〜落ち葉の中で〜
柔らかな日差しの中、学校脇の雑木林で私はイーゼルを立て、パレットを開く。
足元には鮮やかな落ち葉のじゅうたん。
折りたたみの椅子に腰掛け、目の前のモチーフに向かう。
赤や黄色といった派手な色彩ながら、何処と無く寂しさを感じられるのは今の自分のせいなのだろうか…。
日一日と秋が深まるにつれ、これらの木々は表情を変えていく。決して同じ色に留まることは無い。
同じ木、同じ葉であるはずなのに、刻々と変わっていってしまう。
当たり前のことなのに、受け入れがたい。せめて自分の絵の中ではこの一瞬を留めておきたかった。
何故、こんな気持ちになってしまったのだろう。
先週のことだった。
「ねぇ、カナも卒業したら東京に出るんでしょ?彼も東京の大学行くって言ってたし。」
クラスメイトの何気ない言葉に衝撃を受けた。
「え?それ、本人が言ってたの?」
「うそ!聞いてないの?この前の個人面談で第一志望は東京の大学だって。てっきり知ってるもんだと思ってたのに。」
「そう、なんだ・・・。」
このあと、クラスメイトが何を喋っていたのかは正直覚えていない。
頭の中が混乱して何も考えられない状態だったのだと思う。
彼の夢が歯科医になることというのは、かなり以前に聞いていたので医科歯科大学に進学するというのは分
かっていた。
ただ、何処の大学にいくのか。というのは、きっと私に真っ先に相談してくれるものだと思い込んでいた。
本気かどうかは分からないけど「私と一緒に高校生活送りたい」そんなちょっと子供っぽい理由で高校を
選んだ彼は、今度は自分の意思のみで自分の未来を選んだのだろうか。
彼の中で、私はどういう存在になってしまったのだろう…。
直接聞くのが怖くて、ここ1週間は彼を避けるように、過ごしてしまったのだ。
…どのくらいの時間が経ったろうか。ふと気付くと、あたりは薄暗く風も冷たくなっていたようだ。
バサッ
突然自分の肩に何かがかぶさってきた。
びっくりして振り返った先には…
「風邪でも引かれたら、たまらんから、の…。」
照れくさそうな仕草でたたずむ彼。
良く見ると上はシャツ1枚で、上着を私にかけてくれたのだった。
「横、座っていいじゃろか?」
返事もおぼつかないうちに私の隣に寄り添うようにしゃがみこみ、そして私のキャンバスを覗き込む。
「なんか、寂しい絵じゃの。」
何か、自分の心を見透かされたようで、慌ててキャンバスを隠す。
「そ、そうかな。そんなことないと思うけど…。」
「あのな。その…なんて言ったらいいか分からんのじゃが、らしくないって言うのかな、
見てて少し寒々しい
感じがするんじゃわい。んでな、そんな絵だってことはオレが
なんか仕出かしちまったのが原因なんじゃ
ないかなって。そう思って、な…。」
「…。」
「やっぱり、そうなんか?」
「どうして…、どうして話してくれなかったの?東京に行くこと。私には相談できない事だったの?」
「…怖かったんじゃ。」
「え?」
「カナはやさしいから、相談すればきっと一緒に来てくれると思ったんじゃ。もし、そうなったらオレは
すごく嬉しい。だけど、カナの夢は?カナはオレのことをいつも優しく見ててくれる。それに甘えちまって
カナの夢を邪魔しちまうんじゃないかって。そう思ったら怖くって。せめてオレのことなんか気にせずに
自分の夢に向かってくれたらって…。 そりゃ、離れちまったら市野や坂口みたいに上手くやってけるか
どうか、まだ自信はないわい。けどな、もしそうなったとしてもカナを想う気持ちに変わりはないし、
きっとカナもそうだと信じたいんじゃわい。」
なんてことだろう、彼は何より私のことを考えてくれていたのだ。
それなのに私は、勝手に彼の心が変わってしまったと思い込んで…。
「ゴメンね、本当にゴメンね。」
そう言うのが精一杯で彼にすがり付いて泣いてしまった。
「いいんじゃ、結局オレもカナを信じきれなくって黙って突っ走ったのが原因なんじゃし。」
私の頭を優しくなでながら、いいわけをする彼。
彼の腕の中はすごく暖かくて気持ちがいい。
この1週間の不安やわだかまりがゆっくりと解けていくような気がする。
「さ、そろそろ帰ろう。本気で風邪引いちまう。」
彼のその言葉に促され、イーゼルをたたみキャンパスをしまう。
「上着、返すね。寒いよね。」
「いいよ、着てろよ。オレは大丈夫だから。それより画材とイーゼル持つよ。」
片手に荷物をまとめ、もう一歩の手を差し出す彼。
迷わずその手を握ると、また彼のぬくもりが伝わってきた。
手をつなぎ、落ち葉のじゅうたんを踏みしめながら歩く。
ずいぶん前に私たちの恋は「秋の恋」だって親友が言ってくれた。
お互いの不安や寂しさに耐えるよう、火を燃やし、暖めあうことを知っている恋だと。
私は今日のこの出来事を決して忘れることはないだろう。
私たちの恋が「秋の恋」であると思い出させてくれた落ち葉の中での出来事を。
−終わり−
書き始めたのは1作目である「故郷を離るる歌」の直後ですが、上手く行かなくてずっと放置してました。
やっぱり文章書くのって難しいですね。
■雑文庫Topにもどる