バックステージ・パス 91年5月号
デビュー直後のマサムネのインタビューです。詞の世界について語っています。っつーか、マサムネはリーダーじゃないよね(笑)。
このライターさんもなかなかマサムネの世界の理解が難しいみたいで、会話がぎこちない、緊張した感じがあります。
「 」の中がマサムネのセリフです。何か長いけど(笑)、ちょっとはマサムネの世界が見えてくるでしょうか??
写真アップしました。怒ってるようなリーダー(タムラ)が気になるんですけど(笑)。




 誰かがどこかで「スピッツの歌はNHKの“みんなの歌”のようだ」、と書いていたが、その短絡的な解釈に僕は「バカモノ!」と言いたくなってしまった。
スピッツの草野マサムネが書く詞は確かに動物や鳥などが登場するし、日本人が心を震わせる叙情性を持ってはいるが、決してその場面設定が単純明快ではない。
簡単にガキがわかってたまるか的な複雑な情感をいかにそこいら辺に転がっている形容詞で組み立てていくか・・・という中にチャレンジし続ける草野マサムネの
毒々しくもあり初々しくもあるその“心象風景(ロマンチシズム)”はいったいどこからやってきたのか?
アンジーの三戸華之介にも通じるその文学的でいて皮相的な“言葉”はいったいどういう回路で発生するのか?
今回はその謎を解明すべく、リーダーでありヴォーカリストでありソングライターでもある草野マサムネに“歌づくり”という事をテーマに話をうかがった。


──草野くんが歌を作る時に最初に思い浮かべるイメージというのはいったいどういったところから来るんですか?根源的な発想というか・・・。

「うーん・・・自分でもよくわからないような・・・そういう歌を作りたくなってしまう瞬間というか、衝動があるんですよね。
それが何なのか?自分でもわからないんですけど。例えば旅行とかに行った時に初めて行った全く知らない場所を見てデジャブ(以前にも見たような錯覚)に
なってしまう瞬間があるんですけど、そういうものから触発されて書くとか、あると思うんです・・・」

──このスピッツの楽曲に書かれてる事って、言葉使いとか、場面設定がすごい時代錯誤的だったりとかさ、全然“現代的”じゃない表現をしていたり、
非常に田舎的というか、牧歌的な空気を放っていたり・・・言葉の意味よりも響きを大切にしているような・・・なんか平均化された・・・
はっきりとした意味を持った歌っていうのはないですよね。言葉に対する視点みたいなものがやっぱ違うのかな?

「自分の思うままにやってるだけで、計算したりはしてないんですよね。逆に他の人の詞とか読むと“ロックだからこの言葉は使えない”というような
制約に縛られているところがあるような気がするけど、僕はそういう制約みたいなものは全く無視したいし、たまには全く関係のない・・・
そこに入れると浮いちゃうような言葉をもってきた方が面白いな・・・とか思いますからね」

──ほら・・・よく“これは嘘の世界だから、マンガだから何をやってもいいや”っていうのと同じで“夢の中だから空飛ぶのも当然”とかさ。そうノリみたいな、
デタラメなところがスピッツの歌にもあるような気がするんだよね。

「あ・・・それはありますね。よく夢の中で“これは夢の中だ”って気がついてやりたい放題やっちゃう時があるから(笑)。
ホントに僕にはよくあるんですよそういう時が・・・。だからどこかでいつも現実逃避になっちゃってるのかもしれませんね」

──でも考えてみれば井上陽水とかもそうだよね。どちらかといえば“現実”ではない夢の中のことをうたったりするもんね・・・よく。

「そうですね・・・井上陽水さんの場合。僕も日本人の中ではかなり影響を受けてると思います。陽水さんからは・・・」

──草野くんの場合イメージしたものをそのまま素直に詞にしていく・・・という感じ?それとも現実に起こったことを脚色して色々と手を加えていくという感じなのかな?

「うーん・・・けっこう試行錯誤しながら作っていくという感じですけどね。“これじゃない!これでもない!”という感じで言葉を何回も入れ替えながら・・・。
で、いちばんの理想形に近づけていく、という感じで。でもきっとね“どこどこでなになにを見て、こう思った”という風に書いちゃうとそれが逆に納得いかない・・・
というか、自分の中ではそうやって事実をはっきり書くということがいかにつまらない事なのか知ってますからね・・・。
例えば“新宿で夕日を見た”というイメージが浮かんだとしても、僕が伝えたいイメージでいうと・・・“池袋で夕日を見た”と書いた方が僕のイメージに近ければ、
そうやって変えていこうと思うんですよね。だから具体的に言うとそんな感じで作ってますよね・・・一度自分のフィルターを通してから
“うた”にするように心掛けてますから・・・」

──例えば「トンビ飛べなかった」だったり、「ヒバリのこころ」だったり、そういった詞を書く時って自分の中でストーリーを組み立てたりするの?物語というか・・・。

「曲によってはありますね。でもそれはあんまり他人に明かしたくないものだったりするんですけどね(笑)。個人的な次元の話だったりするんですけど、
例えばその物語自体も現実とは全くかけ離れてた僕の心の中の創作だったりすることだってあるわけですし。僕が歌とか・・・詞とかやり始める前・・・
小学生の頃とかは物語を書くことが好きだったんですよ。空想ばっかりしてたし・・・。だから、今の僕が書いてるものはそういう行為の延長にあるっていうか。
たぶん、その頃にやってた創作の延長線上にあるんでしょうね・・・」

──それで思い出したんだけど、プロフィールの中で好きな詩人のところに山之口獏さんの名前があったけど、山之口獏さんであるとか・・・
そういう日本の昭和初期の文豪の影響とかはけっこう受けてる方なんですか?

「本当に詩人が書いた詞を読み出したのは、最近というか・・・2年位前なんですけどね。なんかそんなに沢山読んでないんですよね。有名な人のしか読んでないし・・・。
やっぱり草野心平とかはすごく面白い・・・というか、自分で勝手に造語を作っちゃったりして、すごいなぁ・・・と思いましたけど」

──苗字が一緒だけど親戚とかじゃないんでしょ。

「え?いや関係ないです(笑)。なんか草野という苗字は九州の一帯と東北の一帯に沢山あって、あっちの草野さんは東北の方なんですよ。福島の人ですからね」

──歌詞だけを読んでくと、なんか草野心平とか、あと谷川俊太郎とかを想い出すんだよね。

「ああ、谷川俊太郎さんの詞は、全部じゃないんですけどある時期のものを読んで、“鋭い”って思ったことはありますけど・・・。あとね、最近女の子の間で流行ってる
銀色夏生とか読んで、“あぁ・・・上手いなぁ”とか思いますよ。ああ女の子が好きで読むわけだわ・・・って感心したりして(笑)」

──立原道造とか中原中也とか。宮沢賢治とか、高村光太郎とか・・・草野心平とか。たぶん住んでいた土地柄によって感覚が全くちがったりするだけで、
継承すべき感性というのはけっこうあるよね。

「そうですね。宮沢賢治とか最近まで読んだことなかったんだけどすごく感覚が合うんですよ。僕の場合何故か東北人が多いんですよね。
自分の中で好きになる作家の人というか。石川啄木とかも僕あんまり知らなくて、最近まで読まなかったんですけど、
読んでみると実はすごくスノップな感じなんですよね(笑)。皮肉っぽい感じで。それで僕もそういう自分を席巻する社会とか生活を皮肉った毒のある
ファンタジーみたいな詞が書けるといいな・・・と思うようになったんです」


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