『台湾通信』編集後記

<2007年11月02日付>

○オフィスの窓の外から、ごま油の香りが漂ってきた。このにおい、台湾の冬の風物詩の1つである。どこかで「麻湯鶏」を作っているのだろう。鶏肉をごま油、ショウガ、そして「米酒」(料理用の蒸留酒の一種)で煮込んだ料理。これを食べると大変に温まるから、冬には人気だ。相変わらず不安定な天気だが、それでも涼しくなってくると温かい食べ物の季節である。特に鍋物が懐かしくなる。冬の間しか出さないという店も出てきている。

○台湾では、鍋物は北京風の【さんずいに刷】羊肉、四川風の麻辣火鍋などいろいろとあっておいしいが、台湾的な鍋物といえば「薑母鴨」が代表ではないだろうか。アヒル肉が主役で、こちらもショウガ、米酒、ごま油を使い、それに漢方薬剤を一緒に煮込む。そしてこれに野菜やアヒルの血を固めたもの、アヒルの内臓などを入れて、グツグツ煮ながら食べる。水を使わずに米酒のアルコールを飛ばしてスープにするので、酒に弱い人なら酔っ払ってしまう。ごま油と漢方薬が入っているので、香りが非常に強いのが人気だ。確かによく温まる食べ物である。冷え性の女性にはもってこいだという。漢方薬のにおいが強いので、日本人は好きな人と苦手な人に分かれるのではないだろうか。店によっても味は異なる。

○この食べ物、元から台湾にあったわけではないらしい。1980年代に流行したものだ。資料によると、台中県の人が中国に行った時、高齢の漢方医から、かつて皇帝が冬に食べた料理だということで、アヒルを煮るための漢方薬の秘伝の処方を教えてもらい、台湾に店を開いたのが始まりだとか。これが人気を集めて広まったという。これが本当かどうかは定かでないが、「薑母」というのは古い生姜のことを言う台湾語で、標準中国語(いわゆる北京語)ではない。この料理、その後、台湾人が中国に逆輸出したらしく、「台湾姜母鴨」という名前で人気があるのだとか。

○もう1つ台湾の冬の風物詩になっているのが、「羊肉爐」である。これも漢方薬系の強烈なにおいがするが、それで羊肉の臭みを消している。これも昔からあるものではなく、1970年代末から流行したものだそうだ。台湾の人たち、冬の食べ物はこうした「精が付く」ものがお好きである。台湾の夏は猛暑だから、熱いものにはあまり手が出ない。涼しくなって、楽しい季節がやってきた。

○宣伝するつもりはないが、台北駅の2階に某ショッピングモールがフードコートをプレオープンさせた。近くまで行ったのでちょっとのぞいてみた。驚いたのは、その明るさだ。普通のショッピングモールの明るさなのだが、薄暗い台北駅の1階から上って行くと、その違いが際立ってまぶしいほどだ。以前から感じていたのだが、なぜか台北駅は薄暗い。この暗さは、地方のひなびた駅ならそれなりの雰囲気をかもし出すかもしれないが、近代的であるはずの台北駅の暗さはあまり好ましいものではない。特に地下の改札口の前の待合室は、新聞も読めないくらいに暗い。これに対してその近くに今年初めに設けられた高速鉄道の切符売場は、まぶしいくらいにライトで照らされていて、他の場所から浮き上がっている。台湾鉄路は赤字だから、電気代を節約しているのだろうか。どうもこの暗さが台湾鉄路のイメージとして頭に焼き付いてしまっている。(早)



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