潮神祭



=探索者側PCシーン、=深きもの側PCシーン、=共通シーン


【導入】

導入(探索者側)
 PCは同じ町内に住む顔見知りです。
 町内会の毎夏恒例「海水浴旅行」の日程が近付きましたが、今年の実行委員だった揺島正一郎の祖母が危篤状態に陥ったため、海水浴は中止となってしまいました。
 しかし後日、正一郎から、海水浴参加者を鬼別郡・揺島町に招待するという連絡が入ります。揺島一家が本家のある揺島町に贈与や相続手続きの説明で呼ばれたので、不謹慎ですがこれを夏旅行に利用しようという訳です。本家側も「遠慮せずに是非」ということなので、揺島氏の言葉に甘える形で海水浴は実行されることになります。
 出発は8月13日です。参加者一行はマイクロバスを借りて乗り合わせて行く事になります。参加者はPCを含めて20名程度です。

揺島家について:
 正一郎、恵里の揺島夫妻に尋ねれば、彼らの知っている限りの揺島本家の情報を聞き出す事が出来ます。
 正一郎の母(故人)は揺島町の出身でしたが、結婚後間もなく白凰市に移り住みました。正一郎氏自身は揺島町の揺島本家には一度も行った事がなく、祖母との面識はありません。
 揺島町の大地主である正一郎の祖母・海(うな)の容態が思わしくなく、唯一の相続人である正一郎一家に財産贈与・相続についての説明をしたいと、揺島本家の顧問弁護士が連絡してきたそうです。揺島夫妻はこの降って湧いた遺産相続話を幸運と考えています(多少不謹慎ですが)。
 揺島町は漁業の町で人口は1,000人ほど。海水浴場はありませんが、地元民に知られる程度の砂浜があるとのことです。


導入(深きもの側)
 深きもの側のPCは全員揺島町を陰で牛耳る「潮神教団」のメンバーです。

潮神の祭殿鬼別郡・揺島町について:
 鬼別郡・揺島町は揺島湾に沿って広がる漁業の町です。古来より土着の神「潮神様」を信仰しており、海の安全と豊漁を願って奉っています。
 揺島家の巫女が代々潮神教団を率いており、現在の巫女は揺島海です。海は“偉大なる深きもの”への変貌を控えており、今年の潮神祭において巫女の座を曾孫・艫美に引き継いだ後、深海へと還るつもりでいます。

潮神祭について:
 潮神祭とは5年に一度盛大に開催される豊漁祈願の祭です。8月の大潮の夜に合わせて開催され、干潮となった時(夜中)に沖まで松明を持って練り歩きます。巫女が海底の祭殿で祭儀を行っている間、地表にいる者は声を合わせて潮神に祈りを捧げます。祈りの句は「ふんぐるい・むぐるうなふ・くとぅるふ・るるいえ・うがふなぐる・ふたぐん」です。
 揺島町の教団は、祭の際に5名の子供を生贄に捧げることによって、連綿と潮神に崇拝の意を示してきました。
 5年に一度の大潮の夜の干潮時に、海底の祭殿へと繋がる入口が現れます。入口扉を開けて狭く長い通路を辿って行くと、祭殿となる空洞が広がります。空洞の一角には更なる海底へと繋がる穴があり、そこが潮神の眠る裂口へと通じているのです。5名の生贄はこの祭殿に置き去りにされ、ある者はまどろみから目を覚ました潮神の戯れに触手でひき潰され、ある者は満潮を迎えて海水の満ちた祭殿内で溺死します。
 潮神はクトゥルフの落とし子です。揺島湾沖の海底で永い眠りについており、大いなるクトゥルフ復権の日を怠惰にまどろみつつ待ち受けています。

 以上の状況の下、4日後に迫った潮神祭実行委員会の会合が開かれます。会合の出席者は揺島海、仁科艘次、板垣舵人、竹井鱶子・鮫子姉妹を始めとした青年団員数名、そしてPCたちです。
 会合では以下の報告がされます。PCから質問が出た場合、キーパーは適宜回答してください。

揺島 海
 海は近日中に完全な深きもの化を遂げて深海への帰還を果たします。従って海の代わりとなる新しい潮神の巫女にその地位を継承させなければなりません。継承の儀式は潮神祭に合わせて行われる予定で、海底の祭殿にて潮神立会いの下、新しい巫女の承認・継承を行う事になっています。
 新しい巫女は海の曾孫の揺島艫美(朋美)。海の娘(朋美の祖母)は揺島町の因習を嫌って町を出て行き、そして艫美の父・正一郎を産みました。海の娘は既に亡くなっており、海の血を引く直系の女児・艫美を新たな揺島の当主として迎え、潮神の巫女を継承させるつもりです。

仁科 艘次
 艫美の父母に「揺島家の財産の贈与・相続に関する話がある」と言って揺島町に来るよう手配したのは艘次です。艘次にとって「町内会の夏旅行」の件は想定外の事柄でしたが、艫美を確実に揺島町に呼び寄せるための些細な妥協点として受け入れています。ノコノコとついてきた部外者は始末するなり、血の供物として捧げるなりしてしまえば良いだろうというのが艘次の考えです。
 艫美親子は揺島家の本宅に、知人一行は揺島家の離れに宿泊させ、それぞれを監視する予定です。

竹井姉妹(青年団)
 青年団は潮神祭を邪魔しようとするレジスタンス活動がある事を突き止めています。レジスタンスの目的が今回の潮神祭(継承の儀式)の阻止だとすれば、過激派が艫美の命を狙う事もあるのではないかと、竹井姉妹は考えています。青年団は新しい巫女様(艫美)の警護と、レジスタンス狩りの強化を進めて行くとの事です。

板垣 舵人
 実行委員の中でも穏健派の舵人は騒ぎが起こることを快く思っていません。タカ派の青年団を諌めるように「穏便に事を運んだ方が良いのではないか?」「外部から来た者に行方不明者が出ると騒ぎが起こるのではないか?」等と危険なムードに傾きかけた会合の雰囲気を変えようとします。

 竹井姉妹:「板垣さん、弱気なことは言いっこなしだよ。今年は巫女様交代の大事な祭。盛大にやってはいけない法はないだろう?」
 海:「・・・いや、板垣の言うことももっともじゃ。無用な騒ぎは起こすでない」
 竹井姉妹:「・・・気には留めておきますよ」


 舵人は海と最も長い付き合いがあるため、その発言力は決して無視できるものではありません。ただし、竹井姉妹を始めとする青年団の若さに任せた暴走を止められるほどには、舵人の主張は多数派ではありません。



【8月12日】

イベント「レジスタンス・アジトの急襲」(深きもの側)
 竹井姉妹を先頭に、武装した若者たちが集合している現場に出くわします。青年団に入っているPCには召集がかかる事でしょう。

 竹井姉妹:「裏切り者を退治に行くんだ。あんたたちも来るかい?」

 竹井姉妹はPCと組んで発見されたアジトの一つを襲撃します(竹井姉妹以外の青年団員は他の別のアジトを襲撃に向かいます)。襲撃に参加したPC(&竹井姉妹)は、崖の上の廃屋に集まっていた3名のレジスタンスと戦闘になります。襲撃に気付いたレジスタンスは廃屋から逃げ出そうとしますが、それが不可能なことを悟って突破を図ってきます。
 ※キーパーはここで竹井姉妹の戦闘力の高さと残忍さをプレイヤーに伝えるようにしてください。命乞いをする瀕死のレジスタンスに躊躇無くトドメをさす、等の演出が良いでしょう。

 敵:レジスタンス(3名)
 味方:竹井姉妹

 レジスタンスを倒すと、竹井姉妹はその死体を崖の上から眼下の海へと投げ込み、魔術でサメを呼び出してその死体を喰らわせます。

 竹井姉妹:「見せしめだよ。巫女様に盾突くとどうなるか、他の奴らにも思い知らせてやるんだ」

 揺島町の住民(特に青年団)が潮神祭(巫女継承の儀式)を成功させるためには手段を選ばないことを、このイベントを使ってキーパーはPCに強く印象付けてください。



【8月13日】

イベント「揺島町到着」(探索者側)
 夏旅行出発当日、PCも含めた参加者が集合して揺島町へと出発します。
 参加者中、愛らしさと快活さで一際目を引くのが揺島正一郎の一人娘・朋美です。同年代の参加者たちと元気に戯れたり、実行委員である父親・正一郎の手伝いをしたりと、何かにつけて好意的な視線を集めています。
 ※朋美は本シナリオで重要な位置付けのNPCです。キーパーはこのシーンでPCに朋美の印象を強く植えつけるよう努力してください。

 揺島町に到着した一行は仁科艘次によって揺島家の大屋敷に案内されます。揺島家の屋敷には10名以上の家政婦がいて、一行を出迎えてくれます。朋美とその両親は本宅で床に伏せているの当主・海に面会するとの事で仁科艘次に、PCたちは宿泊場所となる離れに仁科澪たち数名の家政婦によって案内されます。離れは上品で設備もよく、以後家政婦たちもよく世話をしてくれます。
 ※実際にはディープワン化の進んだ海は揺島親子とは対面しません。容態が悪く、面会謝絶状態であるとのウソの説明が艘次の口からされます。艘次が揺島家の財産について揺島夫妻に説明をするだけです。しかし海は物陰からその様子を、特に曾孫である艫美の様子を窺っていることでしょう。

 揺島町を散策すれば、2日後に迫った潮神祭の準備が進められている事が見て取れます。
 揺島町を歩く時、もし朋美が一緒にいれば行く先々で歓待を受けます。<心理学>に成功すれば、揺島町の町民は朋美を畏怖の念を込めて崇めるような様子がある事が感じられます。
 朋美が一緒にいない場合、POW×2のロールに成功すればPCは視線を感じることができます。視線は好意的なものとは感じられません。

 当初の目的どおり、海水浴に出かけることも可能です。砂浜は揺島家のプライベート・ビーチ状態であり、飲食物(バーベキューや飲み物)は揺島家の使用人が用意してくれます。これを居心地悪く感じるPCがいるかもしれません。


イベント「漂着した死体」(探索者側)
 海岸へと出かけたPCは港で人だかりを目にします。近付いていって見ると、サメによってズタズタに食いちぎられた人間の死体が漂着しています(SANチェック0/1D3)。もし<医学><動物学>で調べれば、死体に咬傷以外の傷がある事が分かります。死体は昨日竹井姉妹によって殺されたレジスタンスのものです。
 <聞き耳>に成功すると、野次馬の中で囁かれる「サメに殺られたんだ。潮神様に捧げられたんだ」という会話に気付く事ができます。その会話を耳にした後、更に<心理学>に成功すれば、住人が囁く「サメ」には本来の「鮫」以外の意味が込められている事が分かります。もし住人に真意を確かめるなら、<言いくるめ>で以下のことを聞きだせるかもしれません。

 住民:「この町にはいるのさ。性質の悪い雌ザメ(=竹井姉妹)が2匹も」


イベント「土蔵の秘密」(探索者側)
 揺島家の広大な敷地の中には、本宅と離れ以外にも土蔵が建っています。幸運ロールに成功すると、その内の一棟の南京錠が外れていることに気がつきます。中に入って調べたPCには以下の情報を得ます。
 土蔵の中には過去の潮神祭の開催記録が収められています。開催は5年毎であり、一番最近の記録は5年前です。<経理>ロールに成功すれば、記録帳に収められた収支報告書の中に「見舞金」という高額の科目がある事に気付きます。更に<経理>ロールに成功すれば「供物」の項目に一般的な食物の他、5人の人名が書かれていることに気付きます。アイデアロールに成功すると、「見舞金」の内訳は「供物」に書かれた人名と同じ姓の家に贈られている事に気付きます(SANチェック0/1)
 仁科澪が土蔵に入り込んだPCに気付いて姿を現しますが、咎める事なく、やんわりと釘を刺すだけです。

 澪:「好奇心は身を滅ぼします。お気をつけあそばせ」


イベント「監視」(深きもの側)
 探索者側PC一行(特に揺島艫美)の到着を受けて、竹井姉妹や青年団は当初の予定通り揺島本宅の警護と、離れの監視に当たります。監視は8月15日の「朋美拉致」まで続きます。PCは好きなタイミングで監視メンバーに加わって構いません。
 PCは監視のメンバーに加わらなくてもかまいません。家政婦の手引きによって個人的に艫美や探索者側PCと交流したり、接触を図っても良いでしょう。


イベント「議題:外部から来た者たちの処遇について」(深きもの側)
 潮神祭実行委員会の会合が持たれ、探索者側PC一行の処遇について話し合われます。会合の参加者は深きもの側PCたちの他に海、艘次、舵人、竹井姉妹等です。

 議案1:艫美を祭殿に案内することについて
 継承の儀式の際には青年団が艫美を祭殿まで連れて行くことに決定します。その際、揺島夫妻が抵抗するようであれば殺害もやむを得ないということになります(揺島夫妻は潮神祭にはまったく必要な存在ではないため)。
 ※継承の儀式の執行に艫美の同意は必要ありません。本意であろうと不本意であろうと、儀式の際に祭殿の儀式の間に艫美を連れて行けば良いのです。

 議案2:その他の随行者たちについて(探索者側PC含む)
 潮神の秘密を知った者は生かしておけない、というのが強硬派(=竹井姉妹、青年団)の主張です。板垣舵人を始めとする穏健派は無用な犠牲を出すべきではないと主張しますが、やはり少数派です。
 PCはどちらの意見を支持してもかまいません。



【8月14日】

イベント「仁科澪の忠告」(探索者側)
 夕食時、配膳の際に任意のPCに澪が紙片を渡してきます。紙片には「帰れ」の一言。澪を呼び出して問い質すと、潮神祭が始まる前に揺島町を出て行かないと大変なことになる、と忠告してきます。

 澪:「揺島は部外者に優しい場所ではないのです」

 それ以上のことを、澪は語りません。「忠告しましたよ」と念を押して澪は立ち去ります。


イベント「襲撃・艫美/朋美殺害」(共通)
 深夜、揺島の本宅を数名のレジスタンスが襲撃し、艫美/朋美を亡き者にせんと殺害を試みます。
 密かに艫美を警護していた深きもの側PCはレジスタンスに対して迎撃が可能です。
 探索者側PCは3ターン遅れで迎撃に参加可能ですが、もし迎撃中の深きもの側PCにディープワンがいたらそれを目撃してしまいます(要SANチェック)

 敵:レジスタンス(4名)
 味方:深きもの側、探索者側PC(戦力が乏しい場合は青年団NPCを助っ人に出せば良いでしょう。竹井姉妹でも良いかもしれません)

 戦闘が終了すると、レジスタンス襲撃の手引きをした家政婦の一人が仁科艘次と青年団のメンバーによって引き出されてきます。拘束された家政婦は以下の罵声を艘次に対して浴びせます。

 家政婦:「こんな忌まわしいごっこ遊びに付き合うのは、もう御免だよ! 人でなし! 返せ! 息子を返せ!!」

 家政婦は艘次の命を受けた青年団(深きもの側PC含む)によって連行され、リンチを受けた上、鮫の餌に供されます(翌日、浜に打ち上げられることでしょう)。
 探索者側PCと朋美には仁科艘次が丁重に詫びを入れ、今後このようなことは起こさないと約束します。
 澪に意識を向ければ、連行された家政婦の叫びを聞いて辛そうな顔をしているのが見て取れます。澪は艘次に寛大な処置を懇願しますが、艘次はにべもなく断ります。



【8月15日(大潮の日)】

イベント「潮神祭」(共通)
 クライマックスは夜ですが、揺島町は午前中から祭の雰囲気で沸き返っています。
 探索者側PCは行く先々で飲み物や食べ物を振舞われます。特に、朋美が一緒にいればその歓待ぶりは異常なほどです。また、町民たちは事あるごとに祈りの句(「ふんぐるい・むぐるうなふ・・・」)を口にします。
 今年の潮神祭は巫女の交代(海→艫美)があるため、例年よりも盛大に行われます。


イベント「朋美拉致」(深きもの側)
 夕刻、板垣舵人と竹井姉妹に率いられた青年団が揺島の本宅に乗り込み、揺島親子を拘束・拉致します。朋美の両親は抵抗しますが、屈強な青年団員を制止する事ができるはずもなく、朋美もろとも連れ出されます。
 探索者側PCは揺島親子の救出を試みる事ができますが、瞬く間に鎮圧されてしまいます(朋美の両親を人質にとる等、竹井姉妹は手段を選びません)。
 揺島親子は竹井姉妹等青年団によって祭殿へと連行されます(深きもの側PCも同行して構いません)。残された探索者側PCは板垣舵人率いる町民によって夜まで監視されることとなります。深きもの側PCも監視に加わって構いません(探索者側PCの監視には仁科澪も参加しています)。


イベント「レジスタンスの蜂起」(探索者側)
 月の出る頃、監視していた板垣舵人と町民が探索者側PCを開放します。もし探索者側PCを監視している深きもの側PCがいたら、戦闘になる可能性があります。ただし、蜂起したレジスタンスは人数が多いので、多勢に無勢です。
 舵人は解放した探索者側PCに町外れまでの道順を教え、以下のように促します。

 舵人:「町外れに車を用意してあるから、夜陰に乗じてこの町から逃げろ」

 舵人は揺島町のレジスタンスのリーダーです。今年の潮神祭で行われる巫女様の交代を阻止して、この因習から町を開放しようとしています。舵人自身、35年前の潮神祭の際に次女を生贄として奪われた時から、この日を待ち続けていました。舵人はショットガンと、いざとなれば隠し持ったダイナマイトを使ってでもこの呪われた因習を今日限りで途絶えさせようとしています。

 舵人:「少なくとも新しい巫女さえ亡き者とすれば、揺島の呪われた血は途絶える。刺し違えても、継承の儀式は阻止するつもりだ」

 探索者側PCを監視していた町民たちは、手に武器を持って最後の抵抗活動に散って行きます。仁科澪も舵人とともに継承の儀式の阻止するべく祭殿へと向かいます。
 もし朋美を助けるために舵人に同行するPCがいたら、レジスタンスのメンバーから武器(近接戦闘用武器に限ります)を手渡されます。
 朋美や澪を救うためにレジスタンスに身を投じるPCがいれば、舵人の口から艘次と澪の事情を知らされます。
 舵人の勧めどおりに揺島町からの脱出を図るPCはイベント「逃亡/追跡」へ進むことになります。町内会の人々は全員脱出の道を選びます。

※ここからは「揺島朋美救出(探索者側)/継承の儀式遂行(深きもの側)」と「揺島町からの脱出(探索者側)/部外者の追跡(深きもの側)」が同時進行します。
 これ以降、プレイヤーは探索者側PC/深きもの側PCを同時にプレイする事になりますが、属する陣営の意志に沿ったプレイをしても、途中で裏切って片方の陣営に偏っても良いこととします。どちらの場合も宣言は必要ありません。
 ディープワンのPCが義憤に駆られてレジスタンスに協力したり、探索者側のPCが竹井姉妹と協力して儀式を推し進めても構いません。


イベント「潮神の祭殿」(深きもの側)
 潮神の祭殿への入口は通常海底に沈んでおり、大潮の夜にのみその姿を現します。海底の岩盤をくり貫いて作った空洞で、普段は海水に満たされています。5年に一度、大潮の夜に祭殿の中に5名の子供を置き去りにし、溺死させて潮神様に捧げるのが呪われた習わしです。祭殿の最奥は大潮の日ですら潮が引かない深淵に繋がっており、そこには揺島町で崇拝される存在「潮神様(クトゥルフの落とし子)」がまどろんでいます。

 レジスタンスの蜂起(板垣舵人の裏切り)を聞きつけた青年団は逃走した探索者側PC一行を追うか、祭殿の警備を固めるかで揉めています。深きもの側PCは自分たちの行動(逃亡者を追跡するか、祭殿の警備を固めるか)と青年団への指示(逃亡者を追跡させるか、祭殿の警備を固めさせるか)を決定してください。
 青年団のメンバーは15名、その他に竹井姉妹(鱶子、鮫子)がいます。人員を複数のグループに分けても構いません。
 逃亡中の探索者側PCを追うPC(及び青年団NPC)はイベント「逃亡/追跡」へ進むことになります。祭殿の警護に当たるPC(及び青年団NPC)はイベント「継承の儀式」へと進みます。


イベント「継承の儀式」(共通)
 祭殿内は乱入したレジスタンスと迎え撃つ教団側の争いで混迷を極めていますが、仁科艘次の指揮の下、継承の儀式が執り行われています。

 深きもの側PCは混乱をかいくぐって儀式の間に到達する事が出来ます。PCとそれに従う青年団メンバーが巫女様=海を護る最後の砦です。
 探索者側PCは板垣舵人の手引きで儀式の間に到達します。揺島町で連綿と続けられてきた忌まわしい習わしに終止符を打てるのは、儀式の間にたどり着いたPCたち(+舵人、澪)だけです。

 祭殿の奥、海底の深淵へと続く穴の縁に設えられた祭壇の前では揺島海が祈りの句を詠唱しており、その足元には揺島正一郎、恵里夫妻の亡骸が転がっています。祭壇には裸にされた朋美が縛りつけられており、探索者側PCに助けを求めています。レジスタンスが朋美のもとへたどり着くためには、教団側のキャラクター(深きもの側PC、NPC)を突破しなくてはなりません。
 ※海と青年団(竹井姉妹)は死んでも投降しません。また、それは舵人と澪も同様です。このシーンで唯一態度を変化させる可能性があるのは、仁科艘次です。澪と深く関わった探索者側PCが彼女とともに艘次を説得すれば、艘次は探索者側PCに協力してくれるかもしれません。
 ※舵人は潮神祭を阻止するためには新しい巫女様・艫美の命を奪うことさえ辞さないと考えています。しかし、それはまだ何も罪を犯していない少女を殺す“人殺し”であり、その行為は躊躇なく連綿と生贄を捧げ続ける教団と変わりないのではないか? と苦悩しています。その事を探索者側PCに指摘されると、

 舵人:「何も知らぬ客人の癖に。敢えて忘れていた事を思い出させようというのか」

と言って艫美殺害(ダイナマイトの使用)を思い止まります。ただし、それが良い方向へ転がるとは限りません。

 深きもの側:深きもの側PC、揺島海(戦闘には参加しません)、仁科艘次、青年団のメンバー(「潮神の祭殿」で警備に回した人数)、竹井姉妹(※警備に回っていた場合)
 探索者側:探索者側PC、板垣舵人、仁科澪、レジスタンス4名

 @レジスタンスに探索者側PCが一人でも参加しており、しかも深きもの側PCが戦闘で勝利した場合:舵人は身体に巻きつけたダイナマイトに火をつけて祭殿もろとも自爆を試みます。祭殿に居合わせたPCは全員10D10のダメージを受けます。もし事前に舵人に艫美殺害を思い止まらせていれば、自爆イベントは起こりません。潮神が現れて超自然的な力で艫美に《巫女の聖別》を施し、艫美は新しい潮神の巫女となります。深きもの側PCはミッションクリアとなります。
 ※キーパーの判断で、舵人のダイナマイトのイベントは起こらないことにしても良いでしょう。

 Aレジスタンスに探索者側PCが一人でも参加しており、しかもレジスタンス(探索者側PC)が戦闘で勝利した場合:最後の力を振り絞った海の祈りによって、底なしの深淵から潮神が出現し、辺りを無差別に破壊し始めます。潮神の姿を見た探索者側PCは1D6/1D20の正気度を失います。潮神を見ても正気を保つ事が出来れば、探索者側PCは朋美を連れて逃走が可能です。騒ぎに乗じて逃走は自動的に成功となり、ミッションクリアとなります。
 この場合、深きもの側PCはミッション失敗ということになります。

 B探索者側PCが誰も祭殿突入に参加しなかった場合:レジスタンスの抵抗も空しく継承の儀式は執行され、揺島朋美は揺島艫美となって教団の新しい巫女となります。海は与えられた役目を成し遂げ、約束の地である深海へと還っていきます。
 海上に艫美を伴った潮神が姿を現すと、町民はその姿に平伏します。潮神の姿を見た探索者側PCは1D6/1D20の正気度を失います。
 探索者側PCはここでミッション失敗ではありません。無事に揺島町から逃げ出す事が出来れば部分的な成功は収められます。


イベント「逃亡/追跡」(共通)
 町外れに待つ自動車への逃走を選択した探索者側PC及び逃亡者の追跡を選択した深きもの側PCは、以下のルールに従ってヘックスマップで対決します。

 使用ヘックスマップ

<共通ルール>
 1ラウンドに1回、定められた数だけヘックスを移動します。深きもの側PCと探索者側PCが同じヘックスに止まった場合、戦闘が発生します(BRPのルールに従って戦闘を解決します。探索者側グループのPC以外の町内会メンバーは戦力としてカウントしません)。深きもの側PCと探索者側PCのどちらが先に移動するかはダイス等で決めてください。

<深きもの側PCのルール>
 ・深きもの側PCは「スタート@」が出発点です。もしも「潮神の祭殿」で追っ手を2グループに分けていた場合、第2グループは「スタートA」から出発となります(※3グループ以上に分かれていた場合、キーパーが適宜スタート地点を決定してください)。
 ・深きもの側PCは毎ラウンド2ヘックス進めます(2グループ以上に分けて追跡していれば、任意のグループを1マスずつ進めることも可能)。
 ・1度だけ3ヘックス進むことが出来ます。
 ・探索者側PCを追い詰め、戦闘によって捕縛/殺害する事が勝利条件です。

<探索者側PCのルール>
 ・探索者側PCの出発点は「スタートB」です。
 ・探索者側PCは毎ラウンド1ヘックスずつ進む事が出来ます。
 ・1度だけ2ヘックス進むことが出来ます。
 ・上記とは別に、1度だけ3ヘックス進むことが出来ます。
 ・深きもの側PCの追跡をかわして、「GOAL!」のヘックス(車の絵の描かれたヘックス)にたどり着ければ、その時点で逃走成功(勝利)です。

 キーパーはグループにいるPC、NPCを把握しておいてください。同じヘックスに止まった場合、そのグループに属するPCだけが戦闘に参加できます。
 マップ上のグループを動かせるのは逃走/追跡に参加しているPCだけです。祭殿へ向かったPCは移動方向を決定する権利がありません。複数のPCが逃走/追跡に参加している場合、移動の決定権を誰が持つか話し合って決めてください。プレイヤーの思惑によっては、故意に逃走/追跡が失敗するような移動をすることも可能です。
 もしもPC、NPCが誰一人として追跡に参加しなかった場合、逃亡は自動的に成功となります。また、探索者側PCが全員潮神の祭殿に向かった場合、逃亡は自動的に失敗となります。町内会の顔見知りたち全員があるいは拘束され、あるいは殺害されることでしょう。



【結末】


エンディング「悪夢を振り切って」(探索者側)
 探索者側PCは生きて揺島町を脱出する事が出来たらミッションクリアです。1D10ポイントの正気度を獲得します。また、揺島朋美を生存させたまま継承の儀式を阻止できたら、更に1D8ポイントの正気度を得ます。
 両親を失った朋美の未来は暗いものかもしれませんが、PCの励ましによって光を取り戻すこともあるかもしれません。

エンディング「新しい巫女」(深きもの側)
 深きもの側PCは継承の儀式を成功させ、揺島艫美を新しい巫女として迎える事が出来たらミッションクリアです。1D10ポイントの正気度を獲得します。また、探索者側PCを全員捕縛/殺害する事が出来たら、更に1D8ポイントの正気度を得ます。
 5年後の次回潮神祭に向けて、揺島町は再び静かで退屈な漁港に戻ります。



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