼び出す)》;(ルールブック)《墓地にいる霊を活性化する(亡霊に命令する)》。
(Worlds of Cthulhu#2より)

前後の繋がりが分からないのでテキトー訳だが、とりあえず参考までに。
スミス: 出版社名とか、価格とか、時代がかっておりますわね(表紙カバーの表記を参考)。でも文章はとても読みやすくて、訳者様の仕事は素晴らしいですわ。



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