書架:22



目録211:這い寄る混沌 這い寄る混沌
刊行年:2018年 出版社:星海社 定価:1,500円 著者:H・P・ラヴクラフト
訳者:森瀬 繚
収録作品:「ナイアルラトホテプ」、「壁の中の鼠」、「闇の跳梁者」他。

有味: “這い寄る混沌”ナイアルラトホテプの初出作を含む短編集。ナイアルラトホテプはクトゥルー神話には欠かすことのできない重要な神格だけど、さすがにラヴクラフトだけで一冊を編むことは難しいよな。
スミス: ロバート・ブロック様たち、後続の作家の手によって“千なる異貌”が補完されていってこその這い寄る混沌ですわね。
有味: 正直言って、特筆すべきことのない一冊だった。重要神格の初出が何編も収録されているのだが、個人的には重要神格の登場する重要作品であるだけに、既に繰り返し読んだ作品なので、イマサラ感が拭えなかった。
スミス: その中でもとりあえず恒例のイチオシ作品を上げるとしたら?
有味: 特にハート・シェイキングな作品もないのでベタだけど「闇の跳梁者」かな。ナイアルラトホテプを扱うなら一度は目を通しておくべき必読の作品。それよりも誰かもっとラーン=テゴスageの作品を書いてやってくれ。



目録212:クトゥルー神話大事典 クトゥルー神話大事典
刊行年:2018年 出版社:新紀元社 定価:2,000円 著者:東 雅夫
収録作品:-

スミス: 学研から出ていた『クトゥルー神話事典』が出版社を変えて新版で登場ですの。
有味: 学研の『クトゥルー神話事典』は第四版まで刊行されて、そのたびに購入していた。本棚のあちこちに置いて、気になった項目があったらすぐに手を伸ばせるようにして便利に使っている。ふと思い出したキーワードから原作を検索できるのですごく重宝している。
スミス: こちらの新版(実質第五版)ですが、いかがですの?
有味: かなり残念な一冊となってしまった。収録項目は「邦訳された海外のクトゥルー神話作品」に限られており、本邦作品のエントリーは削除されている。これって要するに昨今のブームで作品数が多くなりすぎて追いきれなくなったという言い訳だと思うんだよね。
スミス: 確かに当文庫でも追いきれなくなっておりますわね。
有味: それなら新版なんて出さなければ、こうして文句言われずに済むのにって感じ。商機だから、とりあえず乗ってみるかって感じ?
スミス: そういう事情もあるかもしれませんわね。
有味: 用語辞典と作品案内が統合されてしまったのも利便性が低下してマイナス要因。作者氏の仕事にはこれまで信頼を置いていたので、正直言ってかなりガッカリさせられた。



目録213:C市からの呼び声 C市からの呼び声
刊行年:2018年 出版社:創土社 定価:1,700円 著者:小林 泰三
収録作品:「C市に続く道」、「C市」。

有味: 物語としては面白かった。
スミス: 短編「C市」は評価の高い作品です。「C市に続く道」はその前日譚となっていますの。
有味: まぁ、この本に限ってではないけど、例によって二次創作かな。「クトゥルフ神話」というよりは「クトゥルフもの」。正典(カノン)ではないのは確かとして、ジャンクとまではいわないが、外典(アポクリファ)ですらギリギリだろ。どうして本邦の作家たちはこういうオモシロオカシイ系のクトゥルフものを量産するんだろう?
スミス: 「宇宙的恐怖で背筋を凍らせてくださいませ」とまでは言いませんが、神話体系に深く踏み込む作品はあまり見かけませんわね。
有味: 皆無とまではいわないが、神話世界を展開させる作品って、最近ホントにないよな。朝松健とか、昔の友成純一あたりにはシビレル作品もあったのだが。日本のクトゥルフ神話シーンってそんなに成熟したのかね?
スミス: この話題は何度もしていますので、ここまでにしておきましょう。
有味: 結局愚痴と文句になってしまったが、読んでいる間はそれなりに楽しんだ。ただ、やっぱりこの話はクトゥルフ神話的には「事実」じゃないよ。



目録214:時を超える影(全2巻) 時を超える影
刊行年:
2018~2019年
出版社:KADOKAWA
定価: ①720円
②740円
著者:田辺 剛
収録作品:-

スミス: ラヴクラフト御大の作品の中でもかなりSFに近い物語がコレですわね。
有味: 本作は画で勝負できていない感じ。文章に絵をつけた感じかね。特に2巻最初の「中央記録保管所」は明らかに漫画が小説に負けている。この話を漫画で読者に理解させることができたら凄いんだけど、文章に頼りすぎかな。日本語読めない読者にはサッパリでしょ。
スミス: でも、なかなか『狂気の山脈にて』(目録201)のような傑作は連発できませんわ。
有味: 今回はオレと作者氏の“「時を超える影」のどこに恐怖を感じるのか?”がズレていた。オレは地底で「自らの筆跡で書かれた英語」を発見するシーンがこの作品の一番のショッカーだと考えているので、その後に70ページもいらないと感じるんだよね。
スミス: 画力や作品の理解度には信頼のおける作者様ですので、次の作品にまた期待いたしましょう。



目録215:インスマスの影 クトゥルー神話傑作選 インスマスの影 クトゥルー神話傑作選
刊行年:2019年 出版社:新潮社 定価:750円 著者:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「クトゥルーの呼び声」、「闇にささやくもの」、「暗闇の出没者」他。

有味: なんかラヴクラフトの傑作選も久し振りな気がするな。
スミス: なかなか読みやすい新訳なのではないでしょうか。
有味: 先人たちによる何バージョンもの翻訳を踏み越えてきただけに、読み手に理解させるという点においては高水準にあると思う。収録作品チョイスも納得。価格的な面も含めて、ラヴクラフトのクトゥルーの入門書としては現時点では出色の出来と言えるんじゃないか?
スミス: 特に絡む要素もないようですので、本書のイチオシ作品をお願いしますわ。
有味: 「異次元の色彩」かな。この話を最初に持ってくるのはなかなかのセンスだと思う。話的にも鉄板で面白いし、良い訳だった。



目録216:クトゥルーはAIの夢を見るか? クトゥルーはAIの夢を見るか?
刊行年:2019年 出版社:青心社 定価:680円 著者:和田 賢一、他
収録作品:「新しきもの」、「入居者募集中」、「網の中」他。

スミス: 帯によりますと、クトゥルー神話の邪神・眷属と人工知能との対決をテーマにしたアンソロジーとのことですの。
有味: 他でやっていないことをやっているという見方をすれば、青心社のクトゥルー系出版物は評価に値するのかもしれない。それに収録される作品の質が高くないという問題は、まぁ、別として。「クトゥルー」と「人工知能」という単語のみのユルい縛りの、良くあるとっ散らかっちゃったアンソロジーに仕上がった印象。いや、本書について言えば、逆に悪い意味でとっ散らからなかったのかも。
スミス: 編者様の企画意図がうかがえる「あとがき」的な一文があると良かったかもしれないですわね。
有味: 収録作品6編すべてが現代日本を舞台としているというのは、昨今の日本におけるニーズを反映したものなのかね。その辺りはあまり考えていなさそうだけど。書名から、1篇くらいはSF的な舞台設定があるのではないかと期待したんだが……。
スミス: では恒例のオーナーのイチオシを。
有味: 「海辺の洞窟」かな。クトゥルーとAIのバランスを絶妙に取りながら話が完結しており、オリジナリティもある。他の作品は「う~ん」という出来が多い。「新しきもの」は読後15分で結末を忘れた。



目録217:未知なるカダスを夢に求めて 未知なるカダスを夢に求めて
刊行年:2019年 出版社:星海社 定価:1,500円 著者:H・P・ラヴクラフト
訳者:森瀬 繚
収録作品:「怖ろしい老人」、「イラノンの探求」、「アザトース」他。

有味: ラヴクラフトの幻夢境に関連しそうな作品を集めた一冊。テーマがはっきりしている本は狙いが理解しやすくて良いよね。
スミス: それにしては読了に時間を要しておりましたわね。
有味: やはり「未知なるカダスを夢に求めて」と「銀の鍵の門を抜けて」は長いうえに難解で、つまり面白くない。何度読んでもこの二作には苦戦するわ。
スミス: 前半の短編パートはかなり良いペースで読み進んでいましたの。
有味: イチオシは「ウルタールの猫」。作品のテンポが良い。あと、巻頭付近にある地図は理解の助けになった。
スミス: オーナーに長編は鬼門ですわね。
有味: 訳者氏はシリーズの最初の方で「ラヴクラフトの文章は、実は読みづらくない」ことを実証してみせる的な意気込みを語っていたように思ったが、そのコンセプトは放棄してしまったのだろうか。「読みやすさ」と「理解しやすさ」は別物だから、作品自体は難解なままなのかね。オレの読解力がトホホなだけなのか、巻末2作品(銀鍵とカダス)は気が付くと字面だけ追っていて、まったく内容が頭に入って来なかった。おかげで何度も同じ個所を読み直す羽目になってしまった。



目録218:エイリアン邪神宝宮 トレジャー・ハンター 八頭大 エイリアン邪神宝宮 トレジャー・ハンター 八頭大
刊行年:2019年 出版社:創土社 定価:1,000円 著者:菊地 秀行
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
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目録219:ブラック・トムのバラード ブラック・トムのバラード
刊行年:2019年 出版社:東宣出版 定価:1,980円 著者:ヴィクター・ラヴァル
収録作品:-

スミス: ラヴクラフト御大の「レッド・フックの恐怖」の再話的な感じなのでしょうか。
有味: 「レッド・フック」はクトゥルフものではないラヴクラフト作品を代表する一作だと思うけど、本書ではダイナミックにクトゥルフ神話に組み込まれている。新たに黒人主人公を設定することによって、「レッド・フック」に登場するサイダムやマロウンと絡めて話を縒り上げている。この手の話では、まぁ、面白い方なのではないだろうか。
スミス: 第一部がその新主人公のトミー・テスター、第二部がマロウン刑事の視点で書かれていますの。
有味: 蔑まれる黒人の悲哀とかは、正直言って分らんし、故に共感もできないので結構退屈だった。第二部の中盤辺りから面白くなって、一気に読み上げてしまった。
スミス: 音楽とか「至高のアルファベット」とかの要素が今一つ効果的に使われているように感じられなかったのは残念ですわね。
有味: アプローチ方法の一つとして例示される価値はあるとは思うのだが、別にもう一度読み返してみたいと思わせる一冊ではないな。値段がクソ高いのもイタダケナイ。



目録220:ラヴクラフトの怪物たち 上・下 ラヴクラフトの怪物たち 上・下
刊行年:2019年 出版社:新紀元社 定価:各2,500円 編者:エレン・ダトロウ
収録作品:「赤い山羊、黒い山羊」、「非弾性衝突」、「愚宗門」他。

有味: 2014年に出されたアンソロジーの翻訳。こういった比較的新しい神話関連書籍の翻訳って数が少ないのでありがたいよね。
スミス: 残念ながら、本邦ではあまり数が多くありませんわね。
有味: まぁ、興味深い二冊ではあった。が、あまり印象に残る作品がなかったという個人的感想。二冊で5,000円の価値があるかは怪しい所。ニール・ゲイマンとかキム・ニューマンのようなクセの強い作家は、独自の世界観を前面に押し出し過ぎているのであまり好みじゃない。トマス・リゴッティは相変わらずなので楽しんだ。
スミス: オーナーのイチオシは?
有味: 下巻の「牙の子ら」。クトゥルフ神話的に重要な位置づけにあるのに、あまり掘り下げられることのない存在を扱っている。
スミス: こういったニュー・ウェーヴ(?)の作品も数多く翻訳されるようになると良いですわね。
有味: 本邦ではラヴクラフトら最初期のラヴクラフト・サークルの作品すら網羅できていないため、神話最前線との間にミッシング・リンクが生じているのが非常に残念。しかし、今さらそこを埋めるようなムーヴメントは起きないのだろう。在野が地道に調査していくしかないな。



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