もし最悪の敵を1人選べと言われたら、多くのヒーロー達はあの異世界からの侵略者リッティと共に、必ずアーチヴィラン(Arch Villain)ネメシスの名前を挙げるだろう!彼こそは知られる限り最初のArch
Villainであり、実に100年以上にわたって世界を我がものとする陰謀を廻らしている、全てのヒーローの宿敵ともいうべき存在なのだ!
19世紀のドイツ(プロシア)に生を受けた彼は、究極の天才とも言うべき科学者であり技術者であった。彼の恐るべき才能は当時の蒸気機関と工学技術を飛躍
的に発展させ、驚くべき事に現代で言うロボット(彼はオートマトン(自動機械)と呼んだ)までもを完成させるに至ったのだ。これは当時の、場合によっては
現代に至るあらゆる技術水準を遙かに凌駕したものだった。もし彼がその才能を正しい目的で使うという道徳心があったのなら、彼は最初のテクノロジー系の
ヒーローに成れる素養をもった人物だったろう。しかしネメシスにはその才能を正義のために捧げる気など微塵もなかったのだ!
彼はただ自らの征服欲を満たすためだけに、この恐怖の自動機械軍団の創造者となり、以後「プロシアの自動機械のプリンス」の異名の元、世界に恐るべき脅威を与え続けてきたのだった。
1920年代禁酒法下のアメリカは、この怪人に世界征服の最初のチャンスを与えた。ネメシスは自動機械の創造者であると同時に、巨大金融コングロマリット
の支配者としての顔を持っており、彼の支配下にあるサウザン・ユナイテッド・マニュファクチャリング社(the Southern United
Manufacturing Corp.)がParagon
Cityで当時金融街として飛躍的な発展を遂げていたスティール・キャニオン地区に本社を移したのもこの頃であった。
ネメシスは当時の市長であったジェームズ・ラビノヴィッツをはじめとする政治家を多額の賄賂で買収すると共に、時には暴力的な手段をも用いて、Paragon Cityの経済を裏から支配したのだ!
更にネメシスはカナダからのアルコールの密輸と密造酒の販売に彼のネットワークを最大限に活用し、禁酒法下のアメリカにおいて莫大な収益を上げていた。
しかしネメシスの栄華を脅かす影が近づきつつあった。
最初にして最も偉大なスーパーヒーローとして知られる「ステーツマン(The Statesman)」が、密造酒販売の真の黒幕はただのギャング団などではなく、Paragon
Ciyの政財界を支配するこの巨大企業であることを突き止めたのだ。そしてステーツマンの活躍によってサウザン・ユナイテッド社の犯罪が暴露されるに至って、ネメシスは表の顔をかなぐり捨て、遂にその正体を露わにした。
きらきら光る真鍮製の機械の兵隊・・・ネメシスのオートマトン軍団がスティール・キャニオンのビルの谷間にあふれかえった。ネメシスはこの恐るべき自動機械軍団をもってヒーローを倒し、一気にParagon
Cityを制圧せんと図ったのだった。
ステーツマンとその仲間(後にフリーダムファランクスと呼ばれるヒーローグループ)とネメシスのオートマトン軍団との闘いはアメリカでは南北戦争以来の大規模な市街戦となった。
そして、最後の勝利の凱歌は我らのヒーローにあがった。
これが歴史上「真鍮の月曜日」として知られている事件であり、最初のヒーローと最初の Arch Villainとの以後数十年に渡って続く闘いの始まりであった。なおこの事件の後、スーパーヒーローは市民の守護者としての立場が明確になり、フリーダ
ムファランクスの結成と1937年の「市民犯罪対決法(Citizen Crime Fighting)」法の成立につながってゆくのである。
一方、一敗地にまみれたネメシスであったが、世界征服の野望を捨て去ったわけではなかった。10年後、彼は更に恐るべき陰謀をもって、再びヒーロー達に挑戦してきたのだ。
真鍮の月曜日から十数年・・・金融コングロマリットと自動機械(オートマトン)の力によってParagon City制圧を図ったネメシスの悪夢も人々の記憶から消え去ろうとしていた1945年5月8日。
ヒトラーはベルリンで自殺し、ここに欧州での大戦は終わりを告げた。だが勝利に沸く人々の誰もが、この後こともあろうにアメリカ本国で恐るべきネメシスの復讐が始まろうとしていたとは知るよしもなかったのだ。
真鍮の月曜日以来十数年にわたって地下に潜伏していたネメシスは世界征服とヒーローへの復讐を誓って密かにアメリカの軍需産業をその支配下に入れ、第二次世界大戦を通じて膨大な最新兵器と軍需物資をその手中に収めていた。
そして彼はそれをつかって新たなオートマトン軍団を作り上げつつあったのだ。ロケット砲と原子力ビームで武装したこの新たなオートマトン軍団を彼はクロックワーク・トルーパー(ぜんまい仕掛けの突撃兵 Clockwork
Trooper)と呼んだ。(このことから現代のクロックワークはネメシスのオートマトン軍団と何らかの関係があったのではないかと推測されている)
アメリカ中が戦争終結で沸いたVE−DAY(ヨーロッパ勝利の日)の興奮覚めやらぬ1945年5月8日未明、ワシントン郊外に集結したネメシスのオートマトン軍団は、日の出を合図に連邦政府中枢部に奇襲攻撃を開始した。
トルーマン大統領は幸運にもテレポートのできるヒーローのおかげで難を逃れたものの、連邦議会と最高裁判所はネメシスの手に落ち、最高裁判所の裁判官を脅迫した彼は、自らを「アメリカ合衆国皇帝」であると宣言させ、連邦議会の階段の上で戴冠式を行ったのだった。
ヨーロッパ戦線で戦っていたステーツマンとフリーダムファランクスのヒーロー達はこの緊急事態に急ぎ帰国したが、前回の失敗に懲りたネメシスは万全の策を講じて彼らを待ち構えていた。
なんと彼はアメリカ全土の20の都市に神経ガス爆弾を仕掛け、彼がスイッチを押せば解毒剤を使わない限り24時間以内に何千万人もの市民が死ぬであろうと脅迫し、ヒーロー達に降伏をせまったのだ。
かつてないピンチに陥ったヒーロー。そして彼らに残された道は、ネメシスを倒し、解毒剤のありかを突き止めることだけだった。
ネメシスのいる連邦議会ビルを奇襲したヒーローとネメシスの戦いは激烈を極めた。
ネメシスの原子力ビームによって多くのヒーローが犠牲となったが、最後の勝利の凱歌は再びヒーローに上がった。ヒーロー達は遂にネメシスが戴冠した議会の階段のまさにその上で、ネメシスを倒すことに成功したのだった。
一方、シスターサイキは解毒剤のありかを探るべく、テレパシーによってネメシスの思考にアクセスすることを試みた。そして激戦の最中、遂に毒ガスの解毒薬のありかを突き止めることに成功したのだ。その情報は直ちにアメリカ軍に伝えられ、ようやく合衆国はネメシスの神経ガスの脅威から開放されたのだった。
たった一人のアーチヴィランによって危うくアメリカ全土が占領されかかったこの事件は世界各国を震撼させた。
だがネメシスの脅威はこれで終わりというわけではなかった。実はヒーロー達が倒したネメシスは精巧にできた偽者であり、本当のネメシスはまんまと逃げおおせていたのだ。
そして再び敗北を喫したネメシスがこのまま引き下がっているわけはなかった。2度の失敗から、世界征服のためにはまずヒーロー達を片付けなければならないと学んだ彼は、1990年代の中ごろ、再びヒーローに挑戦してきたのだ。
最初にネメシスが選んだターゲットは、フリーダムファランクスと並び称されるスーパーグループ、ダウンパトロールだった。
卑劣なネメシスの闇討ちによって、ほとんど一瞬にしてダウンパトロールの半分以上のヒーロー達は死に追いやられた。そしてこの奇襲のためにダウンパトロールは一時ほとんど壊滅状態にまで追い込まれたのだった。
だが、ヒーロー達はここで驚くべき結束を見せ、逆に慢心したネメシスに対して反撃に転じた。
そして新たなヒーローの参加を見たダウンパトロールは、2002年逆にネメシスを追い詰めたのだ。
だが運命はネメシスに味方した。なんとそのときリクティの侵略がはじまり、ダウンパトロールは新たな侵略者にその勢力を向けねばならなかった。
ネメシスは3たび逃げおおせることに成功したのだった。
だが執念深い彼がこのまま矛を収めるはずもない。今こうしている間にも、ヒーローへの復讐と世界制覇の野望を胸に秘め、ネメシスは再びその牙を研ぎつつあるに違いないのだ。