書架:25



目録241:アウトサイダー クトゥルー神話傑作選 アウトサイダー
刊行年:2022年 出版社:新潮社 定価:590円 著者:H・P・ラヴクラフト
収録作品:「無名都市」、「名状しがたいもの」、「忌まれた家」、他。

有味: 新潮文庫のこのシリーズも3冊目か。クトゥルー神話傑作選はどれもこのあたりからラインナップが苦しくなってくるのはいつものこと。
スミス: 本書は短編が多いのでバリエーションに富んだ話を仕入れたい読者には最適ですわね。
有味: 特に突っ込み所もないのでイチオシ作品。今回は「魔女屋敷で見た夢」を推しておく。RPGのシナリオっぽい展開で、クライマックスに近づくにしたがって謎の現象の真相(の一端)が判明していき、やがて終息するという見事な構成。詰めのアマい探索者が最後にツケを払わされるところも面白い。
スミス: 話がアーカムの街に深く根差しているのも参考になりますわね。
有味: 次は幻夢境関連を扱う感じかね。オレ、幻夢境にあまり興味がないので、この辺からツラくなってくるんだよね……。



目録242:シャーロック・ホームズとシャドウェルの影 シャーロックホームズとシャドウェルの影
刊行年:2022年 出版社:早川書房 定価:1,360円 著者:ジェイムズ・ラヴグローヴ
収録作品:-

スミス: シャーロック・ホームズとクトゥルー神話のクロスオーバーものですわね。
有味: 相変わらずオレはホームズにはとんと興味がないんだけど、この一冊は凄く面白かった。予想していた以上に、というよりも間違いなく色濃くクトゥルー神話だった。ホームズ物の書式を踏襲しつつ確実にクトゥルーを織り込んでいく展開は小気味良く、クトゥルー神話としても破綻していない。
スミス: 実はあまり期待していなかったのですが、予想を裏切られましたの。
有味: 予想を大きく裏切ってくれた。「クトゥルー・ケースブック」三部作の嚆矢となる作品らしいので、ぜひとも残り二作も邦訳していただきたい。どうでも良いけど、「Cthulhu Casebook」っていうサプリメントもあるよね。
スミス: ホントにどうでもいいトリビアですわね。
有味: 凄く面白かった。おススメです。凄く面白かった。



目録243:アポカリプスエッジ アポカリプスエッジ
刊行年:2022年 出版社:創土社 定価:1,320円 著者:杉村 修
収録作品:-

スミス: あら、貸し出し中ですわ。
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目録244:ビジュアルストーリーブック クトゥルフの呼び声 ビジュアルストーリーブック クトゥルフの呼び声
刊行年:2022年 出版社:
ホビージャパン
定価:4,620円 著者:H・P・ラヴクラフト
イラスト:フランソワ・バランジェ
収録作品:-

有味: 小説「クトゥルフの呼び声」を題にした画集に小説本文を乗せた感じの一冊。“小説に挿絵をつける”の逆パターン的な感じかね。
スミス: 「クトゥルフの呼び声」+ビジュアルというテーマの作品としてはトップクラスのものではないでしょうか?
有味: イラストには圧倒されるね。本書の冒頭にも書かれているが、ヨハンセンたち船員がル・リエーに上陸してからの道のりに紙幅を割いてくれているのが凄くありがたく、興味深かった。ル・リエーを舞台にキーパーをする人には間違いなくインスピレーションを与えてくれると思う。
スミス: これは百聞は一見に如かずの一冊ですわね。興味のある方は手に取って損はないと思いますの。
有味: とりあえず、本がデカイのには驚いた。我が家のどの本棚にも入らないサイズなので、保管場所を探すのに苦労しそうだよ。
スミス: 値は張りますが、後悔のない一冊でしたわ。



目録245:赤虫村の怪談 赤虫村の怪談
刊行年:2022年 出版社:東京創元社 定価:1,800円 著者:大島 清昭
収録作品:-

有味: ホラー・テイストもあるミステリー。かなり楽しみました。
スミス: クトゥルー神話の邪神を、赤虫村に出没する妖怪になぞらえて不気味に話が進んでいく作品ですの。
有味: 宇宙的恐怖ではないが、クトゥルー神話ではあるのかも。こういった土着の湿った感じに帰結するジャパニーズ・クトゥルーは好きなんだよね。ミステリーに関してはシロートなので採点甘いです。
スミス: クトゥルー神話に関しましては、既存の設定がしっかりと踏まえられていますの。
有味: ストーリー的に民俗学的な側面が重要になっているけど、あくまでクトゥルー神話の邪神は独立した、特異な存在として位置づけられているのも良い。オレ、日本妖怪とクトゥルー神話のクロスオーバーって基本的に許せない立ち位置にいるので、そこを分けてくれているのは大いに好感が持てた。



目録246:異時間の色彩 異時間の色彩
刊行年:1990年 出版社:早川書房 定価:380円 著者:マイクル・シェイ
収録作品:-

スミス: タイトルから想像できますように、ラヴクラフト御大の「異次元の色彩」のオマージュにあたる作品ですわ。
有味: タイトルを知っていたので読んだことがあるつもりでいたが、よくよく考えてみたら未読だった。最初から「異次元の色彩」の後日談として読めば、それなりに楽しめる。手前味噌ながら、なんとなく「死にゆきし聖マーガレット」を思い出しながら読んでいた。
スミス: 神話生物としての“異次元の色彩”譚としては興味深い作品ですわね。
有味: 途中まではかなり面白かったのだが、ラストはちょっと好みから外れた。“異次元の色彩”って、もっと霊妙で、どちらかというと“現象”だと思っているので、怪物譚になってしまったのは残念。カバー・イラストをみて予想すべきだったか……。
スミス: 目録142の『ホームズ鬼譚~異次元の色彩』よりはストイックに取り組んだオマージュでしょうか。
有味: 意外と分かりやすい話ではある。登場人物を全員若返らせれば、アニメ化も可能だろう。知らんけど。



目録247:バットマン:ゴッサムに到る運命 バットマン:ゴッサムに到る運命
刊行年:2022年 出版社:
小学館集英社
プロダクション
定価:2,600円 著者:マイク・ミニョーラ、
リチャード・ペイス[作]
トロイ・ニクシー[画]
収録作品:-

スミス: クトゥルー神話×バットマンとのことです。
有味: とりあえず、1回読んだだけでは理解できなかったので、2回読んでみた。アメコミって画ではなく、セリフとト書きでストーリーを追わないといけないから、日本のコミックのように気軽に読めないよね。そもそもオレはバットマンの中の人がブルース・ウェインという名前であることも知らなかったレベルなので、もう誰が誰だか……。
スミス: 1回目の読了後に、バットマンについて少しWikipediaでお勉強をいたしましたの。
有味: それでも余裕でついていけなかったが、訳者氏による用語解説を読んで、ようやく色々と腑に落ちた。結構、バットマンに詳しい人がニヤリとする要素が入れられているみたいね。オレみたいにバットマンに何の興味もない人間にはついていけなくて当然だわ。
スミス: 内容は……クトゥルー神話“っぽい”感じ止まりでしょうか。
有味: 明らかにクトゥルー神話っぽいし、作者も意識しているらしいのだが、どうして既存の“ズバリ!”という用語を使わないのだろうか? たまにこういうフェザータッチでガッカリさせられる作品があるけど、なんか権利関係で問題があるのかね?
スミス: ……なんだかあまりピンときていない様子ですわね。
有味: う~ん、琴線に触れる何かがある一冊ではなかった。特にクロスオーバーものは片方(今回はバットマン)に興味がないと、いきなりパワー50%からのスタートになるので、何かキョーレツなものがないと「ふ~ん」という感想しか出ない。



目録248:クトゥルー神話解体新書 クトゥルー神話解体新書
刊行年:2022年 出版社:
コアマガジン
定価:2,500円 著者:森瀬 繚
収録作品:-

有味: 何だか、久しぶりの事典系書籍な気がする。著者氏は信頼のおける識者なので内容については間違いない。
スミス: 創作者向けの手引書みたいな感じですわね。
有味: 本書をもとに資料を当たって創作をしてくれると良いのだが、昨今は事典系書籍の内容・記述のみで文章を書いているのが明らかな作品があるからな。そういった作品は設定や内容を理解していないのが透けて見えるので、カプラン時空送りになる。創作者には是非とも矜持を持って神話を展開していただきたいものだ。
スミス: 内容については文句のつけようがないので、感想はここまでですの。
有味: 良書。価格がもう少し安ければ最高だった。



目録249:かくも親しき死よ~天鳥舟奇譚 かくも親しき死よ~天鳥舟奇譚
刊行年:2023年 出版社:
アトリエサード
定価:2,100円 著者:壱岐津 礼
収録作品:-

スミス: クトゥルフ×神道神話という感じでしょうか。
有味: 目録243の『アポカリプスエッジ』で扱っているテーマをちゃんと書いたっていう感じかね。肌感でいうと、同じジャンルだよな。クトゥルフ神話×神道ということであれば、オレらは『Secrets of Japan』で既に後にしてきた道なので見慣れた風景でもある。
スミス: なんだか、日本人はクトゥルフと神道神や仏教神を戦わせがちですわね。
有味: 海外では天使軍団とか、オリュンポス十二神とかと戦わせがちだったりするのかね? ゲームにおけるキリスト教神話については『The Unspeakable Oath』などで適合を図っていたりするので、きっと文芸作品でも少なからずそういうジャンルは存在するとは思う。ただ、海外と日本では宗教観が大きく違うので、日本に流入してこないのかも。この辺の神話vs神話の闘争は、宇宙観のすり合わせからして難しいよな。
スミス: 結局、神話的事件の年表には載ってこないので、神話体系というよりはサブジャンルですわね。
有味: 本作に話を戻すと、ラストが「善き神々の力で元に戻りました」にならなかったことで評価できる。あとがきで著者氏が手ごたえを感じているほどエポック・メーキングではない気がするが。



目録250:ラヴクラフト・カントリー ラヴクラフト・カントリー
刊行年:2023年 出版社:東京創元社 定価:1,600円 著者:マット・ラフ
収録作品:-

スミス: 最初に言っておくと、クトゥルフ神話ではありませんわね。
有味: あとがきにも書いてあるし、事前にちょこっと調べればすぐに分かることだが、いわゆるクトゥルフ神話を扱うコズミック・ホラーではない。黒人差別を扱った社会派の物語かと身構えて挑んだが、もっとずっと伝奇寄りの作品だった。題名に「ラヴクラフト」とつける必然性があるのかはともかくとして、一冊の小説としては意外なほど楽しんで読んだ。
スミス: その割りには読破にずいぶんと時間をかけましたわね。
有味: 片手間にちょこちょこっと読み進めていたのと、そもそも600ページ近くあるので確かに読了には時間を要した。でもテーマを重くとらえず、娯楽のための読書と割り切ればそれほど難しく考える必要のないあらすじなので、ストーリーが《忘却の波》に押し流されるほどではなかった。
スミス: クトゥルフ神話ではない作品については、毎度の通りマイルドな感想ですの。
有味: その通り。クトゥルフ神話でなければ批評する立場にはないのでマイルドにもなる。しかし、これをテーマに飲み屋でディスカスするのはちょっとツライ。



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