1998.12.1  トヨタカップ

 

 今年もトヨタカップがやってきた。毎年チケットの売れ行きは好調で、国内でも大人気の試合だ。俺もサッカーを見始めた頃は、楽しみでしょうがなかった。ところが最近、どうも乗り気になれない。売れまくりのチケットも、インテル、あるいはよほど好きな選手が来るのでない限り、欲しいとは思わなくなってしまった。他のチームは我慢するので、インテルが来るときだけ優先的にチケットを予約できるシステムが欲しいものだ。

 トヨタカップにあまり魅力を感じなくなった理由は、主にヨーロッパのチームにある。戦前の報道は客をあおるばかりだが、意外に彼らはモチベーションが高くないのだ。「世界一のクラブチーム決定戦」などと言われるトヨタカップのゲームが、時におそろしいほどの凡戦になってしまう理由もそこにある。去年のトヨタカップもひどい試合だった。翌日バイト先で「やっぱり世界はすごいねぇ」と言われて、返答に困ったのをよく覚えている。確かに技術レベルは高いが、Jリーグチャンピオンシップの2戦目のほうが、よっぽどゲームとしては面白いかも知れない。

 前身の大会が、日本で行われるトヨタカップになってから、特にヨーロッパチームの勝利への欲求はさほど強くない。選手やサポーター達は、トヨタカップの出場権を得るチャンピオンズリーグでの優勝には大騒ぎをするが、トヨタカップの優勝は大した感銘を与えない。トヨタカップに行くためではなく、ヨーロッパクラブNO.1の称号が欲しいのだ。

 国内リーグも始まり、徐々にペースをあげる時期、ましてトヨタカップに来るチームは当然、前年の優勝チームとしてチャンピオンズリーグにも出場している。レアルも、つい一週間前にインテルと激しい試合をしたばかりだ。クラブチームとしても、ホームアンドアウェイで行われていた以前に比べると、興行的なうま味にも乏しい。南米のチームもリーグ戦を戦ってはいるが、ヨーロッパのチームとのモチベーションの差は、日本入りの時期を見ても明らかだ。遠い東の果ての国の試合で下手に怪我をして、国内、ヨーロッパでの試合に差し障りがあるようではまずいのである。

 今年、日本入りしたレアルの練習で、オランダ代表のシードルフと、スペイン代表のイワン・カンポの間で激しい喧嘩があり、それがトヨタカップに向けての意気込みを表している、などという報道もあったが、あれも怪しいものだ。トヨタカップに向けての練習に熱が入り、喧嘩になる、というのは考えにくいし、実際は人種偏見の問題などで、ぶつかり合いがあったんじゃないかと、俺は思っている。黒人であるシードルフがいたフランスワールドカップのオランダ代表は、チーム内で人種差別の問題が出てきている、という話があった。その時の監督が、現レアルの監督、ヒディングである。

 今年のトヨタカップも、立ち上がりからそれほどすばらしい試合ではなかった。去年に比べて選手達のネームバリューが高いおかげで何とか盛り上がってはいるようだが、試合自体はさほど厳しいゲームではなかった。

 序盤からレアルが中盤をほぼ支配し、バスコ・ダ・ガマに付け入る隙を与えない。名前負けをしていたわけではないと思うが、バスコの選手に元気がない。今のレアルは、普通のチームが受けに回ってしまっては、そう簡単には崩せない。チャンピオンズリーグのマドリッドでのレアルのホームゲームで、インテルが証明している。

 ゲームはほぼレアルの思惑通りに進む。アナウンサーがバスコの攻撃の際、ドニゼッチとルイゾン、2人のFWの名前ばかり出すのも、仕方がないと言えば仕方がない。おまけにロベルト・カルロスがゴール方向に向けて適当に蹴ったボールが、相手のオウンゴールを誘い、レアルが前半で先制。してやったりの展開である。

 後半に入っても、レアルはリスクを負わない攻撃で十分。見た目以上に余裕を持って、試合を終わらせるかに見えた。ところが、中盤のミスからボールを奪った、バスコが、ゴール前で畳み掛けるようにシュートを連発。レアルのGKイルクナーのファインセーブも空しく、こぼれ玉をキープしたジュニーニョのゴールで同点に追いつく。これで試合が面白くなった。

 同点ゴールで勢いついたのか、バスコの選手達に元気が出てくる。一方のレアルの選手は、バスコの激しいプレッシャーに怪我を恐れたのか、ややひきぎみ。これでスペースができるようになり、バスコが盛り返してきた。

 だがそれでも、力の差はあった。シードルフからのロングパスを、最前線のラウールがソフトにトラップ。やや外側にずれたものの、落ち着いてキープし、GKをかわして勝ち越しのゴール。勝負が決まった。

 試合終了を目前にして、フランス大会得点王、スーケルが登場。追加点をあげて余裕のあるレアルにとって、得点王の投入は、時間稼ぎ以外の何物でもない。おお、そういえばスーケルは、昨年のチャンピオンズリーグ決勝、ユーベ戦でもそんな使われ方をしていたではないか。なんともったいないことか。いくら日本で騒がれていても、スーケルの評価はレアルではその程度である。こんな事なら噂のあったパルマに移籍しておけば良かった。と思った人がいたかどうかは知らない。

 近年、サッカーは明らかにヨーロッパのほうが元気がある。日本での情報は確かにヨーロッパのほうが多いので、そう感じるのかもしれないが、世界的な戦術主義の横行が、あきらかに南米とヨーロッパに差をつけている。南米好きのサッカーファンには、辛い時代が来ているのではないだろうか。

 

 

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