エデンの園に暮らしていた頃の人間は、豊かな自然の恵みを享受し、何不自由ない生活を送っていた。
しかし禁断の知恵の実を食べてしまった人間は、楽園から追放され、その知恵=文明によって自然を切り従えなければ生活をすることが出来なくなったのだった。
旧約聖書が語るこの物語は、人間という存在についてある種の示唆を与えている。
知恵の実の成果たる文明の発達は、石くれを山のごとき建物に代え、夜を昼に明るくし、地上のありとあらゆる場所を、海も空さえも人間の生活範囲とした。
しかしその一方で人間は地球の資源を収奪し、自然の循環を破壊し、大地を化学的な物質で汚染しつくした。破壊された自然環境で生きられなくなった生物は次々と絶滅に追いやられ、その数は実に1年間で2万種に及ぶとされる(ちなみに18世紀までの種の絶滅は100年間で平均25種だったという)。
なぜ人間は 「地球をむさぼり食う(Devouring Earth)のだろうか?」この問いは、現在欧米の多くの環境保護団体によって象徴的なスローガンとして唱えられている。
栄華の頂点ともいうべき大都市Paragon Cityこそ、その問いに最も適当な場所であろう。
しかし、ここParagon Cityでは、今まさにこの問いに対する復讐が、具体的な形で人間を襲おうとしているのだ。
熱烈な環境保護論者にして分子生物学者であったハミドン・パセルマはひょんな偶然から、分子レベルで生物の突然変異を引き起こす生命体”地球の意志”(The
Will of the Earth)を発見した。
突然変異を起こした生命体は、地球と合一し、その自然を破壊しようとする人間に対して強い敵意を抱くようになったのだった。
そして今、Paragon Cityではある種の皮肉と自戒をもって、この種をDevouring Earthと呼ぶのだ。
更に厳密に言うなら、Devouring Earthは、さまざまな生物、あるいは無機物の突然変異体の集合である。
現在までに、Devouring EarthにはCreepers(ツル性の植物)、Mushrooms(菌類)、 Rocks(岩石)、
Geodes(鉱石)、
Warms(虫)の5つの出自が確認されている。岩石や鉱石が突然変異をおこすのは奇異に思われるが、ある種の結晶鉱物はその上に吸着する有機分子の種類
や吸着し易さに影響を与え、さらにその有機分子はその周りの環境に影響を与えることで、無生物から生物を生み出す可能性が指摘されていることを考えれば
(結晶鉱物進化説)あながち奇想天外ともいえないだろう。
そして彼らの意志を代表するのが、地球の意志の創造者であり、現在は一つの巨大な細胞からなる生物―ハミドン(Hamidon)である。地球の意志(The
Will of the Earth)と言うバクテリアに似た生きた突然変異体によって、生物や結晶鉱物を次々とDevouring Earthへと変え、やがてDevouring
Earthによって地球を埋め尽くそうと目論んでいるのだ。
更に恐るべき殊に、地球の意志(The Will of the Earth)によってDevouring
Earth化された生物は、それぞれ単体で意志があるにもかかわらず、同時に種全体として意志を共有し、常に交信していると言われている(スタートレック
に登場するボーグのような生物といえばわかりやすいだろうか)。
すべての意志の代表者、ハミドンはParagon Cityの一角、その名もエデン(Eden)を本拠地としていると言われている。
あらゆる文明を滅ぼし、Devouring Earth化した人類を再び、まさしく”エデンの園”に戻すことこそ、ハミドンとその種の唯一にして絶対の意志なのだ。