| ソナタ CALCIO FOXさん→SPN→イラスト→10のイラストより捏造。S3の後。(ちなみにS4がどういう展開になってるのかは、全然存じません) |
──私の魂は、ちょうどあなたのかたちに欠けている。 「サミュエル・ウィンチェスター」 背後からの静かな声に、〈彼〉は首だけを振り向けて肩をすくめた。面倒くさい奴が来た、と広いスーツの背中が雄弁に語っている。 深夜の教会には当然ながら人の気配はなく、そこにあるのはしんしんとした静謐さだけだ。そこに立つ二人の青年は、粒子さえ乱すことなく闇に溶け込んでいて、仮に誰かが窓の外を通りがかったところで、彼らの姿を目に止めることはないだろうと思われた。 同じように黒いスーツに身を包み、けれど与える印象は驚くほど違う。 サミュエル、と呼びかけたほうは、だらしないと言えるほどネクタイを緩めて可能な限り着崩していたし、ダークブロンドの髪は短く刈り込まれて、つん、と天を向いてとがっている。彼の本質を思えば、ずいぶんと異質な格好だ。 彼らは神とヒトとの仲介者であり、ヒトを律し、導く仕事を与えられている。 だが、何であれ時代の流れというものはあるものだ。古典的な、白くずるずるした衣装より、いっそ今時はこうした格好の方が不審がられない、というのは事実である。 呼びかけられたほうは逆に、きちんと咽喉元までノットを押し上げ、癖のあるダークブラウンの髪も、ラフにではあるけれど整えられていた。 これもまた、彼の本質を思えば異質な格好だと言える。しかし古来、〈彼ら〉はそういった存在でもあった。純粋なる誘惑者であるがゆえに、見てくれにもある程度気をつかう必要もあるだろう。不思議と高位な存在ほど人間──それも秀麗な──のかたちを好み、その姿を長く保っているのは、その辺りが理由のひとつなのかもしれない。 通常、人間は、ダークブロンドのほうを「天使」と崇め敬い、ダークブラウンの髪をした青年を「悪魔」と恐れ蔑むことになっている。 真夜中の聖堂が天地の使者の邂逅にふさわしいかどうかはわからない。当人たちは別に気にしたふうもなかった。 「その名前で呼ぶのはやめろって言っただろ。もうとっくに捨てたんだよ」 横顔だけを見せて、悪魔は苛立たしげに片手を振る。消えろ、というサインは、けれど天使には通用しない。むしろ距離を詰められて、悪魔は祈祷席から立ち上がった。 「それ以上は近づくな」 警戒心をむき出しにされ、天使は困ったように首をかしげ、机三つ分の距離を空けてその場に立ち止まった。 「……前に、新しい名前を呼んだらお前は怒った」 「あれは僕の名前じゃない」 地獄で得た新しい名は、悪魔としての彼の「力」に付けられた名だ。個性ではなく、地位と能力を示すためのタグに過ぎない。 「なら俺は、お前のことを何て呼べばいい?」 「呼ばなくていい。言っただろ。近寄るな、話しかけるな、考えるな、関わるな。──あんたの前任者とその前の奴は〈堕ちた〉んだ。うかつに僕に関わるから」 「知ってる」 生前、サミュエル・ウィンチェスターと言う名の人間だった悪魔は、その裡に抱える孤独のゆえに強大な魔力を持ち、抗い難いほどの魅力を放つ。彼に必要以上に心奪われた者も、彼を必要以上に憎んだ者も、ともに彼の孤独に囚われて堕天した。 〈サミュエル〉は、悪魔に奪われた己の半身を探すために地獄へ堕ちたという。それが、恋人であったのか身内であったのか、それ以外の誰かであったのかは誰も知らない。知っている者はことごとく彼が葬り去ったからだ。 愛ゆえに自ら闇へと堕ちた彼は、地獄では異端者だった。地獄の先住者たちの多くは彼を愚かだと嘲笑い、そんな甘ちゃんはすぐに他の悪魔に食われてしまうか、誰かの下僕になって擦り切れるまでこき使われるかする羽目になる、と言った。 彼は、食われはしなかった。 他の悪魔の下僕にされることもなかった。 彼を笑っただけのモノたちは生きながらえたが、その行く道を妨げようとしたモノたちは、一体の例外もなく消滅させられた。 皮肉にも神の預言者の名を持つ悪魔は、周囲が舌を巻くほどの速さで力を伸ばしながら、地獄での地位にも、悪魔同士の権力抗争にも興味を示さず、ただ己の半身だけを探し続けた、と聞く。 そのためなら何でもやった。けれど、それ以外には何の悪さもしなかった。 天の御使いが、彼に接触するようになったのはそのせいなのだろうか。偉大なるお方の御意志は誰にもわからない。天使はただ命じられたことを果たすだけだ。 神の愛と己の罪を認め受け入れよ、と言う言葉に、サミュエル・ウィンチェスターは一度も反応しなかった。受け入れてしまえば地獄で見失った彼の半身を探すことができなくなる、と彼は言った。 一人目の天使は諦めた。二人目の天使も彼を見捨てた。三人目の天使は彼の傲慢を憎み、四人目の天使は彼の孤独を哀れんだ。 そうして、五人目。性懲りもなく自分の前に現れた新しい天使に対して、サミュエルは「近づくな」とそう言った。 「天国に帰れよ、ミスタ」 「イヤだね、トム」 「トム?」 「お前の言うことなんかきいてやらねえよ、ヘンリー」 「ヘンリー?」 「天使さまは、悪魔野郎の命令になんか従わねえんだ、ビル」 「…………」 どうやら、名を呼ぶな、と言われた天使は、好き勝手な名前で悪魔を呼ぶことにしたらしかった。ずいぶんと子供っぽい対応だ。 窓から降り注ぐの月の光に照らされて、どこか透き通りそうなほど白く見える天使は、その静けさに似合わない、悪戯小僧みたいな笑みを浮かべた。金緑の両目が、猫のようにきらめいているのは、彼が絶対に引かないと決めている証拠だ。 サミュエルの瞳がふらりと揺れ、ため息と共に、二人の間の緊張感がゆるんだ。 あまりに馴染んだ呼吸の合わせ方に、一瞬、 何百回、何千回と繰り返してきた、ありきたりの、ケンカとも言えないほどの小競り合い。自分はもちろん、相手の矛先の納め時さえも知っている。 停戦条約は無言のうちに結ばれ、悪魔は祈祷席に横向きに座り、天使は極めて行儀悪く机の端に腰を下ろした。短い沈黙で出方をうかがうのもいつものことだ。────こと、だった。 「前から訊いてみたかったんだけど」 「何だ?」 「天国の庭って、エメラルドが敷き詰めてあるって言うの、あれほんと?」 「……ああ。ごろごろしてて、たぶん、人間だと歩き心地はあんまりよくない」 「そう。でも人骨でごろごろしてるよりマシなんじゃないの」 人血でぬかるんだ地面とか、絶え間なく燃え盛る炎で歪んで見える視界とか、途切れることなく漂っている硫黄の匂いとか。 驚いて目を丸くする天使に、ああ彼は知らないのか、とサミュエルはそっと微笑んだ。 知らないはずはない。覚えていないだけだ。天使になるとき、地獄の記憶はすべて削除されてしまったのだろう。偉大なるお方とやらはさすがに気が利く、とバチ当たりなことを思ったのは、もう長らく天に背き続けてきたがゆえの習い性だ。 「ディーン」 ディーン、と悪魔はそっと天使の名を呼んだ。それは、サミュエルにとって、神の名よりもよほど神聖で侵しがたい響きを持つ名前だ。 狂気のように彼を呼び続けた頃があった。探して、探して、文字通り地の果てまでも探し尽くして見つからず、諦観と未練の間で揺れ動きながら、やがて少しずつ胸の内にしまうことが多くなり、いつしか唇の端にさえ乗せることもしなくなった。あまりに長い間そうして凍えさせておいたから、とうに朽ちてしまっているかと思ったのに、音にすれば変わらぬ瑞々しさでもって己の耳に戻ってきた。 たぶん、悪魔になりきっていなければ、みっともなく泣いてしまったことだろう。 もう、彼の目は涙を流すことはできない。そんな情はとっくに使いきってなくしてしまった。それを悔やんだことなどなかったのに、今この瞬間、泣けない自分の目を忌々しいと思った。 「サミー」 柔らかい低音が耳朶を打つ。捨てた名だ。どうして。兄が呼んでくれないなら、もう意味のない音でしかないから。 「サミー、お前は、」 俺を探してたんだろう、と天使が問う。イエス、と悪魔がうなずいた。 「だったら、どうして今さら救いの手を拒むんだ? お前……何を隠してる?」 隠し事などできないような狭い範囲での暮らしでも、兄弟が成長するにつれ、それぞれに秘密事を抱えるようになるのは当然だ。けれど、普通の家庭で親子の間柄がそうであるように、兄は弟の隠し事には聡かった。彼が初めてもらったバレンタインのプレゼントのことも、最初に好きになった女の子のことも、ガールフレンドとのちゃんとしたデートの約束も、その日の別れ際にファーストキスを経験したことも、全部知っている。知ってはいても知らん顔をしてやるのが年長者の務めというものだ、と思っていたから言わずにおいてやっただけだ。 長じて弟は取り繕うのがうまくなったが、屈託を抱えているかどうかくらいはわからないはずもなかった。 彩度の足りない光は、海中のように視界を淡い青色に染める。どこか非現実な世界で、呼吸さえ必要としない非現実な生き物でありながら、ひどく真っ当な強さでもって悪魔の秘密を暴こうとする天使に、サミュエルは場違いに明るい声をあげた。 「ねえ、あのさ、太陽の三十倍以上の質量を持つ巨大な星の最後を知ってる?」 「は?」 「それだけ大きな星だと、超新星爆発を起こした後も、自己重力が中性子の核の縮退圧を凌駕して重力崩壊を起こして──つまり、自分の重力に耐えきれなくなって、どこまでも縮んで行って、最終的にはブラックホールになるんだ」 「…………」 突然の話題転換は、記憶にある弟の話癖として珍しいものではなかったから、ディーンはその理由を問うことはせず、ただ質問の内容について考え、ゆるゆると首を振った。 「……知ってるだろ、俺には難しいことはわからねえよ」 「天文学の話をするわけじゃないから。今の僕は、終焉間近の巨星と同じようなものだってことを言いたいだけだ」 「? そりゃお前は並外れてデカいが、さすがに星とはるほどじゃあないぞ」 「サイズの話じゃない。──地獄に堕ちた後、僕には力が必要だった。必要だったから手に入れた。方法なんかどうでもよかった。とにかく、早く強くなりたかった」 力がなくては、地獄では生き延びることすら難しい。兄を探し見つけるために、弟は自らに何のタブーも設けなかった。虚偽も裏切りも破壊も誘惑も何一つ。あの頃犯した罪のリストで一冊の本が上梓できそうだ。しかし、もっとも許されないのは、結果ばかりを求めた挙句、その罪のすべてをきれいさっぱり忘れてしまっていることだと思う。一体自分は誰に対して何をしたのか、同類ばかりでなく、きっと人間にも被害者がいるはずなのに、顔も名前も性別さえも記憶にない。 申し訳ない、という気持ちは、けれど、正直こうしてディーンに会えていなければ、今も感じてはいなかっただろう。ああ、自分は正しく悪魔になったんだな、と今さらながらにそんなことを思った。 「長い──あんまり長い間、そうしてたから、もう必要なくなった今でも、僕の力は増大し続けてる。自分では止められないんだよ」 「……サミュエル」 「でも結局、〈核〉の僕は人間だ。魔力を取り込む容量には限界がある。いつか、暴走した自分の力に押しつぶされる日が来るだろう。必ず」 「……お前、」 悪魔の言葉は、ゆっくりと天使の耳に染み入った。彼の言わんとするところを理解して、ディーンは驚愕に目を見開いた。こくりと彼が息を飲む。 「それは、いつだ。いつの話だ、サム!」 「……わからない。明日かもしれないし、1年後かもしれない。もしかしたら、100年保つ可能性もある。それと同じだけの確率で、今この瞬間てこともあるんだ」 「サム!」 「来るな!」 一歩踏みだした天使を押しとどめるように、弟が手のひらをかざした。それと同時にばさっと夜気を払う音がして、悪魔の背が影を負う。左右に広がる一対の羽は、夜の闇にあってなお黒々と凝って見える。途端、先ほどまでの静謐さは失われ、目に見えるほどの荒々しい空気が聖堂内を駆け抜けた。 「よせ……、サ、……あっ……!」 天使が自らの肩を抱く。悪魔の力に引きずられるように、その背から大きな翼が羽ばたいた。夜目にも光る穢れなき白は、聖なる力の象徴だ。 二つの巨大な力は砂粒ひとつの差異もなく均衡を保って、二人の間に障壁を作る。弟の側から見たそれは水面のようにキラキラと光を乱反射し、兄の側から見たそれは、どこまでも底なしに黒い深淵だった。 この状態では、どちらかが力を振るえば、両者が共に同じだけのダメージをくらうことになる。イージィ、と天使は静かに呟いた。 「落ち着け、サム」 「僕は落ち着いてる。ディーンが僕に近づかなければ何もしない」 「サミー」 サミー、と柔らかく呼びかけるのは、兄が弟を懐柔するときのいつもの 今このときに、それを思い出せてよかったと思う。永遠の別れの前に。 サムはそろそろと頭を振り、そこに立つ兄の姿をじっと見つめた。長らく探し求めてきたひとの姿を、可能な限り覚えておきたかった。 「──僕は、僕が幸せじゃなかったなんて誰にも言わせない。あ……、諦め、かけてたんだ。もう、兄貴は見つからないんじゃないか、って、なのに、まさか、こんなかたちで再会できるなんて……」 どれだけ探しても見つからなかった兄が、天からの御使いとして自分の前に降り立った瞬間、驚きのあまり動いてもいない心臓が止まりそうになった。 もう、すでに魂までが綻びて失われたのではないかと恐れていた。絶望してはならないと自らを叱咤しながらあてのない捜索を続けて、そう言い聞かせることにも疲れ果てて。 「ディーンがあの場所から救われてたなんて、まさか、そんなこと思わなくて……僕は、嬉しかったんだ、ディーン。本当に、嬉しかった」 だから、もういいんだ、とサムは言った。 「もういい。僕は地獄へ帰るよ」 消滅するその時まで、そこにいる。もう地上へは出て来ない。最期の瞬間がどんなふうに訪れるのかはわからないけれど、兄を見つけられなかったという後悔をせずにすむなら、それがどんな形の「死」であれ、恐ろしいとは思わなかった。 「サミー、まさかお前は、」 ディーンは天使らしくない、不機嫌をあらわにした顔で弟の顔をにらみつけた。 「──そんなこと、俺がお前にさせると思ってるんじゃないだろうな」 「させるさせないの問題じゃないんだよ、ディーン。もうディーンにできることは何もないんだから」 サムが地獄に戻ってしまえば、神の御使いたる兄は、決して彼を追っては来られない。悪魔が決して天界には入り込めないように、天使は天使のまま地獄へ堕ちることはできない。それが天魔の厳然たるルールだ。むろん、アルマゲドンでも引き起こす気なら別だけれども。 「もしお前が本気で俺の目の届かないところで消えるだなんて言うなら、」 「本気じゃないわけがある?」 「俺は自分の翼をひきむしってでも、お前について行くからな」 「は!?」 とんでもないことを言い出した兄は、しかしどこまでも真剣だ。 淡々と告げられた決意は、激昂していないだけに本気だとわかって恐ろしい。 悪魔を脅えさせるのは天使の務めではあるけれど、それはこういう意味ではないはずだ。 勘弁してくれと、上級悪魔でさえ一目おくほどの地位にある〈サミュエル〉は、途方にくれたように天を仰いだ。 「ディーン……ディーン、それじゃ僕たち、まるきり以前と同じだ。死んでから後、 愚かというにも、あまりに愚かだ。何一つ学習してない。 しかし、強気な天使はそれがどうした、とあっさり言った。 「死んでようが生きようが、天使だろうが悪魔だろうが、俺たちが存在し続ける限り、俺は兄貴でお前は弟だ」 「……もう兄弟じゃない」 「兄弟だ。しょってる羽根の色が違うくらいじゃ、変わったなんて言わせねえぞ。少なくとも俺は、『そうか、じゃあそのときが来るまで達者で暮らせよ』なんて、お前を見送るためにここにいるわけじゃないんだ」 ディーンは弟の胸に人差し指をつきつけ、Never、と強い調子でそう言った。 「俺なら、お前の力を止められる。きっと止められる。暴走なんて絶対にさせない」 「ディーン……」 そんなやりとりさえ、既知のものだ。兄はいつでもそうだ。お前は俺が守る、と言う。俺がいる限りお前は大丈夫だ、と。 何の根拠もないくせに、自信に満ちた言葉は魔法のようだった。 彼がいれば、どんなに絶望的な状況でも、サミュエルは心の底では希望を失わなかったし、歩く道を見間違えたりはしなかった。 そうして、たいがいの不可能はなくなった今でさえ、兄の言葉はどんな魔力よりも強力に弟を呪縛する。兄の言葉に弟が揺らいだ拍子、きん、と、ちいさなガラスが砕けるような音をさせて、障壁が消えた。 迷いのない足取りで二人の距離を詰める兄を、サムはもう、留めることは出来なかった。 昔も、そうだった。近づくなよ、と反抗期の弟が兄を邪険にしても、彼は笑ったり、いなしたり、真面目ぶったりしながら、いつの間にかするりと弟の側まで来てしまう。 ちょうどこんなふうに。 伸ばされた手に、サムは反射的に目を閉じた。 ──どれだけか、もう年数を数えることもできないほど久しぶりに頬に触れたディーンの手のひらは、生前と変わらず温かで、すこしばかり無骨で乾いていた。 「……大丈夫だ、サミー。俺が何とかしてやるから」 きっと、そのために自分はここに遣わされた。そうでなければ、神など信じておらず、いっときは悪魔に魂を売り渡しさえした自分が、天使などと柄でもないものに生まれ変わるはずもない。 違うと言われたって知るもんか。詳細な仕事内容を伝達しないほうが悪い。自慢じゃないが、俺は現場で臨機応変に仕事をするタチなんだ。 「……そんなこと言って……神の、怒りに触れたら、どうするんだよ……っ」 「バカサム、お前がいなけりゃ、天使も悪魔も世界の未来も俺には関係ないんだよ」 人でなくなっても、馴染んだ身体の大きさは変わらない。自分より上にある弟の頭を抱きしめて、癖のある髪をくしゃくしゃとかき混ぜながら、兄は兄の知るただ一つの言葉であるように、大丈夫だと囁いた。 「俺がお前を助けてやる。誰が見放したって、俺だけはお前を見捨てるもんか」 かわいい、大切な弟なのに。 「ディーン……っ、…………ディー、ン………っ!」 ディーンの身体にすがりついたまま、ゆっくりとサムの膝がくず折れる。 皓々と降り注ぐ月光の中、悪魔の目から生まれ出た涙は、兄以外の誰にも知られないまま、静かに教会の床へと吸い込まれていった。 END |
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| 2009.2.15 ピアノソナタ第14番嬰ハ短調「月光」。 悪魔になっても、弟は弟でした……。すいません……。 |