『台湾通信』編集後記

<2007年12月14日付>

○先週、あるセミナーに参加するため北海道を訪れる機会があった。台北からの直行便で新千歳空港に着くと、北海道への歓迎ポスターに書いてある文字が目に入った。台湾・香港で使われている「繁体字」と中国で使われている「簡体字」の二通りがあったのである。普通なら簡体字だけしか表示されないだろうから、北海道はなかなか気を遣っていると感心した。それもそのはず、台湾から新千歳への直行便はなかなか繁盛していて、席の予約を取るのも難しい。北海道の調査によると、昨年、北海道を訪れた外国人観光客は59万0650人。そのうち台湾は26万7900人で、全体の45.4%、半分近くを占めている。次いで韓国が13万3850人(22.7%)、香港8万6050人(14.6%)。台湾・香港を合わせると、6割である。地元の人も言っていたが、中国はまだ少なくて、統計を見ても1万7350人(2.9%)である。もちろん客商売なら繁体字でなければだめだ。特に台湾の人たちは、簡体字にはかなり抵抗感があるようで、お好きではない。

○北海道の観光地にはあちこちに中国語の表示が見掛けられる。商店にも中国語が書かれているが、繁体字が圧倒的に多いようだ。確かに滞在中、街中を歩いていても台湾人観光客と出会うことが多かった。台湾なまりの中国語か台湾語だから、すぐに判別できる。このほかに目立つのが香港人、韓国人。この辺りの人たちは、団体行動をすると非常にかしましいが、やかましさでは韓国、香港、台湾の順ではないかと感じた。香港人の広東語の甲高さには、台湾語のうるささもかすんでしまう。

○ところで「繁体字」と「簡体字」。繁体字というのは日本式に言えば「旧字体」であり、古くから使われている字体である。なぜ繁体字かというと、中国が共産党政権になって、簡体字というものを編み出したのでそれと区別する必要があるからだ。簡体字は、識字率が低いから漢字を簡単にして覚えやすくしようと言う発想。一部は書道で使われるような略字形にのっとったもので分かりやすいが、一部は全く人工的に作られていてこれは覚えないとだめだ。識字率の高かった台湾、香港はそんなものを使う必要はないから、昔のままの字体をずっと使っている。政治的に中国に対抗する意味があったのはもちろんだ。結局のところ、繁体字の方が正式の字体である。だから台湾では、繁体字は正式には「正体字」と呼ぶ。簡体字は異体字、つまり正式の漢字から変化したものと考えられるわけだ。

○ところが最近、台湾でも正体字という言葉が通じなくなっていて、繁体字の方が通用している。よく平気で中国の用語を使うものだと思うが、台湾では用語の上でも中国の影響が強くなっているのだ。しかし簡体字ができたから繁体字という言葉があるのであって、実際には繁体字の方が本来の漢字なのである。インターネットで調べていたら、国民党総統候補の馬英九氏が「繁体字は正式には正体字と呼ぶべきだ」と発言しているのが目に入った。統一派と呼ばれる馬英九氏だが、現在の中国の用語を使わないというのは、彼の「中国人アイデンティティー」というものが考えられているほど単純ではないことを示している。

○さて、北海道でのセミナーには中国、香港、シンガポールの人が参加していた。中国では「普通話」つまりいわゆる中国語が使われるが、香港の人たちも今では普通話がかなり上手になっている。シンガポールの人はどうだろうと恐る恐る話しかけると、「“華語”が使えるの」ということで会話が成り立つことになった。そうか、シンガポールは「華語」だった。台湾なら「国語」か「北京語」だ。中国、台湾、香港、シンガポールと、呼び方は違うがいずれも中国語が共通語である。ただ、やはり香港人とシンガポール人の中国語はなまりが強くて、聞いていて疲れる。

○台湾と北海道。気候の違いに適応するのは大変だ。台湾から北海道に行くと、寒いことが分かっているから防寒具を用意する。すると、外にいる分にはいいのだが、屋内に入ると汗が噴き出してくる。北海道の人たちは外もデパートの中も同じ格好で平然としているのが不思議である。寒いのか暑いのか分からなくて調整が難しいのだが、しかし数日するとこちらも要領が分かってくる。そうして慣れてきたところで台湾に戻ると、湿気の高さと気温の高さでもちろん防寒具など着ていられない。ところが防寒具を着ないと、湿気のために意外に底冷えしてくるのである。そうかと思うと、今週前半の台湾の陽気はすさまじかった。30度近くまで気温が上がってまるで夏である。頭がぼんやりして、思考が停まってしまうほど。そうこうするうち、きょうはまたかなり涼しくなった。北海道と違ってこの時期の台湾は気候の変化が激しいが、やはり少し寒い方が頭の調子には良いようだ。(早)



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