『台湾通信』編集後記

<2008年10月31日付>

○10月25日の民進党のデモは、なかなかの見ものだった。参加者の多さは一目で分かったが、台湾各地から1000台が動員されたという観光バスの列も圧巻だった。民進党が政権を失ってから、8月30日にも民進党を含めた独立派団体が主催した反馬英九政権のデモ・集会が台北市で行われ、主催者側発表で30万人(警察発表5万人)が集まったが、確かに参加者は少なくなかったものの、デモ行進している人たちはさすがに元気がなかった。宣伝カーから「もっと大きな声を出して」という掛け声がかかるほどだった。しかし今回は主催者発表60万人(警察20万人)という人数もさることながら、デモの密度が高く、気勢が上がっていた。台湾の政治情勢が大きく変わっていることが分かる。

○午後2時集合、3時出発ということで、5つのコースに分かれて総統府前の凱達格蘭大道(ケタガラン通り)を目指した。たまたま2時過ぎに出発点の1つである中山サッカー場を通りかかったが、捷運(MRT)の円山駅は人であふれていて、旗を配るなどして出発準備に急がしい。出発時間前だというのにもう歩き出すグループがあった。用事を済ませて4時過ぎになって総統府前に行ってみようと、中山北路を走るバスに乗ったところ、民生東・西路との交差点でデモのため通行止めとなっている。台北駅に行くはずのバスはそこで一部の人を降ろして右折したのだが、運転手は盛んに携帯で話をしている。通行できる道を確認しているのだが、重慶南路に回ろうにもそこも通行止め。乗客からどう走るのか質問されると、「私にも分からないよ」と苦笑い。乗客からの「台北駅の近くの行ける所まで行って、降ろしてくれ」という要望で、結局、台北駅の手前で乗客は皆降りて歩くことになったのである。

○デモがあるのは分かっているのに、バスの路線変更も事前に連絡が徹底されていないのはご愛嬌である。ただ、土曜日ということもあって急ぐ必要もないせいか、少なくともこのバスの乗客で怒っている人はいなかったようだ。おかげでウォーキングがやや長くできることになった。そこで台北駅から中山北路に向かおうとすると、なかなかにぎやかな声が伝わってくる。中山南路はすでに人で一杯になっている。民進党のデモで参加者が楽しそうなのはいつものことである。歩いている人たちが民進党の政治家ののぼりや旗を持っているので、まるで選挙運動のようでもある。そうした中でも共通したテーマは「台湾は中国ではない」というものだった。反馬英九総統デモだから馬英九総統への批判も当然のことだがあちこちで見掛けられた。ただ、それよりもむしろ「反中国」色が強いことが感じられた。それが、中国との接近を強める馬英九政権への不満につながっている。

○台湾での景気低迷によって、馬英九政権に対する不満が急速に高まっている。馬英九政権が進める対中国融和政策、そのこれまでの成果である直行チャーター便、中国人観光客受け入れも、景気浮揚効果をもたらしていない。しかもメラミンが混入した中国製粉ミルクの事件は、業者に大きな打撃を与え、消費者に大きな不安を与えた。それに対する馬英九政権の対応はもたつき、政府への不信をますます高めた。こうした中でデモを行うことは、政権を失って意気消沈している民進党としてはまたとないタイミングである。このデモを観察していると、馬英九政権の中国寄り政策に対して、民進党支持者の間でいかに不満が蓄積していたのかが分かる。政権交代で低迷しているかと思われた台湾人アイデンティティーだが、いやいや健在である。

○このデモ。例によって総統府前の凱達格蘭大道を封鎖して集会会場にするものだった。どうせ人が多いだろうからと、凱達格蘭大道の端にある景福門(東門)の横を抜けて、ステージを遠くから眺めてすぐに立ち去ろうと思っていたのだが、景福門に近付くと人がぎっしりで、なかなか前に進めない。逆から進んでくる人もいるので、ぎゅうぎゅうである。とにかく、5つのコースからどんどん人が集まってくるのに、人の動きを誰も整理しないから入って来る人と出て行こうとする人が交差する。また、凱達格蘭大道のステージから景福門にかけては狭いので、余計に人の動きがよどんでしまうのである。この群衆の中に入ってしまうと、前に進むのも大変だし、後退することもできない。何とか前の人に付いて少しずつ進んでようやく抜け出せたのだが、高齢者が多い上に小さな子供連れもいるので危なっかしい。将棋倒しでも起きたら大変である。

○このデモ、統一派メディアは陳水扁・前総統の参加に焦点を当てていた。金銭スキャンダルにまみれた陳水扁・前総統を全面に押し出すことで、デモ全体を暗いイメージで包むことができるからだろう。陳水扁・前総統は参加したし、支持者の絶大な歓迎を受けたが、演説などは行わなかった。そのため、やはり主役は蔡英文・民進党主席だった。蔡英文・主席は陳水扁・前総統の切り離しにはまだ乗り出していない。デモで大歓迎を受けただけでなく、陳水扁キャラクターの入ったのぼりなどを持って行進している人も少なくなかった。これだけの支持者がいれば、切り離しは簡単ではないだろう。ただ、民進党支持者の間には、蔡英文・主席が切り離しの時期を図っているとみる人もいる。逮捕後、または一審有罪判決後がそのタイミングではないかというのである。確かに急いで切り離しを行う必要もないかもしれない。次の選挙までにまだ間はあるのだ。 ○もう11月にもなろうというのに、暑い日が続いている。天気予報ではきょう(31日)に天気が変わるといっているが、少しは過ごしやすくなるだろうか。(早)



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