『台湾通信』編集後記

<2007年11月09日付>

○最近、急進独立派の人が「民進党にとってこれほど戦いやすい選挙はこれまでなかった」と言っているのを聞いた。どういうことかというと、総統選挙というものは国家アイデンティティーを問う場であって、国民党総統候補の馬英九氏はこの問題について永遠に明確な答えを出せないからだという。馬英九氏の場合、民進党に対抗して台湾アイデンティティーへの傾倒を進めながら、国民党の古くからの支持者もつなぎ留めるため「中華民国を守る」「終極的な中国統一」などと中国アイデンティティーの強い主張も行っている。このために、良くも悪くも国家アイデンティティーに関してはっきりとした説明ができないのは確かだ。急進独立派は最近、中国に対して融和的な民進党総統候補の謝長廷氏に対して批判的である。しかしやはり支持の対象は謝長廷氏であって、馬英九氏ではない。急進独立派の謝長廷氏批判は、自分たちの候補に対する意見表明ということのようだ。

○最近の台湾は、選挙の話になるとすべて国家アイデンティティーの問題になってしまう傾向がある。経済の問題にしてもそうだ。ある友人は、「市民は国家アイデンティティーにばかり興味があるわけではない」と疑問を示すが、かといって候補者が経済問題を論じてもあまりインパクトがない。最近、謝長廷氏が対中国経済規制の緩和を話題にしたら、陳水扁総統をはじめとする党内から強烈な反発を受けていた。中国の話が出てくると敏感になるのは、国家アイデンティティーとかかわるからだ。純粋な経済問題で語れないのが現在の台湾である。

○さて、民進党の「友党」といわれてきた台湾団結聯盟の内部で、対立が発生しているもようだ。同党の精神的指導者といわれる李登輝・前総統が第三勢力の結集を目指し、民進党と距離を保つようになったことと関係があるらしい。来年1月に行われる立法委員選挙は、初めて小選挙区制が採用され、定数が半減する。小政党は生き残りが難しい。政党としての生き残り、議員としての生き残りをかけて、それぞれの思惑が衝突しているのだろう。

○先日、日本のある雑誌の取材に付き合って、李登輝・前総統にお会いした。政治、経済、歴史ばかりでなく、哲学から映画の話まで、話題の広がりは尽きるところがない。取材が終わると、編集長はすっかり李登輝ファンになっていた。選挙についての私の質問には李登輝・前総統、今の段階では「あまり話したくないの だけれど」といいながら、それでも大きな方向についてだけは話してくれた。ただ、現在進行中の台湾団結聯盟や台湾政治に関する生々しい話はしてくれなかった。ところがこの取材の終了後に李登輝・前総統は、今度は独立派の重鎮を集めて会食を主催している。この席では、台湾の政治危機を解決するための最優先方法は、政局再編、「本土派(台湾派)」第三勢力の確立だと語っている。日本人に見せる顔と台湾人に見せる顔、相当に違ったものがある。日本人と台湾人の李登輝・前総統に対するイメージの違いの理由が少し分かったような気がした。それにしても長時間の取材のあと、さらに会合。そのバイタリティーには感心する。 ○ここのところ、台北はずっと雨である。窓の外はどんよりとした雲が垂れ込め、小雨交じり。11月のこの時期、例年ならもっと好天が続いていたような記憶があるのだが。この天気、まるで春節(旧正月)前後の感じだ。(早)



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