読み週記 12月

 

 

第2週(12/13〜12/19)

 年末が近付き少しずつ時間にゆとりがとれる予感がしてきた。時間がかかりそうで読めずにいた本にぼちぼち手を出し始めたところなのに、突然本屋で気になる本を何冊かみつけてしまった。冬休みが5年くらい欲しい、と心から思う。

 朝日新聞で大きく取り上げていて気になってしまったのがJ・K・ローリングの『ハリー・ポッターと賢者の石』(静山社)だ。生活保護を受けていたシングルマザーがコーヒーショップで書き上げ、瞬く間にヨーロッパ中に広まっていった、というサクセスストーリーのおまけが付いた物語で、久々に単純に楽しめるファンタジー小説だ。
 主人公は魔法使い学校の新入生で、悪い大魔術師に殺されずにすんだ、という伝説を持つハリー。様々な魔法や不思議な生き物達が全編に満ちあふれていて、飽きることなく楽しめる。ファンタジーやメルヘンを大人が楽しむ文化のない日本でどれだけ人気になるかはわからないが、C・S・ルイスの『ナルニア国物語』(岩波少年文庫)やミヒャエル・エンデなどを楽しんだ人々なら再び懐かしいあの世界を堪能できるはず。とにかくファンタジー心をくすぐる小道具、アイディアが一杯だ。

 各週刊になって忙しい『ワールドサッカーダイジェスト』(日本スポーツ企画社)の今年最後の号はユーベ特集。そんなものには全く興味がないんだけど、ヨーロッパ選手権の別冊付録につられてつい購入。ファン・デル・サールのインタビューは珍しくてちょっと面白い。

 今年の読み週記更新はこれにて終了。来週の月曜日からは個人的な冬休みにはいるため、書きません。このまま1月の10日の更新までの休みに入る。休みって素晴らしい。

第1週(12/6〜12/12)

 今年の年末はあまり本を読むのに時間をかけないつもりなので、今のうちが今年のラストスパートである。今のうちに読めるだけ読んでおくのがよい、と思いつつ、こればっかりは意図的に冊数を増やしたり、読むペースを早めたりできるわけでもなく、こんな決意には全く意味がないのであった。

 知らぬ間にずいぶん読んでいたのだ。ロバート・B・パーカーの「スペンサーシリーズ」の文庫最新刊に追いついてしまった。ずいぶん前の『初秋』(ハヤカワ文庫)が面白くて、それと対になると解説されている『晩秋』までは何とか読もうかどうしようか、と悩みながら読み続けてきたのだが、あっと言う間に『晩秋』に辿り着いてしまい、その次の『ダブル・デュースの対決』は、シリーズとしては文庫の最新刊だった。
 そんなわけで、『スターダスト』、『晩秋』、『ダブル・デュースの対決』を続けて読む。それぞれがそれなりにまとまった話にはなっているものの、『晩秋』は期待したほどの出来ではなかった。シリーズを通して、『初秋』を越える作品はまだ無いように思える。
 一番面白かったのは、今までと違い、ホークがスペンサーに仕事を頼むという設定の『ダブル・デュースの対決』だ。最近、年齢による衰えを意識させるシーンが度々出てくるシリーズだが、『晩秋』以降、スペンサーやホークの過去について語られる事が増えて来て、シリーズとして、スペンサー達の人生がまた新たな局面を迎えつつあるようだ。この変化は今までのように外から影響された主人公達の変化というよりも、彼等の内面(年齢)からの変化である点が興味深い。中年期以降のスペンサー達の成長を長く描いてきたが、それがより過去の時点を語ることによってビルディングスロマンとしての要素がますます深まっている。

 『ささやく壁』(扶桑社ミステリー)で圧倒的な筆力を見せつけたパトリシア・カーロンの『走り去った女』(扶桑社ミステリー)は、前作には負けるものの、相変わらず優れたテンポ感を持つ秀作。ある少女が溺死した現場の近くにいたために、事故、あるいは事件の関係者、もしくは犯人としての疑いをかけられたある女性の物語。犯人として裁かれる恐怖よりも、ある限られた地域の中で、少女を殺した、あるいは見捨てた女としてのレッテルを貼られる恐怖が巧みに描かれている。
 物語が静かに始まり、主人公やいとこ、事件の説明がゆっくりと語られているかと思いきや、一本の電話が主人公に混乱と動揺を呼び、そのまま急速に物語が熱を帯びると最後までスピードを緩めることなく一気に話が展開していく。サスペンス独特のスピード感に加え、「走り去った女」の正体を探る探偵役のいとこが、最後まで主人公を疑いながら調査を続けるところなどもより一層心を揺さぶる。力強い見事な手腕だ。

 ローレンス・サンダース『顧客名簿』(講談社文庫)は、父親の経営する父親の法律事務所で、極秘調査員として事件の裏面を探る仕事をしている飄々とした男、アーチィ・マクナリーの物語。探偵として一人立ちする夢を見ながら、アーチィにいようにこき使われるビンキーや、浮気性のアーチィに厳しい目を向けるコニーなど、シリーズとして書き続けることをあらかじめ考えていることがありありとわかるようなキャラクター達が揃っているが、何よりも注目を引くのが、厳格で考え深い彼の父親プレスコット・マクナリーだろう。常に息子の予想を超えた表現力は、シリーズの定番的な魅力の一つになるに違いない。
 全体的に娯楽的な軽いタッチの小説で、人間の関係や会話、出来事など、映画やドラマの脚本のようになっていてあまり新味がない。著者のスタイルにそぐわないのでは、と思わせるような隙が多いようだ。

 WOWOWがセリエAの放映権を取り損ねたせいで、ついでに言えばインテルの調子が今一つあがらないせいで、どうもこの頃自分の中でのサッカー熱が下がり気味なのだが、そんな中、『ワールドサッカーダイジェスト』(日本スポーツ企画社)の読みどころはバティ、ミハイロビッチのインタビュー。ピッチの外では感情を表に出すことを嫌うバティの性格や、ミハイロビッチの持つFKの自負心などが注目点だが、最も目を引いたのが、日本のサッカーの応援についてのミハイロビッチのコメント。ひとつのゴールよりも、洗練されたテクニックやトリッキーなプレーに喜ぶ、という観客の特長や、会場に鳴り響くチアホーンに話だ。前者に関しては今でも相変わらずで、全く意味のないヒールキックやまずいポジショニングによって仕方なくやったオーバーヘッドにいちいち無駄に反応する癖は残っているが、後のほうのチアホーンは無くなってしまった。近隣への騒音公害、という事だが、国立競技場に響くあの音は今でも古い映像の中で郷愁を誘う。日本のサッカー応援の特徴として、復活させてはどうだろうか。

 今週は以上。そろそろ時間にゆとりができそうなので、じっくりと読む本を読み始めようかと思っている。