『台湾通信』編集後記

<2008年07月25日付>

○初めて週末両岸直行チャーター便に乗って1年ぶりに上海に行った。7月4日に始まったこの直行便、最初は席が取れなかったので、上海での訪問先の都合に合わせて3週目に入ったところで乗ってみたが、満席だった。乗ったのは台湾側の中華航空の台湾桃園国際空港午前7時30分発の便で、最初は上海方向とは逆の南西に向けて飛び、香港航空管制区の上空をかすめて今度は大陸の海岸沿いに北上し、2時間40分で上海に到着した。香港経由であれば乗り換えの待ち時間を入れて6時間はかかるので、丸1日つぶれてしまう。この早い時間の直行便だと到着が10時10分だから、上海浦東空港から上海市内の1時間を考えても、午後の時間が丸々使える。確かに便利である。もし迂回(うかい)なしの直線飛行が可能になれば1時間ちょっとで到着するだから、もっと便利になる。上海との心理的な距離はぐっと縮まる。

○この便は満席だった。乗客のほとんどが台湾人の観光客のようで、たまにビジネスマン風の人がいる程度だ。機内サービスでずっと中国語で話し掛けていたスチュワーデスさんが、私たちの席まで来ると、突然、日本語で話してきた。どうして日本人だと分かったのか聞いてみると、私の胸のポケットに入れていた赤い日本のパスポートを見掛けたからだという。ボーイング747を使ったこの便に外国人は私と同行者の計2人だけだったようだ。いまどき台湾と中国との間を頻繁に往来している日本人ビジネスマンは多いだろうが、直行便はまだ利用する人が少ないのだろうか。乗っているのは台湾人がほとんどで、中国人はほとんどいないとの話だった。中国からの台湾観光は解禁されたといっても、実際に来ているのはまだ1回1000人ほどにすぎないから、当然だろう。上海に着いてから、上海に住んでいる台湾人の友人に聞いてみると、この人も近く、直行便で台湾に帰るのだという。台湾人は直行便を利用する際、まず台湾の航空会社を選びたがるのだという。

○この便利な直行便だが、始まったばかりでまだうまく機能しているとはいえないようだ。予約を依頼した旅行代理店も、よく事情が理解できていなかった。結局、いろいろと調べてもらった結果、金曜日の出発便で火曜日に台湾に戻ることになった。ところが火曜日は直行便が飛んでいない。週末直行便は金曜から翌週月曜の運行のはずだ。しかし代理店は直行便で往復だという。そんなことはないはずだと確かめてもらったら、やはり香港経由だった。行きと帰りが違うコースという、変則的なルートになってしまった。

○帰りは香港まで中国東方航空だったのだが、出発が1時間遅れて、危うく乗り継ぎが間に合わないところだった。そのせいで、香港の出発も遅れた。直行便がいかに楽であるかを感じることになった。ただ、このコースもなかなか面白い。上海からの中国の航空会社の便は、機内が騒然としている。周囲の席の観光客は頻繁に席を入れ替わる。飛行機が初めてという人も多かったらしく、客室乗務員を呼ぶボタンを用事もないのにあちこちで押している。スチュワーデスの動作も荒っぽい。ただ、乗り換えの時間を心配していたら、すぐに降りられるようにと席を前の方に移動させてくれたから、取りあえず親切だった。一方、香港で乗り換えた台湾の航空会社の便は、さすがに落ち着いている。男性の乗務員の優雅な身のこなしに感心してしまった。中国から台湾に帰る時はいつもそうだが、台湾の飛行機に乗り換えた時の機内のしっとりとした雰囲気はホッとさせられる。

○空港の違いも面白い。上海浦東空港はさすがに大きくて、新しい第2ターミナルもオープンして壮観である。ただし、どことなく粗雑で、売店で売っている物は国際色がなく、いわば巨大なローカル空港である。乗り換えの香港空港はさすがに国際ハブである。規模の大きさ、近代的な施設もそうだが、売店で売られている国際ブランドは壮観だ。ただ面白いことに、それほどの空港なのに搭乗口の前にできた列は、なぜか真っすぐではなく、奇妙に蛇行している。このちぐはぐさが香港らしい。そして台湾桃園空港は静かで、売店は国際的だが何せ全体の規模が小さい。寂れた感じともいえなくはないが、機内と同様にしっとりしている。飛行機も空港も、風土の違いが鮮明である。

○以上、どうしても台湾の肩を持ってしまうことになるが、台湾に住んでいるからえこひいきしているというわけでもない。中国と比較してみて、台湾がいかに落ち着いた社会であるかということは、あちこちから見て取れる。それにしても上海の水のひどさは相変わらずだ。上海で会った台湾人と一緒に食事をしていて、出された水を一口飲んで、「これはだめ」と言って有料のお茶を頼んだ。長く上海に住んでいる人たちだが、やはり水はだめのようだ。台湾に戻ると、台北の水道水が甘く感じられた。

○ところで帰りの飛行機で中国の新聞を眺めていると、陳水扁・前総統がけられたニュースが乗っていた。中国にとって、陳水扁・前総統はやはり嫌悪の対象であるらしく、記事の中に「ざまを見ろ」という雰囲気が伝わってくるので、気になった。陳水扁・前総統は21日、被告として出廷する途中、抗議の市民に後ろからけられたという。犯人は統一派の愛国同心会のメンバーを自称するベトナム生まれの65歳の男で、6月18日に当時の許世楷・駐日代表を突き飛ばしたのと同じ人物だった。思想的な背景による犯行のようだ。陳水扁・前総統は、ラファイエット事件という軍の疑惑に関して、軍関係者によるバックマージンの受け取りを示唆したことで、名誉棄損で訴えられており、今回は被告として出廷したものだ。

○この事件で思い出すのは、李登輝・元総統。李登輝・元総統も2000年の退任7日後、ある運動会に出席したところ、70歳の退役軍人の男に赤インクを掛けられたことがある。今回の事件もそうだが、台湾独立に反感を持つ人たちが起こしたものだ。馬英九総統も市長時代には卵を投げられたり、つばをはき掛けられたりしたことがある。こうした目に遭うのは、政治家の宿命なのだろう。彼らがいかにこの社会に対立をもたらしているかがわかる。ただ、今のところけとばされたりインクを掛けられたりするくらいで済んでいるのは、台湾がまだ平和だということだろうか。(早)



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