『台湾通信』編集後記

<2008年05月02日付>

○頼幸媛氏の行政院大陸委員会主任委員への起用が大騒ぎとなっている。何せ、台湾独立派と位置付けられる台湾団結聯盟に所属している前立法委員である。2004年の立法委員選挙で比例代表制全国区の候補者名簿トップで当選している。台湾団結聯盟といえば、あの李登輝・前総統が創設した政党である。中国との和解を進める国民党の馬英九政権で、しかも対中国政策を担当する重要閣僚に独立派の起用というのだから、騒ぎになるのも当然である。民進党側は彼女の変節を皮肉るのが精一杯だが、批判はむしろ国民党党内や支持者からの方が激しい。馬英九氏の真意が分かりにくいし、誰のアイディアなのか今のところ明らかになっていない。批判は想定済みの人事だろうが、ただこの批判を突破できれば馬英九氏は今後、党内外とも怖いものなしである。

○総統選挙の最終局面で民進党総統候補の謝長廷氏を支持した李登輝・前総統。選挙が終わって馬英九氏との関係は悪くないようだ。これを変節と見る向きもあるようだが、以前、李登輝・前総統が馬英九氏について「未知数だ」という意味のことを言っていたのを思い出す。民進党の陳水扁総統については評価が低かったし、民進党の総統候補を争っていたいわゆる「四天王」については「どんぐりの背比べで経験がない」という程度の評価だった。これに対して当時、国民党主席に当選したばかりの馬英九氏に対しては、決して悪い印象を持ってはいないように感じた。独立派がさんざん謝長廷氏の支持を表明するよう求めても、李登輝・前総統は総統選挙で最後になるまで誰を支持するか表明しなかったが、このあたりにも原因があったのではないだろうか。この方も何を考えているのかよく分からない人だ。容易に見透かされないところ、政治家として懐が深いのだろう。

○このところの台湾でのキーワードは「92年コンセンサス(九二共識)」。こんな言葉、説明されなければ分かるものではない。簡単に言うと、1992年に両岸の窓口機関である台湾側・海峡交流基金会、中国側・海峡両岸関係協会が香港での会談で達成したとされる、「1つの中国」に関する合意である。台湾の国民党、中国側は存在を主張しているが、陳水扁政権は存在しないと主張しているし、当時、政権を担当していた李登輝・前総統もそんなものはないと表明したことがある。当時は「1つの中国、各自解釈(一個中国、各自表述)」と呼ばれていた。つまり、台湾と中国は「1つの中国」、つまり台湾も中国の一部であることを認めるが、その「1つの中国」が何であるのかについては、台湾側は「中華民国」であると考え、中国側は「中華人民共和国」であると考える。その間に決着はつけず、この問題を棚上げにしておいて実務的な問題について話し合おうという考え方である。裏を返せば「台湾独立」の否定を意味する。このために、台湾の主体性を強調する民進党の陳水扁政権には受け入れられないわけだ。

○中国人の世界ではこの種の言葉のゲームはよく見掛けられるが、外国人はこれで煙に巻かれてしまって、よく分からない。ただ、中国側もこれを認めているのだから、現時点で台湾と中国の話し合いを可能とするアイディアとしては優れているのだろう。当然、これによって台湾が中国に飲み込まれる時期が近づいたと心配する人がいるのも無理はない。ところで、日本のメディアでは「台湾」「中国」と分けて書いている。李登輝・前総統も「二国論」(台湾と中国は特殊に国と国の関係)と主張し、陳水扁総統も「1辺1国」(台湾と中国はそれぞれ1つの国)と主張していたから、これで良かった。しかし「1つの中国、各自解釈」となれば、台湾も中国なのだから、台湾と中国を対照させて書くことができなくなる。日本でいう「中台関係」は台湾で「両岸関係」だからまだいいが、中国について独立系メディアは「中国」、統一系メディアは「大陸」と書く。中国の新聞では「台湾(中国)」で、「香港(中国)」と同様の扱い。もともと「台湾」は国名ではない。いったい、これからどう書くべきなのか迷うところだ。

○台湾は梅雨入りである。台湾は日本のような梅雨入り、梅雨明けの宣言はない。毎年5月1日からが梅雨の季節とされている。実際には5月中旬ごろに最初の梅雨前線がやって来るのが通常だが、今年は例年より早く4月30日に最初の梅雨前線がやって来た。かなり強い雨が降ったが、きのう、きょう(1、2日)はかなり蒸し暑くなっている。(早)



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