『台湾通信』編集後記

<2008年06月06日付>

○このところ「92年コンセンサス」という言葉が盛んに登場するが、それが現在の台湾と中国との関係の基調になっている。この言葉、うまくできている。もともとは「1つの中国、各自解釈」と呼ばれていたもので、台湾と中国(大陸)はいずれも「1つの中国」に所属しており、ただし台湾側はそれを中華民国、中国側は中華人民共和国と解釈し、そこに白黒を付けないで棚上げしておき、実務的な問題を話し合おうという考え方だ。1992年に両岸の窓口機関である台湾側・海峡交流基金会、中国側・海峡両岸関係協会が香港での会談で達成したとされる。台湾の国民党、そして中国側はその存在を主張しているが、陳水扁政権や当時の総統だった李登輝氏は存在しないと主張している。「92年コンセンサス」という言葉自体はもともとあったわけではなく、民進党が政権を獲得した後、現在の蘇起・国家安全会議秘書長が発案したものである。

○「1つの中国」というと、台湾では必ず一部から反発が起こる。しかし「92年コンセンサス」にすると、「1つの中国」が隠れてしまう。なかなかうまい仕掛けである。しかし内実は「1つの中国」である。だとすると、中華人民共和国を外国と考えてはいけない。日本では「台湾」と「中国」と区別するが、これが通用しなくなる。何せ両方とも中国という国の一部なのである。台湾は主権独立国家だと強調する民進党政権の時代であれば、陳水扁・前総統が「1辺1国」(それぞれ1つの国)と主張していたわけだから、台湾と中国で対比できた。しかしこれからはそうはいかない。それぞれが「1つの中国」に包括されるのであれば、「台湾」「(中国)大陸」と地区名で対比させるのが最も適切であり、かつての国民党やあちらの中国ではそのように使っている。

○これからは「台湾」「中国」と並列できなくなる。と思っていたら、現在、台湾ではこの表現について、政府やメディアも使う用語が混乱しているようだ。馬英九総統の発言ですら、あちらの中国を指すのにまだ「大陸」と「中国」が混在している。外交部が、馬英九政権が「92年コンセンサス」を基調にしているからと、在外公館の公文書に外国貴賓の訪問について「訪台」(台湾訪問)という言葉を使わず「訪華」(中華民国訪問)に改め、さらに台湾海峡両岸が「1辺1国」という印象を持たれるため、「中華人民共和国」という用語の使用をやめて「中国大陸」または「大陸」の呼称を使用するよう通達した。これが、「脱台湾化」と批判されて撤回する騒ぎがあった。用語が混乱しているというより、台湾社会の中にやはり「中国」に対する取り扱いについて異なった主張があることを物語っている。当面は「中国」「中国大陸」「大陸」を適宜に使い分けるしかないようだ。

○もう1つ。最近、国民党の首脳部が相次いで中国を訪問している。最近も呉伯雄・主席が中国を訪問して胡錦涛・国家主席と会見していた。ちょうど中国歴史の本を読んでいたところなので、かつての朝貢外交を思い起こさせた。ところで国民党の正式名称は「中国国民党」であるそれと中国共産党が会見するわけだ。名前だけ見ていると、台湾と中国の代表の会見だとは分からない。「台湾にある中国国民党」と説明されないと、まるで中国の政党同士の会見である。もっとも国民党が台湾に撤退する前は確かに中国の政党同士だったわけだから、それが事の本質なのかもしれない。(早)



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