〜300系の頃〜

土曜日の早朝。いまだ眠りの中にいるような気だるい雰囲気の中、
東京駅新幹線ホームで相棒を待っていた。
昨今新幹線通勤などというものが一般化し、特別感は往時よりも無いものの、
このホームには、遠くの土地へ出かけるのだという華やいだ雰囲気が漂っている気がして、
なんとなく自分も浮かれた気分になってくる。

今日はこれから大阪まで行くのだけれど、きっとあいつはいつもの通り、
発車ぎりぎりに,、慌ててやってくるんだろうなぁ。
息弾ませて階段を駆け上がってくる姿を想像して、ふと顔が緩む。


そういえば相棒との付き合いも、ずいぶんと長くなったものだと思う。
ひょんなことから知り合い、あっという間に自分の周りに溶け込んでいったあいつ。
持ち前の明るさと押しの強さに振り回されながらも、コンビを組んで
いろいろなところへ仕事に出かけた。
いろんな列車に乗り、車窓を楽しみ、その土地のものを味わった。
遠くまで出かけるときには泊まりで行ったり、夜行列車なんかも利用したりしたものだ。
時間は掛かったけれども、それなりに旅情も味わえて楽しいものだった様に思える。


ただ、それも今は昔の話になってしまった。今、目の前に止まっている300系新幹線。
こいつは東海道新幹線で初めて時速270kmで営業運転をするために生まれ、
到達時間を短くすることに貢献しやがった。
しかも、こいつが上手くいったおかげで後から高性能な派生機種も生まれる事になり、
新幹線網はあっという間に広がっちまった。
おかげで今や取材のほとんどが日帰り。あいつと一緒に楽しむ暇もありゃしない。

「お前さえ出てこなければ・・・。」

なんて八つ当たりをするのも変な話だが、きついバイトの中での楽しみの時間を奪われてるんだし
恨み言の一つでも聞いてくれてもいいだろう?

「お前が生まれた頃。まだ、鉄道は面白かったよ。夜行列車もいっぱいあったし、
ローカル線にも駅員がちゃんといた。改札口に駅員が立ち、きちんと旅立つ俺たちを見送ってくれ、
そして迎えてくれたさ。
今のような輸送のための鉄の箱ではなく、人と人とがきちんと繋がるものだった気がするよ。
おまえ自身だってそうじゃないのかい?期待を一身に集め、第一線で活躍できたのはどれくらいだった?
『のぞみ』として生まれながらに、たった7年でその役を降ろされちまった。
大きな眺望のよい窓も2階席も無く、食堂車やビュッフェすらも無い。ただ、スピードと輸送力のみを
追求した結果がこれさ。
もし、お前がこんな車両じゃなかったら、あの時代から鉄道旅行はどう変わって行ったんだろうね。」

他愛も無いことを考えているうちに、そろそろ出発の時間が来たようだ・・・。
向こうから大慌てで走ってくる相棒が僕の名を呼んでいる。

「興生ちゃーん!」

「おいおい。もうお互いいい年なんだから、ちゃん付けで呼ぶなよな、環。」

「いいじゃない。もうずっとそう呼んできたんだし。それにしてもあせったー。
間に合わないかと思っちゃったもの。大体なんで大阪まで行くのに『ひかり』なわけ?
『のぞみ』でいけば、もうちょっとゆっくり出発できたんじゃない?」

「いいんだ。ちょっと思うところがあって、久しぶりにこいつに乗ってみたかったんだ。」

「変なの。ま、別にいいけどさ。急いで来たからお腹すいちゃった。なんか買ってくるねー。」

「もう出発まで、あんまり時間が無いんだからな。早くしろよ。」

相変わらず色気より食い気な相棒に多少あきれつつ、車内に入る。
土曜日だけあって、普段とは違い行楽客の姿が多いのか、普段は冷たい感じのする車内がなんとなくほほえましい。
あちこちで席を向かい合わせにし、手製の弁当や駅弁、お菓子、ジュース等が並ぶ光景が見られ、
歓談の声も聞こえている。

「こういうのだって、悪く無いだろう?」

答えるはずも無い車輌に向かい、つぶやいてみた。

「なにやってんの?いい大人が小声でぼそぼそ言ってたら、危ない人みたいだよ。」

両手に弁当やらなにやらいっぱい抱えた相棒が目の前に立っていた。

「うわっ。いつ戻ってきたんだよ。ビックリするじゃないか。」

「だって、急げって言ったの興生ちゃんじゃない。とにかく、道中長いんだからいろいろ買ってきたんだよね。
はい、これは興生ちゃんの分ね。」

この食い物の量と相棒のおしゃべりと。きっと今日の道中、退屈することは無いだろう。
とにかく大阪までの道のり、よろしく頼むぜ。
決してのんびり、ゆっくりとはいえないだろうけど、点から点への移動ではない
鉄道の楽しみを思い出させてくれよ。
お前が創ってしまった、今の味気ない旅をおまえ自身の手で創り直していっておくれ。
まだまだ引退するには若すぎる歳だろうからさ。


                                       〜おわり〜


おやまだ・しんどろ〜むの鷹取桃子さんから、こんなにすばらしい挿絵を頂きました。
本当にありがとう御座います!!
…って、私が鶏太郎さんに差し上げたはずなのに私が得してて良いのか??


え〜。一応300Hit記念ということで300にまつわる話を。
キリ番を踏んだ鶏太郎さんのリクエストで「気まぐれ乗車券」ものです。はい。
いや〜、何を書きたかったんでしょうねぇ。私は。(自爆)
昔、長距離列車って言うと必ず、お弁当や冷凍みかんなんかを買い込んで、乗ったものです。
もちろん目的地に早くつくというのも魅力ですが、こういう車内での楽しみも鉄道旅行の楽しみの
一つではないかと思うのです。
新幹線で食堂車もビュッフェもハナから計画されなかったという1点で、300系には悪役(?)に
なってもらいました。
最近出張でしか新幹線に乗らないもので、良く実体は分からないのですが。
私は今の新幹線は冷たいイメージがするんですよね。

とりあえず、こんなものでもよろしければお納めくださいませ。鶏太郎さん。




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