Trail of Cthulhu



Trail of Cthulhu 『Trail of Cthulhu』(以下ToC)は2007年にPelgrane Press社から発表されたクトゥルフ神話を扱ったRPGです。主に世界恐慌以降の1930年代の世界を舞台にするように意図されています。世界的な大混乱はカルトやカルティスト、そしてクトゥルフ神話の恐るべき存在が暗躍するにはうってつけのタイミングというわけです。
 ToCはシナリオの傾向によって大きく二つにスタイルが分かれます。
 一つ目がピュリスト(Purist)で、神話の事実を暴いていった探索者が不運な運命をたどるというペシミスティックなスタイルです。H・P・ラヴクラフトの著作の多くはこのスタイルに当てはまります。無力な一般人が神話の前に絶望する様子を描くのです。作成する探索者に制限を設けてこれを再現します。『宇宙からの色』、『狂気の山脈にて』、『超時間の影』、『闇に囁くもの』がこのスタイルです。
 もう一つがパルプ(Pulp)で、こちらは神話に対する「死に物狂いの戦闘」を再現する、若干ヒロイックなスタイルです。R・E・ハワードがこのスタイルの代表的な作家と言えるでしょう。つまり、大雑把に言えば、神話の怪物に殴り勝つのを目指すのです。『屋根の上の怪物』、『アッシュールバニパルの火の石』、『スカル・フェイス』がこのスタイルです。
 もちろん、二つのスタイルを両立させる事もできます。『チャールズ・デクスター・ウォード事件』、『ダンウィッチの怪』、『忌み嫌われる家』がこれに当てはまります。
 二つのスタイルは大まかにセッションの雰囲気を形作る要素の一つという位置づけです。ピュリストで戦闘が起こる事もあるでしょうし、パルプで絶望の中で全滅する場合もあるでしょう。

 ToCは「GUMSHOEシステム」という汎用システムで運用されます。GUMSHOEシステムは探索・調査に特化したシステムで、アクションよりも思考や推理に重きを置いています。
 GUMSHOEシステムで作られるキャラクターの大きな特徴は、能力値(STRやEDUなど)を持たないことです。GUMSHOEシステムは参加プレイヤーの人数やシナリオの傾向によって決定される構築ポイントで能力(Ability)を購入することによってキャラクターを作成します。つまり、GUMSHOEのキャラクターは技能しか持たないのです。<正気度>、<精神安定度>、<健康度>という能力値的な数値もありますが、それも能力の一種として構築ポイントを消費して購入します。
 『クトゥルフ神話TRPG』(以下CoC)の正気度に当たる数値は<正気度>(Sanity)<精神安定度>(Stability)の二つに分かれています。いわゆるCoCの正気度は<精神安定度>です。惨殺死体やクトゥルフ神話の怪物を目撃して失うのは<精神安定度>です。ToCの<正気度>はキャラクターが世界の“こちら側”にいられるキャパシティを表します。キャラクターが狂気に陥ったり、魔道書を読んだり、神話の知識を使うたびに<正気度>は減少していき、この数値が0になった時、キャラクターは世界の“向こう側”へ行ってしまい、永劫の狂気によりゲームをリタイヤしてしまうのです。
 また、各キャラクターは危険な探索に身を投じる根源的な動機「ドライブ(Drive)」を持っています。「家系」や「芸術的感受性」や「骨董趣味」によって、キャラクターは危険に身を投じずにはいられないのです。

 ToCでキャラクターがやるべき事は手がかりを見つけ出すことではなく、見つけた手がかりを如何に解釈するかです。そのため、ToCでは調査に使う探索能力(Investigative Ability)は、判定するまでもなくすべて自動成功になります。つまり、重要な手がかりになる書物がワイドナー図書館にあるのが分かっている場合、CoCでは<図書館>技能を持っていてもロールに失敗して目的の書物が見つからない危険性があるのに対し、ToCでは<図書館>能力を持つ探索者が現場に行けば“必ず”その書物は見つかります。見つけた書物がラテン語で書かれていたなら、CoCでは<ほかの言語(ラテン語)>技能に成功しなければ重要な情報を見落とす危険性がありますが、ToCでは<言語(ラテン語)>能力を持っている探索者は“必ず”重要情報を見つけ出せるのです。ToCで重要なのは、手がかりを見つける過程ではなく、見つけた手がかりから何を導き出すかなのです。
 なお、キャラクターは探索能力とは別に一般能力(General Ability)を持ちます。一般能力には<格闘>や<武器>といった対抗系技能が含まれます。これらは探索能力と異なり、成功判定にロールが必要となります(六面体ダイス1個で目標値以上を出すというものです)。一般能力は探索・調査以外の技能群であると言えるでしょう。<正気度>、<精神安定度>、<健康度>も一般能力です。

 ToCではクリーチャーは能力値を持ちますが、外なる神々やグレート・オールド・ワンは能力値を持ちません。「グレート・オールド・ワンと戦うことは大砲の弾幕と戦うようなものです。何丁のショットガンを持ってきたかは重要ではありません」(ToCルールブックより)。神話の神々は概念を持つだけです。例えば、グレート・オールド・ワンのクトゥルフは、南太平洋の海底に没した死都ルルイエで眠る深きものどもの最高神で、水の精霊の長で、重力の化身です。あるいは人間の脳幹と大脳辺縁系の組織に、原始時代の爬虫類の先祖によって残された「R複合体」の中に概念的に存在するだけの下次元の存在かもしれません。キーパーは自分の好みに合うように、シナリオに好都合なように、クトゥルフの正体を決めることができます。クトゥルフ=水の精霊という、多くは否定的に捕らえられている四大精霊説も必要とあらば採用できます。すべての神々は可塑的な概念としてしか定められていません。人間から見れば、神々は万能で理解不能な圧倒的パワーとしか知覚できない存在なのです。人間の尺度で測ることはできません。

 グレート・オールド・ワン「モルモー」や異種族「レムリア人」、狂える作曲家スクリャービンのピアノ・ソナタ(魔道書)『第13番(「戸口」)ソナタ(作品76)』など、他では見られない神話的アイテムを扱って野心的な試みも見られます。また付録としてCoCとToCのキャラクター互換ルールも用意されています。

 ルールは比較的簡単なので、興味のある方は挑戦してみてはいかがでしょうか?



リプレイ「死にゆきし聖マーガレット」

ToCを使ってプレイしたオフィシャル・シナリオ「The Dying Of St Margaret's」のリプレイです。
例によって激しくネタバレなので取り扱い注意。

死にゆきし聖マーガレット

おまけ

今回のプレイに私が使ったキャラクター・シートを置いておきます。
Trail of Cthulhu キャラクター・シート(PDFファイル)




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素材提供サイト:「気まぐれ堂」