『台湾通信』編集後記

<2008年02月29日付>

○228事件を記念する和平記念日。台北市では民進党総統候補の謝長廷氏が大規模なデモと集会を開催した。1947年に発生したこの事件は、台湾市民と国民党政府軍が衝突したもの。死者の数は諸説あるが、2万人程度。戦後台湾の最大の政治事件である。この事件のため、戦後台湾には本省人の国民党および外省人に対する怨みが生じ、いまだに尾を引いている。そしてこの事件はこれまで各種の選挙の際に利用されてきた。当然、台湾生まれの民進党は攻撃側だ。事件の悪役である国民党は、防戦するしかない。しかし、それがいつも総統選挙の直前に当たっているから厄介だ。

○こうして今年もこの日に民進党が活動を行ったわけだが、総統選挙直前にしては関心度、注目度は低かった。思い出すのは4年前。陳水扁総統が再選に臨んだ時の2月28日だ。この年、民進党は「手をつないで台湾を守ろう活動」と題して、台湾の北から南まで人が手をつないで結ぼうというのである。主催者側の発表によると、参加したのは200万人という。この数字がどれだけ水増しされたものか分からないが、台湾の政治活動としては最大の規模となったのは間違いない。陳水扁総統も李登輝・前総統も参加して手をつないだ。

○この活動を総統前で見ていたが、時間が来て皆が一斉に手をつなぐ場面は、確かに壮観だった。台湾の戦後最大の悲劇である228事件を、未来に向かう希望に変えたこの活動は、アイディアとして非常に優れていたようだ。この勢いを駆って、陳水扁総統は総統選挙で過半数を獲得し、再選を果たした。その間、投票日直前の銃撃事件もあったが、初当選の時に比べて大きく票を伸ばした。台湾人アイデンティティーの勝利と位置付けられた。

○その4年前に比べて、今年は確かに異常な静けさである。今回の民進党主催のデモと集会にも、確かに大勢の人が参加したようだが、話題性は低かった。謝長廷氏の影が薄れるのを避けるため、陳水扁総統は目立たないように演説を避けた。李登輝・前総統は、いまだに誰を支持するのか表明していない。ちなみに4年前の選挙では、国民党は選挙7週間前の3月13日に「総統を交代させて台湾を救おう」をテーマとしてデモを行った。民進党の「手をつないで台湾を守ろう活動」に対抗する意味合いが強かったが、民進党に負けず劣らずこちらにも大勢の人が参加した。主催者側によると、320万人が参加したという。民進党、国民党のいずれも、前回の総統選挙ではこのように動員力を見せ付けた。これに対して今回の静けさは有権者の政治離れを示しているのだろうか。228事件の選挙への影響力が低下しているとすれば、台湾の政治は新たな段階に入ったことを意味する。従来の懐刀の効き目が薄れてきたのだとすれば、両候補はそうした新しい潮流に対応できる新たな手段や考え方を示す必要がある。ただし今のところ、従来からの繰り返しが目立つだけで、どちらからも新しいものが見えてこない。

○友人のカメラマンの話。彼のグループは政府関係の仕事を請け負うことが多く、政府側で企画がまとまると、発注先として指名を受けることが多い。最近、ある企画を受けないかとの話が来たが、結局は受けなかった。というのも、現在の民進党政権の考えに基づいた、台湾人意識の非常に強い写真集の仕事だったからだという。確かに仕事が入るのはありがたいが、受けてしまうと自分たちのチームは民進党派だというレッテルを張られることになる。そうするともし総統選挙で政権が国民党に変代した場合、次からは政府系の仕事が回って来なくなる恐れがある。しかし直接に断ると、民進党政権が続いた場合、仕事をもらえなくなる可能性がある。そこで、落札できないことが確実なくらい高い値段に見積もりを設定して提出した。結局、その仕事はもらえなかったが、これで一安心。だが、もし仕事が発注されていても、高い見積もりで出しているから彼らにとってはもうけものだ。総統選挙を前にして、こんな駆け引きが繰り広げられている。結局は何も決められず、政府の機能は多くが停止状態のようである。(早)



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