『台湾通信』編集後記

<2008年04月11日付>

○総統選挙から早くも3週間となる。国民党系のマスコミはいまだに大はしゃぎで、馬英九政権が発足したら、ばら色の世界が待っているかのような雰囲気を作り出そうとしている。この調子だと新政権とメディアとの蜜月期はしばらく続きそうだ。しかし陳水扁総統が2000年に当選した当時を思い起こすと、蜜月期は馬英九氏以上のものがあったかもしれない。国民党を倒した陳水扁氏に対して、国民党系のメディアまでもが大いに歓迎を示した。ところがそれが、半年も持たなかった。支持率が急落を始めるきっかけは、八掌渓事件という河川工事労働者の水死事件だった。マスコミのカメラの前で、救助関係者がなすすべもなく、4人が濁流に飲まれて流されていく場面が全国に流れた。地方のことだから直接の責任ではないのだが、メディアは待っていましたと言わんばかりに陳水扁政権を批判する。その後、第4原子力発電所の建設中止をめぐるごたごたで、政権担当能力が疑われることになる。

○今のところ、政権発足へ向けた馬英九氏の動きは順調に見える。馬英九氏の当選後、さっそく中国の胡錦涛・国家主席が、馬英九氏が以前から主張している「92年コンセンサス」に賛成する発言をした。「92年コンセンサス」というのは、1992年に両岸の窓口機関である台湾側・海峡交流基金会、中国側・海峡両岸関係協会が香港での会談で達成したとされる、「1つの中国」に関する合意だ。台湾の国民党と中国側は存在を主張しているが、陳水扁政権は存在しないと主張していた。別名は「1つの中国、各自解釈」。双方が「1つの中国」という考え方を認め、台湾側はそれを中華民国であると主張し、中国側はそれを中華人民共和国であると主張する。その違いに白黒をつけることはせず、棚上げしておいて実質的な交渉を進めるというわけだ。中国は「1つの中国」を認めない民進党の陳水扁政権との交渉を拒否しており、それが台湾の首を絞めることになっている。馬英九政権が発足すれば、「92年コンセンサス」を基に交渉が再開され、直行便も可能となるというのだから、経済界は大歓迎である。胡錦涛・主席の発言は、まさに中国から馬英九氏へ送られたエールである。経済界ももろ手を挙げての歓迎で、投資を増やすだのといった景気の良い話が相次いでいる。

○しかし事はそれほどうまくいくものか。台湾の韓国専門家の友人によると、先ごろ発足したばかりの韓国の李明博政権は、蜜月期はわずか1カ月で終わり、国民の不満が噴出しているという。彼の公約は、実現できないことが早々と判明した。この韓国専門家によると、韓国と台湾は似ているところがある。台湾の陳水扁総統と同じ時期に発足した盧武鉉政権は、いずれも改革派の政権である。しかしいずれも経済運営の失敗から国民に批判を受け、台湾では馬英九政権、韓国では李明博政権という保守派政権が復活した。韓国と台湾は、一方の動きによってもう一方の動きを占うことができる。李明博政権の蜜月期が1カ月だとすると、馬英九政権はどうなのだろう。民進党が行っている石油・電気の価格抑制が馬英九政権になって解禁された場合、庶民生活への影響は大きい。世界的な景気低迷もある。期待が大きいだけに、うまく運営できなかった場合の反動は大きいかもしれない。台湾がそうなってほしくないのはもちろんだ。

○新政権の行政院長(首相)が劉兆玄・元行政院副院長に決まった。この人は典型的なテクノクラート。閣僚候補に名前が挙がっている顔ぶれを見ると、「昔の名前で出ています」という人ばかり。以前の国民党政権を動かしていた人たちだ。かつての国民党は党と政府が一体化していて、政府の官僚の階段を上ってくると、行き着くところに閣僚などの政務官のポストが待っていて、政治家となる。このため国民党の政治家の多くにとって、官僚機構を動かすなどお手の物である。ただ、官僚色の強い顔ぶれである。考えてみると、馬英九・次期総統、蕭万長・次期副総統からして、元官僚である。民進党の弁護士主導とはかなり違っている。この政権のもう1つの特徴は、外省人色が強いところ。馬英九氏、劉兆玄氏はいずれも外省人。蕭万長氏は本省人だが、あくまでも「副」だ。何だか以前に戻った感じがする。つまり、蒋経国総統、李登輝副総統のコンビというパターンだ。また、定数半減で国民党が立法院を牛耳ったが、当選した国民党の立法委員に外省人がかなり目立つ。本省人の不満はかなり強いように見える。

○先日、友人の会社の食事会に参加させてもらった。その中に、以前から知り合いの民進党支持者が来ていた。彼はむしろ、台湾独立の支持者と言った方がいいかもしれない。選挙の感想を聞くと、さすがにがっかりした様子で「これからもう自分は台湾人じゃない」という。誰が選ばれても構わないが、責任は選んだ皆にある。だから自分はもう台湾人であるのがいやなのだという。ではどの国の人間になるのかと聞くと、シンガポール辺りかなという。シンガポールは独裁政権だから、政治のことを考えなくていいから楽なのだそうだ。今度の政権がうまくやれなかったら、また4年後に換えればいいじゃないかと彼を慰めるつもりで私が言うと、同じテーブルにいた馬英九氏の支持者から、「4年じゃ分からない。8年はやるよ」ときつく反論された。

○先週、東京に出張した。行きは日本アジア航空、帰りは日本航空ということで、ちょっと不思議な気分である。この3月一杯で日本アジア航空が親会社の日本航空に吸収され、これから台湾路線は日本航空が直接、乗り入れることになった。もともと中国が、台湾に飛ぶ航空会社は中国に乗り入れできないというので、別会社ならいいだろうと作られたのが日本アジア航空である。それが結局、台湾だけの特別扱いということになり、かえってメリットもあったようだ。今回、中国側が日本航空の台湾直接乗り入れを認めたというのは、中国による「1つの中国」の統一戦の一環であることは衆目の見るところ明らかだ。台湾側がよくそれを認めたものだが、中国側の戦略に気付いていないのか。ただ航空会社としては、子会社を持つことによる資源の重複を省略できて、経営的には効率化につながるのだろう。台湾への帰りの便で、まだ「JAA」のマークが入ったワインが配られていた。それを1本もらって帰り、台湾の航空ファンの友人にあげた。なくなる物を保存しておくのが、こうしたファンの性向らしい。「貴重なものだ」といって喜んでいた。そんな趣味もあるのなのだと感心した次第。ちなみに、日本アジア航空の機内誌の最終号がほしいという要望もあった。このところ、日本アジア航空関係の物がいろいろとネットオークションに出回っているそうだ。そのうちビジネスクラス用のスリッパが袋付きで150元だったとか。また、金城武が広告に出ていた時代の機内誌も人気だそうだ。(早)



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