『台湾通信』編集後記

<2007年9月21日付>

○台湾映画を久々に見た。取材の必要があって予習のためにどうしても見ておかなければならなかったからだ。このところ久しく映画館に行ったことがなかった。私はもともと台湾で人気のあるハリウッドや香港の映画は見ない。台湾映画には興味があるが、このところ台湾映画はひどい不景気で、制作本数も少なく、上映されてもすぐに下ろされることがほとんどで、あまり映画館で見ることができない。かつて80年代から90年代初めの、侯孝賢・監督を代表とする台湾のニューシネマの時代、台湾映画をたくさん見た。あの時代の台湾映画には非常に活力があった。台湾が政治的に開放されて、人々には言いたいことがたくさんあった。そんな時代、当然のように映画も多彩でテーマも興味深いものが多かった。ところがかえってそのために、台湾では観客があまり付かなかった。あまりにリアルな内容は、台湾の人たちにとって重すぎたようだ。多くの台湾の人たちはそのようなリアルな映画より、現実を忘れられる娯楽映画を求めていたのである。ベネチア映画祭でグランプリを獲得した侯孝賢・監督の『悲情城市』はさすがにそんな台湾の人たちも見たが、それ以外は売れたというのを聞かない。外国の賞は獲得するが、台湾の人は見ないという悪循環に陥った。ある映画関係者は、台湾映画は芸術性ばかりを追求するようになり、ますます台湾の観客が離れていったと指摘する。ということで、私も最近の台湾映画をあまり見ていなかった。

○今回見たのは、『不能説的・秘密(Secret)』という映画だ。なんと芸能界の才子といわれる周杰倫(ジェイ・チョウ)が主演・監督である。人気ミュージシャンの周杰倫は、最近は映画にも出演するようになっていたが、今度は自分主演の映画で、監督までやってのけた。まあ、彼の人気で売るアイドル映画だとも言える。とうことで、半分は嫌々で見に行ったのだ。ところがこの映画、なかなか面白かった。まず、舞台となった淡水が大変に美しい。相手役の女優の桂綸【ビ、かねへんに美】(グイ・ルンメイ)がきれいに撮れている。物語そのものはやや常套(とう)の手法という感じではあったが、終盤にきちんとどんでん返しが待っている。これまでの台湾映画にはない娯楽性十分の内容だった。なかなか観客からの評価も高かったようである。この映画、すでに1カ月以上のロングランである。まだやっている映画館があるから、見たい方は今からでも間に合う。

○夜中に1人で見に行ったのだが、久々の映画館にやや戸惑った。観客はカップルかグループばかりで、男1人というのはちょっと居心地が悪い。映画1本が270元というのは高いのか安いのか。台湾でも映画館の景気が悪いそうだ。台湾映画のDVDならそれほど高くないから、DVDを買って、あいは借りて家で見ようという判断は十分に理解できる。

○台湾映画は復活するのだろうか。このところ朗報が続いている。林靖傑(リン・ジンジエ)監督の『最遙遠的距離(THE MOST DISTANT COURSE)』が、ベネチア映画祭の批評家週間で最優秀作品賞に選ばれた。主演はこれも桂綸ビ。非コンペ部門だが、台湾映画では2回目という快挙だ。また、これはアメリカ映画なので台湾映画ではないものの、台湾出身の李安(アンリー)監督の『ラスト、コーション(色,戒)』が、ベネチア映画祭でグランプリを獲得した。さらに、台湾最大の企業である鴻海精密(HONHAI)の郭台銘・董事長(会長)が、香港の呉宇森(ジョン・ウー)監督と提携して『鄭和下西洋』『成吉思汗(ジンギスカン)』を制作するという。すでに台湾の枠を超えているが、こうしたことが台湾を中心とした映画産業が復活する兆しであればと願うものである。

○台風12号が台湾を掠めて通過した。18日は台湾北部が台風休みとなったが、台北市内に関しては休みとするほどの荒れ方ではなかった。外から吹き込んでくる風が、クーラーのようでほっとさせられた。台風が過ぎた後、再び暑くなったが、青空を見たら何となく雲が秋の気配を漂わせている。(早)



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