書架:20



目録191:大怪獣記 大怪獣記
刊行年:2017年 出版社:創土社 定価:2,500円 著者:北野 勇作
収録作品:-

スミス: クトゥルー神話じゃありませんわね。
有味: このレーベルはどうしてクトゥルー神話を書く気のない作家を連れてくるんだろうか?
スミス: クトゥルー神話的要素は、地名などにちょっとパロディ的な使い方をされているだけですの。
有味: 知り合いに「クトゥルー神話を読みたいんだけど、オススメを教えて!」と100回問われても、この本は候補に挙がって来ない。取りあえず、「この後どうなるんだろう!?」というページをめくる推進力がまったく湧かなかった。
スミス: クトゥルー神話を求める魔導師様は要注意ですの。
有味: 何か、呆れちゃって文句があまり思い浮かばないな。



目録192:戦艦大和 破魔弾! 戦艦大和 破魔弾!
刊行年:2017年 出版社:創土社 定価:1,000円 著者:林 譲治
収録作品:-

有味: 例によって架空戦記は個人的に興味のないジャンルです。そして「いったい何度目なんだ!」の帝国海軍対ルルイエ一党(※以下、「帝ルル」)です。
スミス: CMFレーベルだけでも「なんどめだ帝ルル」ですの。
有味: なんつーか、このアイデアって、作者といい出版社といい、どこかに勝算を見い出しているものなのかね? このアイデアで個人的に「アタリ」だと思った作品って絶無だよ。今回も身を乗り出させられるようなアイデアはなかったので、既存の帝ルルと話が混ざり合って、終章を読むころにはプロローグの話なんか完全に忘れていた。
スミス: クトゥルフ神話に限らず確固とした一ジャンルなので、書いてみたい作者様は一定数いるのかもしれませんわね。
有味: 今も現在進行形で内容を忘れつつある。帝ルル書くなとは言わんので、せめてお金を払った甲斐があったと思えるようなアイデアを盛り込んでほしいものだ。



目録193:アシッド・ヴォイド アシッド・ヴォイド
刊行年:2017年 出版社:
アトリエサード
定価:2,200円 著者:朝松 健
収録作品:「闇に輝くもの」、「ゾスの足音」、「球面三角」他。

スミス: 朝松センセの過去作品+書下ろし一編のクトゥルー神話短篇集ですの。
有味: 朝松センセだから許される短篇集って感じかな。多作で知られるセンセの朝松的がっちりクトゥルー神話はちゃんと一冊の分量になっているので、こういうギリギリっぽい短篇作品が集められたのは価値があるのかも。クトゥルー神話の何たるかを知りたい読者にはお勧めできないけど、朝松ファンには納得の一冊なんじゃないだろうか。
スミス: オーナーは朝松ファンではありませんの?
有味: オレは誰某(作家)ファンというよりも、純粋に神話ファンなので。ラヴクラフトにもスミスにも駄作はあるよねってことで。つまり朝松センセにも――
スミス: それ以上は結構ですわ。なお、オーナーは「闇に輝くもの」と「球面三角」だけが既読作品でした。イチオシはどれでしょうか?
有味: 「空のメデューサ」かな。宇宙的恐怖というテーマには一番沿っている気がする。



目録194:クトゥルー短編集 邪神金融街 邪神金融街
刊行年:2017年 出版社:創土社 定価:2,700円 著者:菊地 秀行
収録作品:「サラ金から参りました」、「切腹」、「賭博場の紳士」他。

有味: あまり期待していなかったんだけど、予想外に面白い一冊だった。
スミス: 作者様の過去作のクトゥルーっぽいものを集めた一冊ですの。
有味: CMFに収録された菊地作品は『妖神グルメ』と『ダンウィッチの末裔』(目録137)の「軍針」以外はどれもスカだと思っているけど、この本は短編集ということもあって、収録作がバラエティに富んでいて楽しめた。
スミス: 作者様のラヴクラフト御大に関連した場所を廻った旅行記と、御大関連の映像作品のエッセイも収録されています。
有味: この辺の最新ではない情報を収録する価値は個人的にはまったく理解できないけど、菊地文章を愛する人にはそれなりに価値があるのかも。
スミス: では恒例のオーナーのイチオシを。
有味: 『クトゥルー怪異録』(目録63)では推さなかった「出づるもの」かな。個人的にはこういう雰囲気の作品をバンバン書いてほしいのだが。



目録195:クトゥルーを喚ぶ声 クトゥルーを喚ぶ声
刊行年:2017年 出版社:創土社 定価:1,000円 原作:田中 啓文
漫画:木内 結子
収録作品:-

有味: 目録147の同名アンソロジーに収録されている「夢の帝国にて」をコミック化したもの。日本でもこういう三次創作(?)が始まったのかと感慨深いものはある。
スミス: でもオーナーは小説のコミック化であることに全然気づいていませんでしたわね。
有味: うん。びっくりするほど「夢の帝国にて」の内容を覚えていなかった。目録147は「回転する阿蝸白の呼び声」の印象が強すぎて、他のことはすっかり頭から抜け落ちていたよ。
スミス: 内容的にはテーマはクトゥルーの復活ですし、コミック化する対象としては妥当なチョイスなのではないでしょうか。
有味: 大傑作を期待しなければ、まぁこんなセンで御の字ではないだろうか。価格が580円くらいだったらもっと評価されても良いかも。



目録196:虚ろなる十月の夜に 虚ろなる十月の夜に
刊行年:2017年 出版社:竹書房 定価:972円 著者:ロジャー・ゼラズニイ
収録作品:-

スミス: 何だか意外なところから突如出現した印象ですが、間違いなくクトゥルー神話でしたの。
有味: 浅学なので初めてのゼラズニイとなったが、「今まで訳されていなかったのは、それなりの理由があるのだろう。ズタズタに引き裂いてやる! ぐへへー!!」と邪まな動機を持って読み始めた。ホラーではないが、間違いなくクトゥルー神話。そして、ギルマン文庫的には残念なことに、かなり面白かった。
スミス: 別に残念ではありませんわ。
有味: まあ、なんつーか、聖杯戦争っぽいという俗な感想。しかし教区司祭が推進側で、伯爵や殺人鬼が抑止側というのは捻られていて面白い。ジャックが血風まとう竜巻のようにナイフを振り回すラストだったらどうしようかと思ったが、クトゥルー的に凄く納得できる終焉。終盤の伯爵の盛り返しには熱くなった。
スミス: 各方面宣戦布告を覚悟していましたので、私的には安堵です。
有味: 今年書架入りした本の中では一番面白かった。オススメできます。



目録197:クトゥルーの呼び声 クトゥルーの呼び声
刊行年:2017年 出版社:星海社 定価:1,500円 著者:H・P・ラヴクラフト
訳者:森瀬 繚
収録作品:「ダゴン」、「クトゥルーの呼び声」、「挫傷」他。

有味: ラヴクラフトの海洋およびクトゥルー周辺に関する作品集。各作品を新訳しているのはすごく手間がかかっていると思う。間違いなく良書。
スミス: ボリュームの割に価格も親切設定なので、訳者様も前書きで書いている通り「今改めて神話の門を潜ろうという読者」には格好の一冊ですの。
有味: なお、イチオシは「墳丘」。収録作の中では読み返す機会が少ない作品なので、平易な文章ということもあり、内容が改めて良く分かった。
スミス: 既読作品を読み返す機会が与えられるのは良いですわね。
有味: さすがに初見はホワイトヘッドとの合作「挫傷」だけなので、どの作品も既知の内容。初読では気付かない伏線を拾いながら読むのはそれなりに楽しかった。まぁ、惜しむらくは、故人である作家の作品集であるからには仕方ないのだけれど、ベクトルが過去にしか向かっていない点かな。クトゥルー神話シーンの“今(あるいは未来)”に向けた一冊ではないので、個人的には「良くある本」という感じ。
スミス: 研究者様の、成果発表の一冊なのではないかと。
有味: そういう意味で、巻末収録の訳者解説はさすがの出来。良書であるのは間違いなく、シリーズ続刊も決まったらしいので、今後に期待したい。あと、結構タイポが気になります。



目録198:蔵の中の鬼女 蔵の中の鬼女
刊行年:2017年 出版社:
アトリエサード
定価:2,400円 著者:友成 純一
収録作品:「鬼になった青年」、「幽霊屋敷」、「二人の男」他。

スミス: 作者様が多作でいらした時代の短編を集めた一冊ですの。
有味: アイデアを適当な長さに膨らませて一編に仕立てる力はさすが。個人的には第〇部と作品を分類せず、順不同で並べた方が混沌感があったのではないかと思う。話のパターンは似たり寄ったりの気がするが、間違いなく友成ブランドの文章なのでファンには嬉しいのではないだろうか。
スミス: クトゥルフ神話作品は「地の底の哄笑」と、その前日譚に当たる「邪神の呼び声」になりますでしょうか。オーナーのイチオシは?
有味: 目録63:クトゥルー怪異録 ◆極東邪神ホラー傑作集◆で「地の底の哄笑」は挙げてしまっているので、今回は神話作品ではないけど「お伽の島にて」を挙げておこうかな。まぁ、濫造された作品にもそれなりの魅力はあるけど、全部に価値はないよねってことで。でも、1994年という時代におけるツァトゥグァをテーマにした短編(「地の底の哄笑」)はオーパーツの風格すらある。
スミス: この一点だけでも作者様は偉人ですわね。



目録199:H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って H・P・ラヴクラフト 世界と人生に抗って
刊行年:2017年 出版社:国書刊行会 定価:1,900円 著者:ミシェル・ウエルベック
収録作品:-

スミス: 作者様によるH・P・ラヴクラフト小伝、人物分析といった感じでしょうか。
有味: なかなか興味深い内容。序文でスティーヴン・キングも言っているが「ここはオレの考えと近いな」とか、「え、なに、ソコ、断言しちゃってくれてんの!?」とか、読む人によって感想は様々に異なるんじゃないだろうか。
スミス: 価格、装丁から受ける印象ほどには読破にエネルギーを要しませんでしたわね。
有味: 内容とか分量的には文庫でも良かった気がするけど、ユーザー・フレンドリー意識が極めて希薄な国書刊行会にそれを言ってもムダだろう。この本が受け入れられるほど日本のクトゥルフ神話文化が成熟したかどうかは怪しいと思うけど、まぁ、ブームが来ている“今”だからこそ出版できるんだろうね。



目録200:クトゥルー短編集 銀の弾丸 銀の弾丸
刊行年:2017年 出版社:創土社 定価:2,500円 著者:山田 正紀
収録作品:「おどり喰い」、「贖罪の惑星」、「戦場の又三郎」他。

スミス: 著者様の短編を集めた一冊ですわね。例によってクトゥルフ神話以外の作品も含まれていますの。
有味: 「銀の弾丸」と「おどり喰い」は既読だった。著者氏の神話観はいまいちパッとしないけど、作品自体は面白く読めた。帯の「ジャパニーズ・クトゥルーのこれが極地だ。」という煽りにはまったく頷けないけど。
スミス: イチオシはどの作品ですの?
有味: 「悪魔の辞典」。アンブローズ・ビアスの失踪と絡めてあったりして面白かった。クトゥルフに踏み込みすぎていないのも結果的には良かったのかも。でも宇宙的恐怖というテーマなら、「贖罪の惑星」のほうがそれっぽい気もする。
『クトゥルフ少女戦隊』とかいうトチ狂った愚作より、本書レベルの作品をポツポツ出していただけるとありがたいのだが。
スミス: きっとその〆で来ると思っていましたわ。



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