ぼくのホーム・ページの“聴きものCD”の欄に紹介したパンチョスがらみの2枚について問題が生じたので、今回はそのことにふれたい。
その1枚に関して、ぼくはこんな風に書いている。
Charlie Zaa & Los Panchos"Romance de otra epoca"
はっきり言って、このレコードは詐欺的商品だ。もともとふわふわとロマンティックな歌を唄って、ぼくはちっとも巧いとは思わないが、人気のあるコロンビアの若手歌手チャーリー・サーが上記のようなCDを出した。おまえもパンチョスかと思ったが、パンチョス好きが多いラジオの聴取者サービスのためにと買い求めて聴いたが、屁みたいな唄に心底腹がたった。
全12曲のうち1.3.4.6.7.9.10.12.の8曲が実体がはっきりしないロス・パンチョスの演唱で面白くもなんともない。これではオリジナルのパンチョスに無礼だ。そしてサ-自身が唄う4曲にしても、プエルト・リコのベニート・デ・ヘスースの名曲「わたしたちの誓い」のイントロでパンチョスの演奏を使い、途中から強引に、したがってきわめて不自然にオケの伴奏に代えるなど、なんともひどい。こんなレコードは絶対お買いにならないようにとご忠告します。
これについてはなにも問題ないのだが、もう1枚のほうもこのCDと同様に詐欺まがいのアルバムだと判明したのだ。
Julito Rodriguez・Johnny Albino・Enrinque Caceres
"Homenje a El Trio Los Panchos・El Reencuentro"
トリオ・ロス・パンチョス人気は、衰えるどころか、ますますそのボルテージが高くなっているようだ。ベネズエラの"エル・プーマ"ことホセ・ルイス・ロドリゲスが、パンチョスの往年の名演唱に自分のボイスをかぶせた「共演アルバム」がヒットして以来、そんな傾向が強まっているようだ。
本作もパンチョス人気を当て込んでの企画だが、中味はいい。それもそのはず、3代目のフリート・ロドリゲス、5代目のジョニー・アルビノ、6代目のエンリケ・カセレスと、パンチョスの歴代トップ・ボイスが一堂に会して懐かしのパンチョスのヒットを唄っているのだから。3代目が75歳、5代目が82歳、6代目が64歳で、ところによりヨレルところもあるが、単なるトップ・ボイスの同窓会に終わらず、しっかり唄って弾いて魅了するのはさすがだ。ちなみに、「ある恋の物語」「ペルドン」など5曲を11/7のPグラフィティで放送予定。ぜひご一聴を!
“聴きものCD”の欄には上記のように紹介したのだが、じつはいろんな問題をはらんでいたので、訂正をかねてご報告したい。
まず問題は「3代目のフリート・ロドリゲス、5代目のジョニー・アルビノ、6代目のエンリケ・カセレスと、パンチョスの歴代トップ・ボイスが懐かしのパンチョスのヒットを唄っている」のは事実であるが、「一堂に会して」は唄っていなかったことが判明したこと。CDの仕様や解説から、ぼくが早とちりしてそのように思い込んでしまったのが、間違いのもとだったわけである。
じつは、このアルバムから「ある恋の物語」「ペルドン」「恋の執念」「つた」「ペルフィディア」「シン・ウン・アモール」を放送でも紹介したが、その際ジャケットに表記されていたつぎのデータをあわせて紹介した。
*Primera guitarra y 3ra voz: Roque "El G歹rito" Lozada
*2da guitarra y2da voz: John Gonzalez
*Teclados: Noel Rodriguez y Tito Vicente
で、かけた曲の大半でリード・ボーカルをとっているのは、82歳のジョニー・アルビノで、結局チャンと声が出ているのは彼だけなのでアルビノのバージョンをぼくは選んでいたわけである。そこで他の二人の声が聞こえないことに気づくべきだったが、不覚にもそれが出来ず、間違った情報をお伝えした。むろん放送のあと、数人の方から「一堂に会して唄ってはいない」というクレームのお便りをいただき、ぼくは2週後の放送でお詫びして訂正した。そのとき、なかの1人の方が「アルビノのバックを務めているのは一緒に毎年来日しているバルガス兄弟ではないか」と指摘してこられたことも報告したが、そのときもぼくはまだ上記のデータを信じていて、そんなはずはないと思うとつけ加えた。その数日後、東京世田谷区におすまいのMKさんから、こんなお便りをいただいた。
「11/7 (火) 放送の"Homenje a El Trio Los Panchos" のCDからの6曲について私以外からも反響があったようですね。今回の放送で訂正されておりましたが、間違った場合直ちに訂正されることは大変謙虚で立派な態度と感心いたしました。なお、あのJohnny Albinoが歌った6曲は Taulino Y Gabriel Vargas の伴奏だという便りもあったと放送されました。私も16曲を無意識で聴いた段階で Julito RodriguezとEnrinque Caceresの伴奏が requinto, guitarra, teclados なのに、Johnny Albinoのものだけが requinto, gui- tarra, maracas なのはちょっとへんだなぁと思っておりました。この放送を聴いて早速 "Homenje a El Trio Los Panchos" のCDと97/11/21発売の"Trio Los Panchos Best Album" (日本クラウン CRCI-20323) のCD (演奏者Johnny Albino, Taulino Y Gabriel Vargas) を慎重かつ綿密に聴き調べてみました。その結果6曲とも全く同じ録音でした。いずれも演奏時間、演奏方法 ("Historia de un Amor"でのRequintoの腹を叩く奏法やその時間及び回数/スタート19秒時点,38秒,55秒,57秒, "Obsecion"での掛け声 1分30秒時点等、特徴的な演奏方法) が6曲とも同一でしたので間違いないと確信しました。おそらく日本クラウン (株) から買い取って編集したのではないでしょうか。」
このお便りをいただいて、ぼくは仰天した。なぜなら、上記のデータは真っ赤な嘘ということになるからである。このぶんだと、MKさんが書いておられるように、「日本クラウン (株) から買い取って編集したのでは」という点も怪しいものであるが、それはぼくには関係ないことなので、これ以上追求するつもりはない。だが、なんとしても言っておきたいのは、エグゼクティブ・プロデューサーとして名前を出している Jorge Floresもミュージカル・ プロデューサーのNoel Rodriguezも、大のインチキ野郎になると言うことだ。さらに言えば、こんないい加減なアルバムを平気でリリースするBMG US LATINの神経も疑わざるを得ない。それにしてもパンチョスがらみなら売れるという音楽ファンの心情を食い物にするプロデューサーがばっこする昨今、パンチョスがらみのアルバムを買うときは要注意である。ともあれ、こんなインチキCDを紹介したことを恥じるとともに、こんな詐欺師的プロデューサーに災いあれ、と声を大にして叫びたい。
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