86.◆ウジ虫が人類を救う◆

あまり気持ちのいい話ではありませんが、患者にとってはまさに地獄に
仏の話です。

糖尿病が重くなると、足の指などの末端の血流が極端に悪くなり、組織
が死んで壊死（えし）を起こします。壊死した組織は真っ黒くなり、こ
うなるともはや治療は不可能で、そこを切断しない限り毒素が全身にま
わって生命の危機を迎えることになります。

指の切断ならまだそんなに日常生活に支障はないのですが、足を切断す
るような事態になると人生は大きく変わってしまいます。

このように糖尿病で壊死を起こすと治療法はなく、切断するしかありま
せんでしたが、最近、壊死を起こしても切断しなくてすむ治療法が現れ
ました。これをマゴットセラピーといいます。マゴット(maggot)とは
ハエの幼虫であるウジ虫のことです。


ウジ虫をいったいどうするんだ？！という声が聞こえそうですが、実は
ウジ虫を壊死した患部に放つのです。患部の大きさにもよりますが十数
匹は放ちます。生きたままです！

もちろん、治療で使うウジ虫は、清潔な環境で特別に育てた治療用のウ
ジ虫です。ウジ虫の働きはとても重要で、

　　１．壊死した部分を食べて取り除く
　　２．分泌液の強力な殺菌力で殺菌する
　　３．分泌液に組織の再生を促す働きがある

壊死した患部にウジ虫を放ち、その上から包帯を巻いて数日そのままに
しておくと、壊死の部分がきれいになり始めるそうです。そうなれば切
断という悲劇を迎えなくてすみます。

はじめの頃はウジ虫をそのまま患部に放っていたので、あとで取り除く
のが大変だったようです。現在は、紅茶のティーバッグのような袋に数
匹入れて、この袋を患部に張り付けるという方法になっていますので、
取り除いたり交換するのも簡単になりました。


自分の体内に生きたウジ虫がいる、なんて考えるとぞぞっとしますが、
指や足を切断することを思えば何でもないことです。むしろ、なんてあ
りがたい存在なんだと思えてくるはずです。まさにウジ虫が人類を救う
と思いませんか。

マゴットセラピーはまだ普及していなくて、どこの病院でも、という訳
にいきませんが、下記の病院ではすでに実績がありますから、希望され
る方は受診されると良いでしょう。

　・日本医科大学付属病院　再生医療科　（東京都文京区千駄木）