「故郷を離るる歌」
タタン、タタン、タタン、タタン…。
もう何度目になるのだろうか、こうして週末になると列車に飛び乗るのは。
そして列車に乗るたび、どうしても考えてしまう。
自分の好きな道に行くこと。愛しい人と離れること。悩みに悩んで、親しい友人を巻き込んで大騒ぎしたこともあったっけ…。
結局あいつは俺のわがままを許してくれた。
どんな気持ちだったのだろう…。
まさか逆の立場に立つ時が来るなんて。
先週のことだ。あいつは別れ際、不意にこう言ったんだ。
「留学の話が出ているの。とってもいい話なんだけど、迷ってるんだ…。」
あいつが自慢のフルートでコンクールに入賞した時、自分のことのように嬉しかった。
あいつも自分の夢に向かって進んでいる。そしてその努力は実を結びつつあるのだ、と。
留学の話も当然出てくると予想できたし、悪い話である訳もない。ただ…。
「そりゃ、おまえのわがままってもんだぜ、イチノ!確かに離れているとはいえ、今までは1週間に1度はお互い行き来して会ってきた。もし理美ちゃんが向こうに行っちまったら、そうはいかないだろうさ。だがな、そんなことでおまえらダメになっちまうのか?そんな弱い結びつきじゃないだろう?そうじゃなきゃいけねぇや。前にも言ったかも知れんが、俺を失望させんなよ!」
親友の言葉が痛い。
たとえ1週間に1度でも直接会うことは自分にとって安心できることで、その安心に慣れてしまっていたのかも知れない。
簡単には会えなくなるって事がこんなにも不安なことなんだって、改めて感じ始めていた。かといって、あいつの夢を邪魔する権利など俺にはないのだろう…。
「まもなく、小諸に到着いたします。お降りのお客様はお忘れ物などございませんよう…」
お、どうやら着くようだ。いろいろ悩んだが、心は決まった。
「小諸と長野、長野とウイーン。距離は違っても、離れているという事実では同じなんだ、理論的にはね。
大丈 夫、今まで通りだよ。だから気にせず行ってこいよ。」
精一杯強がって、そう告げた。
「理論的にはってのが、いかにもイチノ君らしいよね。ありがとう。頑張ってくるね。」
少し瞳は潤んでいたが、さっぱりした笑顔を見せてこう言ったあいつ。
自分の判断が間違っていなかったことに俺自身もほっとした。
「さ、そうと決まれば妖精館で壮行会だ。いきなりだけど、みんな呼び出して騒ごうぜ。理美の前途を皆にも祝ってもらわなくっちゃな!!」
俺は理美の手を取り、妖精館へと向かった。
−終わり−
はい。これが私の小山田作品SS、というかSSの第1作になります。書いたのはもう何年も前ですので、改めてみるとちょいと恥ずかしい
ものがありますね。こんなものでも「よかった」(社交辞令とは思いますが)と言って下さった方がいらっしゃいまして、のんびりとではありますが、SSを書き連ねていくことになります。
■雑文庫Topにもどる