『台湾通信』編集後記

<2007年8月31日付>

○新光三越百貨が北京に開設した百貨店、「新光天地」は現在、中国で最大の百貨店といわれている。その新光天地で、台湾側と中国側の経営権争いが起きているというニュースに驚いた。というのも、先週、新光天地のオープンの支援のため今年の初めに2カ月ほど北京に行ったという新光三越の職員に北京での話を聞いたばかりだったからだ。新光天地は台湾側株主の新光三越百貨と中国側株主の北京華聯集団のベンチャーキャピタルである。このため台湾の新光三越の各店舗からも交代で支援に派遣されているが、中間管理職の彼女にも順番が回ってきたわけだ。彼女は外省人で、父親が広東出身だが、中国に行くのは初めてだったという。というのも、これまでは中国というところは不潔だというイメージがあり、絶対に行きたくないと言っていた彼女である。今回は仕事で仕方なく行ったが、印象はかなり変わったようだ。店舗がある場所は北京でも高所得者が集まるところで、むしろ台北よりも進んでいる。現地のスタッフとの関係も特に問題はなかったという。

○しかしよく聞いてみると、それほど単純ではない。彼女の印象では、中国の人間は主張が強く、上司の機嫌を取るのに遠慮はしない。この点は台湾とは違うという。また、中国のスタッフは流動性が高く、忠誠心が低い。特に北京以外の外地から働きに来ているスタッフは、金を持ったまま行方不明になることがあり、行く先を探すことが難しい。このため、金銭に関することは北京の地元の人間に担当させるという。北京の人間なら居場所がはっきりしているので、比較的におかしなことはしない。またレジには多くの金を残さず、係員が巡回して定期的に回収するのだという。

○ところで彼女が北京滞在中に最も印象に残ったのは、台湾側と中国側の権力闘争だったようだ。中国側が派遣してきた幹部が、台湾側が派遣した同クラスの幹部と激しい権力闘争を展開しているのを目の当たりにしたのである。新光天地で台湾側の最高責任者を兼ねている新光三越百貨の総経理は、新光グループの第3世代で、経営者としてもなかなか期待されている。しかしその総経理も、中国側の幹部に押し切られて、その要求を受け入れた。彼女は、台湾にももちろん社内の権力闘争はあるが、中国ではその比ではないと感じた。また、台湾人ならあまりやらない越権報告が、中国では頻繁に行われるという。「そんなことでは台湾側は中国側に飲み込まれてしまうよね」、などと半分冗談で話していたところで、今回の事件である。中国側が台湾側の弱みを握ったのが直接のきっかけとされている。事情は明らかではないが、台湾の有名企業のケースだけに、事件の発展次第では台湾人の中国に対する印象を大きく損なうことになるだろう。

○実は彼女に聞きたかったのは、外省人として初めての中国経験によって、彼女のアイデンティティーがどう変化したのかである。父親と男兄弟はいずれも軍人か公務員という、典型的な外省人家庭で育った彼女だ。最初は「同じ同胞でしょ」などと模範解答をしていた彼女だが、話が具体的になるにつれてむしろ双方の違いを強く感じていることが分かってきた。彼女は北京から帰った後も、私費で再び北京に観光に訪れ、オープン後の新光天地を見学したという。商売としては、北京の富裕層をターゲットにすれば、やっていけるはずだとの意見である。ただし、仕事ではもう行きたくないそうだ。中国に派遣された同僚たちは、待遇の問題もあるが、ほとんどがもう行きたくないと思っているのだという。彼女にとって中国が精神的な祖国(の一部)であっても、そこで仕事をすることはまた問題が違うようだ。(早)



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