『台湾通信』編集後記

<2008年09月26日付>

○「馬英九総統が4年持つとは思えない」という話になった。こう語るのは本省人(戦前からの台湾住民とその子孫)の企業経営者で、馬英九総統には投票しないタイプの人である。ただし、政治意識はそれほど強くない。その人がこんなことを言い出した。彼によると、台湾人は我慢してじっと観察している。しかし台湾人は突っ走るところがあるので、どうしてもだめだとなれば、馬英九総統を引きずり下ろすだろう。4年の任期は関係がない。取りあえず倒してから、後のことを考える。

○就任以来、馬英九総統への支持率は急落している。彼は馬英九総統の欠点として、「反応が鈍い」ことを挙げる。景気が低迷して庶民が苦しんでいるのに、馬英九総統の発言からは、馬総統がそれを切実に感じているとは受け取れない。苦しい中で庶民に希望を与えることもできない。エリート意識を持っていて、自分は高い所に立って見下ろしているような感じがする。景気が悪いのは世界的なことだと誰でも分かっている。しかし馬英九総統は、「世界も悪いのだから、台湾も悪いのは仕方がない」と、自分の責任ではないという言い方をする。

○馬英九総統は選挙前、地方を歩き回り、「ホームステイ」などといって地元の人の家を泊まり歩いた。選挙ではこれが奏功した。以前の国民党候補だった連戦氏がどうしても総統に当選できなかったのは、彼が地方に入らなかったことだ。馬英九総統は地方に入って自分は皆の仲間だというイメージを広めて当選した。ところが、当選したら地方には行かない。これでは信用をなくす。しかも、台風の水害で水死する人がいるというのに、自分は水泳に行っている。そんな無神経さがある。中国の毒ミルク事件でも、政府の対応のまずさに責任を取らない。

○彼によると、「台湾人は謝れば許してくれる」のだという。少しうまくいかなくても、申し訳ないという気持ちが伝われば台湾人は受け入れる。しかしそうでなければ我慢しない。馬英九総統に謝る気持ちがないところが、彼には我慢ならないのである。

○「台湾人は謝れば許してくれる」については、例えば時間厳守。彼の説明では、台湾は日本ほど進んでいないため、約束時間や納期などでいろいろな条件があって守れないことがよくある。台湾人は互いにそれが分かっているから、相手が一言謝れば受け入れる。この点の意識は時間に厳しい日本人とは違うところ。しかし台湾人でも、相手に謝る気がなければ、二度とチャンスは与えない。彼のこのような説明、あるいは台湾人と付き合う日本人にとって参考になるかもしれない。

○さて馬英九政権。発足当時、馬英九総統、蕭万長副総統、劉兆玄・行政院長を合わせて「九万兆」とおめでたいニックネームが付いていた。このように馬英九総統が当選して就任までは、国民党寄りの統一派のメディアは大喜びだったはずだ。ところがここに来て、馬英九政権に対する論調がますます厳しくなっている。昨日の新聞で、行政院衛生署長の辞任を報じるタイトルに「九流内閣」という表現が使われていた。「九」は馬英九総統、「流」は劉兆玄・院長の「劉」と同じ発音。駄じゃれ好きの台湾の新聞ならではのタイトルだが、二流、三流より悪いというわけだ。これがある代表的な統一派メディアの記事なのだから驚く。でも、この程度の駄じゃれなら、座布団は上げられない。やはり駄じゃれを使うなら、思わず噴き出してしまうような楽しいのがほしいものだ。

○中国の毒粉ミルク事件。日本では事故米の方が問題になっているようだが、台湾では大騒動である。そんなものを食べさせられた消費者も迷惑だが、販売ができなくなったメーカーや商店への打撃も大きい。そんな折り、ある日本人が台湾グルメの取材でパン屋を訪れた。この店に非常に人気の高いパンがあるのだ。それを食してから店の人に「これは何で作っているのですか」と質問したところ、店の人が焦り始めた。「うちが使っている粉ミルクはニュージーランドから仕入れたもので…」と必死で説明する。日本人は別にそんなことを聞こうと思ったわけではなく、味の秘けつを聞きたかったのだが、時期が悪かったようだ。

○うちのスタッフがスーパーに行ったら、事件の影響で確かに陳列棚から消えている商品があった。ところがそれは、新聞で安全が確認されたと報道されていたものである。政府の基準がいろいろ変わるし、分かりにくいせいもあろうが、現場はかなり混乱しているようだ。(早)



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