Tattoo
 ──ああ、それな。
 そうだろ、ちょっといいデザインだろ?
 いや、違うよ、うちのオリジナルじゃない。元々は客が持ち込んだものなのさ。
 ──は? あんた、バカ言っちゃいけねえよ。俺ァ、もう十年近くもこの仕事をやってんだぜ。商売は何でもそうだろうが、大事なのは 技量 うで ばかりじゃねえ。信用だ。これが大切なのさ。
 あんただって、俺の評判を聞いたからここへ来たんだろう?
 そうだろ、あの男なら大丈夫だ、って、そういうな、形にならないものが大事なんだ。そんな俺が、いやしくも無断で客のデザインを横取りするようなことをするもんか。
 ──そうだ、もちろん、本人たちに許可をもらったんだ。その代わり、彫り代はもらわなかった。取引だよ、まっとうな。そうだろ。
 え? ああ、「たち」だ。二人連れさ、男のな。
 いや、違うよ、この辺の人間じゃないね。旅行者……なのかねえ。観光客じゃあなかったね。それは間違いない。そういう気楽そうな雰囲気じゃなかったからな。それどころか、ずいぶん思いつめた顔してた。
 ──うん、そりゃあんたと同じだ。俺の評判を聞いて来た、と言った。いや、珍しいことじゃねえよ。わざわざ俺を訪ねるために、他の街から来る人間はね。あんただってそうじゃねえか。……ああ、そうだろう。
 どっちもずいぶんハンサムだった。タイプは違うがね。背も高かった。片方なんて、たぶんありゃ2メートル近くあるだろうね。どっちも鍛えた身体をしてたよ。商売柄、そういうことには目端が利くんだ。モデルとか俳優とか……あるいはスポーツ選手なのかもしれん。俺は知らないがね。まあ、どちらにせよ、客に関してはあんまり詮索しないことにしてるよ。お互い、そのほうが平和ってもんだ。
 彼らは、こっちで用意してるやつじゃなく、自分たちの持ち込んだデザインを彫って欲しい、と言った。
 ああそうだ、誰かの名前を彫りたいだとか、好きな俳優がしてるのとと同じデザインで、だとか、もちろん自分でイメージした図柄で、とか、そんなことは良くある話さ。知ってるだろ、あの大ヒットした映画。そうそう、海賊の。あの後、あれと同じもんを幾つ彫ったと思う? そりゃもう、たいそうな数だよ。
 そんなだから、もちろん俺は承知した。正規の料金さえ払ってもらえりゃ、何だって彫るさ。それが俺の仕事だ。
 俺は、ああ、こりゃこいつらは恋人同士なんだな、と思ったよ。おんなじタトゥーを入れたいってことなんだろうってな。それもよくあることさ。お互いの名前入れたりな。外せる指輪なんかより、こっちのほうが意味が深い気がすんだろう。熱が冷めた頃に後悔することも多いんだが、昔も今も、人間の考えってのはたいして変わらないね。
 ──何だって? ああ、そいつらか。うん。「これなんだけど」、って紙を差し出したのは、背の高いほうだった。
 寸分たがわず、これと同じものを彫って欲しい、ってな。
 今あんたが見てるやつだよ。
 うん、長くこの仕事やってるけど、初めてみるデザインだったね。
  五芒星 ペンタグラム なんてのは珍しくないよ。 十字架 クロス だとか、骸骨だとか、蛇やドラゴン、もっとはっきり666の数字をデザイン化したものなんかね、定番中の定番だろ。何でか、こういう精神的なものに惹かれるんだよ。な。でっかいハーレーを乗り回してる奴が、ハーレーのタトゥーをするかい? しないだろ。人間ってのは、神秘的なものが好きなのさ。最近は漢字なんかも人気だな。オリエンタルな感じがいいんだろう。どうせ読めやしないからさ。
 いつだったか、日本語のわかる客が来て、いくつかの漢字の意味がおかしい、と忠告してくれたことがあったな。……まあ、本人が満足してるならそれが一番さ。そうだろ。
 でな、俺はそいつらの持ってきた図案を見て、一目で気に入っちまった。なんていうか……ピンと来たんだ。それは、いいもんだってな。この仕事を始めてから、そりゃあたくさんのデザインを見てきたさ。だからな、勘が働くんだよ。それは、いいものだ。
俺は、どうしてもそのデザインが欲しくなった。うちのメニューのひとつに加えたいと思ったんだ。
 それでな、その二人に言ってみた。そのデザインを、今後うちの店で取り扱わせてくれないか、って。もし、彼らのどっちが作ったシンボルだっていうなら、デザイン料を払ってもいい。それくらい気に入ったんだ。
 二人は、驚いた顔でお互いを見てた。そんなこと、言われるとは思わなかったって感じだったな。ちょっとしてから、大きい方が何か言いかけたが、それを背の低い方が(って言っても、普通の男よりはかなり大きいかったが)さえぎって、「デザインしたのは俺たちじゃないけど、探してきたのは俺たちだ。著作権料を取り立てるわけにはいかないが、その調査に見合う対価ってことなら、支払ってもらってもいいぜ」と言った。
「探してきた?」
 俺はちょっと警戒したね。デザインした人間がいるなら、そっちと交渉しなくちゃならない。
「古い図案さ。発案者からねじ込まれる心配はない。でも、俺たちに逃げられる心配ならある」
「ディーン!」
 大きい方が呆れたように言った。彼は、こういう交渉ごとが好きじゃないようだ。でも、俺は別にかまわなかった。古い図案だっていう彼の言葉に嘘はなさそうだったしな。
「いいよ。じゃあ、あんたたちの彫り代はチャラってことでどうだい?」
「……二人とも?」
「ああ」
 どうせ同じデザインだしな。
「何ならおまけもつけてやろうか? お互いの名前を入れるのはどうだ?」って俺は言ってやった。
「「はあ!?」」
 あんまり大きな声でハモるんで、こっちがびっくりしたよ。別に深い意味はない、ただ、恋人同士なら、そういうサービスをしてやってもいいかな、と思っただけだ。
 ──いや、違う違う、そうじゃなくて……ああそうさ、そもそも恋人同士、ってところがこっちの勘違いだったんだ。
 先に気づいたのはちっさいほう、ディーン、だったかな、そう呼ばれてたほうだ。またかよ、なんてぼやいたところを見ると、そういう勘違いをされるのは珍しくないことみたいだったがね。それで背の高いほうも気づいたんだろう、やたら慌てたように手を振って「兄弟です」って言ったんだ。
 ──そうなんだよ、兄弟だったんだ。驚いたね。だって全然似てないんだぜ。
 ……ああ、まあそうかもしれねえよ、でも、その後、そのディーンってやつが「お前が俺に似てないのが悪いんだ、サミー」なんて言ってたから、案外本当だったんじゃねえかな。だとすると、ちっさいほうが兄貴で、でっかいほうが弟なんだろう。俺んちもそうさ、弟のほうがでっかく育つんだ。面白いもんだよな。考えてみりゃ、俺だって、弟とはそれほど似ちゃあいないんだけどな。
サミーって呼ばれた弟のほうは弟のほうで「それは僕の責任じゃないだろ!」なんて言って、二人とも、こっちのことも忘れて兄弟ゲンカおっぱじめちまってさ、悪いけどちょっと笑ったね。
 兄弟でお揃いのタトゥーを入れようってんなら、よっぽど仲がいいように思うけど、そういうわけでもないようだったし……まあ、変わった客っちゃあ、変わった客だったよ。
 ──うん、そう、それで結局、俺はそのデザインを使ってもいいってことになって、そいつらにはタダでタトゥーをしてやったんだ。……さあね、もうこの街にはいないんじゃないか。そんな感じのする奴らだったよ。
 で、どうする? それ? そうか、ああいいとも、今のところ、俺のお勧めシンボルだからな。
 いや、幸運のお守りとかじゃあないらしい。何でもそのマークには、悪魔避けの効果があるとか言ってたな。──ああ、俺も見たことはないよ。悪魔がそうそうその辺をうろついてるようじゃ、世も末だ。まあ、たしかに最近物騒な事件が多いような気はするがね、ただの伝説だろう。ダビデの星だとか、四葉のクローバーみたいなもんじゃないのかね。
 だろ、四葉のクローバーよりゃ、こっちのほうがクールだろ。
 ……はは、でもそう言えば……。
 え? いや何、たいしたこっちゃない。
 別れ際に、あの兄弟の兄貴のほうが、「このデザインに人気が出たら、俺たちの仕事もちっとは楽になるかもな」なんて、弟に向かって笑ってたんだよな。
 いや、どういう意味かは聞き損ねたよ。言ったろ、客の事情には深入りしないのさ。あんまりマトモな仕事してるようじゃあなかったし……って言っても、悪い奴等じゃあないよ。それは違うね。客商売だからね、人を見る目はあるのさ。
 あいつらは、何て言うか──────ああ、まあいいか。あいにく、俺は信心深いほうじゃないからな、こんな俺がどうこう言っても、うさんくさいだけだろうから。天の御使いなんて、信じる性質じゃあないからな。
 さあ、それより、俺は俺の仕事にかかるとするさ。



END

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2008.10.14


タトゥーに萌え、──というより、二人してシャツをちらっとめくってみせたあの仕草にメロメロパンチです……。
うおおおぉぉぉ、揺れた! チラリズム魂の底まで揺さぶられた!
兄貴のパンイチより、弟のバスタオル姿よりそそられました(笑)。