『台湾通信』編集後記

<2008年12月12日付>

○台湾の最高の映画賞である金馬賞。今年も12月6日に授賞式が行われたが、あっと驚く結果だった。台湾で今年、大人気を博し、5億元近くという台湾映画の興行成績として過去最高を打ち立てた『海角七号』がグランプリも最優秀監督賞も逃したのである。翌朝の新聞などの報道は、やはり違和感のあるものだった。というのも、話題はやはり『海角七号』のことばかり。しかしグランプリを逃したものだから、『海角七号』が獲得した賞の数が今年の参加映画で最多の6つということばかり大きく報道していたのである。失望感が漂うが、審査の結果に文句を言うこともできず、賞の数が多いということで無理に自己満足させているようだった。実は『海角七号』が獲得した賞は、それほど重要な賞とはいえない。

○『海角七号』が獲得した賞のうち、最もそれらしいのは最優秀助演男優賞の馬如龍だけである。最優秀原作映画音楽賞(呂聖斐、駱集益)、最優秀原作映画歌曲賞(「國境之南」詞:厳云農、曲:曾志豪、歌:范逸臣)は音楽関係だから、映画そのものの評価ではない。年間台湾傑出映画賞と年間台湾傑出映画人賞(魏コ聖・監督)は、おまけのようなもの。観客投票最優秀映画賞をもらったが、これはいわば残念賞である。こんな6つの賞で、ファンが満足しているとは思えない。実は『海角七号』が落選して香港・中国勢が賞を独占するという結果、授賞式の前に編集部で冗談半分に話していたのだが、残念ながらその予想が当たった形となった。審査員が本当にそこまでやるとは思わなかった。『海角七号』に賞をやりたくないという強い意志が働いていることは間違いない。グランプリに選ばれなかった理由として、「おばあさんが手紙を読むシーンでライトが不適切で暗かった」とかいう技術的な問題や、「主役の日本人女性の性格が強すぎるが、日本人女性はもっと優しいはずだ」という間違いなく勘違いとも思える問題点が挙がっていた。しかし、この映画が台湾にもたらした社会的影響については全く評価されなかったわけである。

○グランプリは香港・中国合作映画の『投名状』、最優秀監督賞も同映画の陳可辛。そして最優秀男優賞は中国の俳優で『集結號』の張涵予、最優秀主演女優賞は香港の俳優で『我不賣身.我賣子宮』の劉美君。ということで、この4つの大きな賞に台湾映画はすべて外れたのである。今年は『海角七号』のほかにも台湾映画が大いに話題を呼び、売上げも好調だったのに、ほとんど評価されなかった。せっかくの盛り上がりに冷水を浴びせるような結果である。確かに技術や芸術性という映画そのものの価値については課題があるのだろうが、台湾の映画界のゆがみが現れた結果としか言いようがない。ファンはどう感じているのか気になったが、『自由時報』の投書欄に「もとも審査員が間違っていないのなら、台湾の観客はあまりに見る目がないということになる」との意見が載っていた。

○もう1つの意見は、「人民解放軍が金馬賞に集まった」と指摘するもの。主要な賞の受賞者が香港・中国ばかりとなると、どこかに政治的な意図が働いたと勘繰りたくもなる。しかも、台湾を訪問して大騒動を引き起こした中国側の対台湾窓口団体「海峡両岸関係協会」の陳雲林・会長が、この映画の中国での劇場公開を、「皇民化(日本植民地時代の日本への同化政策)の影響が深い」という理由で延期させたばかりであることからも、余計に審査の基準に疑いが持たれることになる。どうも、「台湾」というものがこの映画賞ではタブーになっているかのようだ。華語映画の賞としての権威を目指すのは良いことだが、これでは何のための賞なのか分からない。台湾の中でも金馬賞の映画賞としての評価が低いのは、観客の嗜好と審査結果がかけ離れていることと関係があるだろう。

○台湾映画であることが評価されないというケースは、昨年、アイドルの周杰倫(ジェイ・チョウ)が監督・主演し、5000万元というこれも台湾映画として画期的な興行成績を上げた『不能説的秘密』が、主要な賞にノミネートもされなかったことが挙げられる。この金馬賞は、もともとかつての戒厳令時代の国民党政権時代の思想教育の一環として設けられたもので、国策が反映されたものだった。必ず政府から行政院新聞局長が出席するが、それは今年も同じだった。政府が補助金を出しているからだ。しかも近年の受賞作は香港作品ばかりだから、私もこの賞を見る気もしなかった。ことしもやはり同じことが繰り返された。もっと台湾映画を激励するような映画賞が別に創設されることを、台湾映画のファンとしては切に願うものである。

○ここのところ、暖かい日が続いている。朝などはオフィスに日差しが差し込んできて、カーテンを閉めないと日光浴をしているようで肌が痛いほどだ。朝晩は冷え込むので着るものが難しいが、台湾では珍しくすがすがしい気候である。それもきょう(12日)までという予報が出ていた。(早)



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